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「防衛計画の大綱」のキーワードを読み解く 山口 昇(防衛大学校教授)

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2010年12月17日、安全保障会議及び閣議で決定された「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下新「大綱」)には、いくつかのキーワードがある。『動的防衛力』、『世界の平和と安定への積極的な貢献』、『シームレスな対応』は、いずれも、新「大綱」が目指す政策を進める上で鍵となる考え方を示している。これらのキーワードは、新「大綱」策定を巡る幅広い議論の過程を凝縮している反面反映したエキス(エッセンス?)であるためが、それら自体が正確に何を意味するのか自明であるとはいえず、新「大綱」を巡る議論の文脈全体の中でとらえることが大切である。以下は、これら3つのキーワードについての考察をまとめ、今後、新「大綱」に基づいて安全保障・防衛政策を進めていく上での議論の一助にしようとするものである。

『動的防衛力』



新「大綱」は、「即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた『動的防衛力』を構築する」としている。ここでいう『動的防衛力』は、新民主党政権下ではじめて策定された「大綱」を象徴するキーワードとして、防衛力を整備・運用していく上での考え方を代表する言葉概念にとなるものと考えられる可能性が高い。一方、『動的防衛力』という表現自体は抽象的であり、新「大綱」を巡る議論の中から具体的に意味するところを読み取っていくことが必要である。

この表現の出発点は、新「大綱」策定に先立って首相の諮問機関として異なる時期に設置された二つの有識者懇談会の報告書にある。2009年8月に発表された報告書「安全保障と防衛力に関する懇談会報告書」では初めて「動的抑止」という表現が使われ、、その後の政権交代を受けて後改めて設置された懇談会のが2010年8月に発表した報告書「新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想―平和創造国家を目指して」(2010年8月発表)でも、この表現はが踏襲された。そこでは、「高い部隊運用能力を明示することによる『動的抑止』」の重要性が認識され、「装備や部隊の量・規模に着目した『静的抑止』」の考え方から脱却する必要性が指摘された。した。新「大綱」策定作業に先立って首相の諮問機関として設置された有識者懇談会が昨年8月に発表した報告書「新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想――平和創造国家を目指して」にある。この報告書は「高い部隊運用能力を明示することによる『動的抑止』の重要性が高まっている」として、「装備や部隊の量・規模に着目した『静的抑止』」の考え方から脱却すべきだとしている。新「大綱」も同様に、「防衛力の運用に着目した『動的な抑止力』を重視していく必要がある」としている。

新「大綱」が提唱する『動的防衛力』の概念は、二つの点において1976年に策定された「大綱」以来踏襲されてきた『基盤的防衛力』構想からの脱却出発を目指している。その第一点は、防衛力の存在自体による抑止効果を重視した考え方から脱却し、防衛力を運用する、つまり動かして見せることによって『動的な抑止』を目指すということである。
この背景には、防衛力を運用する、つまり、動かして見せることによって『動的な抑止』を目指すということの意味が大きくなってきたという事情がある。例えば、離島周辺での領海・領空侵犯のように、我が国の主権が侵害されるような事態を誘発しないためには、新「大綱」が指摘するように「平素から情報収集・警戒監視・偵察活動などを通じて我が国の意思と高い防衛能力を明示」することは効果がある。また、動的防衛力は、米国と事態の推移に応じてシームレスに米国と連携・協力できる態勢の強化や、自衛隊と米軍の相互運用性を向上させることにより、日米同盟の運用の強化にも寄与する 。また、情勢の推移に応じてそのような活動をさらに活発化させ、あるいは、特定の地域に集中するようなことを通じて、抑止効果を高めることもできる。

もう一点は、重点を設けたメリハリのある部隊配備部隊配備防衛力整備への転換ということである。

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