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【120カ月目の浪江町はいま】「原発事故被害など伝わらぬ」コロナ禍で強行された聖火リレー 演出づくめの虚飾イベントに町民も「???」

夏の東京五輪へ向けた聖火リレーが25日、福島県で始まった。原発事故で町内在住者が1600人に激減した浪江町では、昨年オープンした道の駅までのわずか800メートルを3人でリレー。家屋解体によるさら地が増えた町の現実や帰還困難区域住民の苦悩、町立学校解体など原発事故被害にふたをした虚飾イベントに町民からは疑問の声があがった。コロナ禍で感染拡大を不安視する声が多い中での強行。「原発事故から立ち直った福島の姿を光と影の両面から国内外に発信する機会」(内堀雅雄知事)としての聖火リレーは、13分ほどで町を通り過ぎていった。

【外された解体番号】

 終了後の記念撮影を含めてもわずか13分。これが「浪江町の今」を国内外に発信する機会としての聖火リレーに費やされた時間だった。

 環境省による公費解体が決まっている町立浪江小学校前をスタートし、昨年8月に開業した「道の駅なみえ」までの約800メートルを3人でリレーした。沿道には部分的には「密」になっている箇所もあったが、全体としては決して人出は多くなく、スポンサーが用意した〝応援グッズ〟が余ったほど。運営関係者や警察官、取材者の姿ばかりが目立った。

 浪江町ではこれまで、「オリンピックと復興は関係ない」との声を何度も耳にした。聖火リレーを通して発信されるのは町役場周辺の「きれいに整った」場面ばかり。家屋解体でさら地だらけになった町の現実や、帰還困難区域のバリケードなどは映らない。聖火ランナーや駆け付けた知人の表情が「笑顔であふれる」のは当然で、その裏にある「原発事故で津波犠牲者の捜索すら出来なかった悔しさ」や「自宅も母校も人とのつながりも地域の祭りも奪われた哀しみ」は覆い隠された。

 2月末時点で町内に暮らしている人は約1600人。そのまたごく一部が参加した聖火リレーだった。最終ランナーを出迎えたのは請戸漁港関係者が掲げる大漁旗と、なみえ創成小・中学校の子どもたち。震災・原発事故も感染症も現在進行形のまま、「明るく」、「前向き」な演出が突風のように通り過ぎて行った。

 「演出」。そもそもが演出だらけだった。

 聖火リレーが出発した「Jヴィレッジ」では相馬野馬追も披露されたが、総大将を務めたのは浪江町出身の自民党県議・吉田栄光氏。それだけで〝復興五輪〟の性格が分かると言えよう。また、浪江小学校では解体番号が記された看板が撤去されていた。町教委関係者は「撤去されていた事も知らなかった。誰が外したのか…。見た目を考慮したのでしょうか」と話したが、「光」の部分ばかりを発信したい意思の現れだった。

聖火リレーの出発地となった町立浪江小学校では、少なくとも今月12日までは設置されていた解体番号の書かれた看板が撤去されていた。都合の悪いものを覆い隠して行われた聖火リレー。「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳さんは街宣車を走らせ「」と訴えた

【「別の町になっていく」】

 「3・11」から一夜明けた今月12日。聖火リレーコースからほど近いさら地にグレーのシートを張っている女性がいた。「雑草が次々と伸びてしょうがないので、雑草防止のためにやっているんです。きょうだいもいるのですが、出来る者がやらないとね」。墓参のたびに、伸び放題になった雑草に困っていたという。

 夫とともに埼玉県から車で来たという女性。ここには親が住んでいる家があった。ここには生活があった。何ら演出などしなくても、笑い声があった。人が生きている音があった。しかし、原発事故後に解体を余儀なくされた。聖火リレーコースからは全く目に入らない町の現実があった。

 「この辺は、さら地だらけになってしまいましたね…。あそこも解体、こっちも解体。来るたびに景色が違うんです。私の知らない〝別の町〟になっていくようです。家もなくなりました。本当に悔しいです」

 町内に原発は無い。「立地地の恩恵」など無かった。逆に、爆発で大量拡散した放射性物質が降り注いだ。女性は「原発は絶対反対です」と語気を強めた。

 「大反対です。何があっても反対します。東電は嘘つきだしね。オリンピック?聖火リレー?そんなもの全然…」

 女性はそう言って、再び作業を始めた。もちろん、聖火リレーを心待ちにしている町民もいる。沿道には「暗い話ばかりでは気が滅入る。潤いが欲しい」と避難先から駆け付けたおばあちゃんもいた。ベテラン町議は「震災だウイルスだなんて言っていたら何も出来ないよ。皆で1つの行事に向かって進むのも大事。元の町には戻らないのだから…」と語った。しかし、その「前向きさ」の陰で切り捨てられていく町民もいる。いまだ帰還困難区域に指定されている津島地区の住民は、道の駅に置かれたノートにこう綴った。

 「おはか参りの帰りです。10年たちますが、むなしいきもちでいっぱいです。いつになったら、このきもちが変化するのか?」

 著名人が走ったとしても、その苦悩は伝わらない。

解体後のさら地に雑草防止シートを張る女性。「来るたびに景色が違う。私の知らない〝別の街〟になっていく」と口にした。聖火リレーの演出からは、女性の苦悩や帰還困難区域住民の悔しさは伝わらない。福島第一原発から約10km離れた「佐屋前公民館」のモニタリングポストは0・2μSv/hを上回っている

【「五輪どころでねぇぞ」】

 聖火リレーを見ようと沿道に人々が集まり始めた頃、道の駅や浪江小学校周辺に叫ぶような声が響いた。「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳さんの街宣車だった。

 「コロナパンデミック第4波。今度は半端じゃねえぞ。何がオリンピックだ。出来るわけねえだろ」

 沿道の人々の中には顔を曇らせ、嘲笑する人もいた。だが、吉沢さんは交通規制が始まるまで、何度も声をあげた。

 「オリンピックの後に原発汚染水が海に流される。請戸の漁業は、もうおしまいだ」

 「オリンピックどころでねぇぞ、オリンピックは中止だ。本気で言ってるんだぞ」

 「ヨーロッパで全世界で、何百万人もの人々が感染症で死んでいる。他人事じゃねえぞ、今度は日本の番じゃねえか」

 隣県の宮城や山形では感染者数が急増。本当に「五輪どころじゃない」状況になっている。

 「コロナ克服五輪?嘘を言うな。皆さんも分かっているだろう」

 「ワクチンはどうなっているんだよ。医療体制もお手上げじゃないか」

 浪江小学校の前でも叫んだ。

 「町中がさら地だ。『さようなら浪江町』だ。もう元には戻らない。何が復興だ」

 「人が戻って来ないのに、なぜ『復興』と言えるんだ。さら地じゃないか」

 「俺の表現間違ってますか?おかしなことを言っていますか?」

 町立学校の解体工事は既に始まっている。母校も奪うのが原発事故。その現実を覆い隠す五輪や聖火リレーに何の意味があるのか。コロナ禍で強行して感染拡大につながらないのか。多くの疑問に誰も応えぬまま、福島県内での聖火リレーは27日まで続く。

(了)

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