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徹底解析 原子力発電所事故と被災者ニーズの実像(2/2) 岡本正

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―― 未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは、「人間の被害」の全容について、専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者・被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ、被害者の救済・支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに、原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるか、その詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう。

 (2012年7月23日、東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)最終報告書「Ⅳ総括と提言」(431頁)より抜粋)

原子力発電所事故に関する相談内容を徹底解剖

原子力発電所事故に関するリーガル・ニーズの増加の真因を探るべく、データ・ベース(日弁連「東日本大震災無料法律相談分析結果(第5次分析)」)をさらに深掘りする。【表1】は、「22 原子力発電所事故等」に関する法律相談内容の詳細分類を行った結果をまとめたものである。この分類は、「22 原子力発電所事故等」に関する法律相談のうち、4960件(2011年3月から12月初旬までの相談事例)のデータ・ベースの中身を、筆者が1つ1つ検討し、事案を特徴づける「キーワード」を抽出する方法で行った。

【表1】「22 原子力発電所事故等」に関する法律相談内容の内訳リンク先を見る

【図4】は、【表1】の分類に基づいて、福島県における「22 原子力発電所事故等」に関する法律相談内容の内訳をまとめたものである。「損害賠償」に関する内容が最大多数を占めていることがわかる。
一方で、「契約」、「避難生活」、「賃貸人からの相談」、「賃借人からの相談」等、様々な内容が混在していることもわかる。損害賠償責任を追及するという以前に、私人間の契約や、避難生活の支援、生活再建等の多岐にわたる問題が、原子力発電所事故の影響で発生しており、損害賠償だけでは被災者の生活再建や地域の復興が完了しないことを表しているのではないだろうか。

【図4】「「22 原子力発電所事故等」に関する法律相談内容の内訳(福島県)リンク先を見る
 

損害賠償紛争に関するリーガル・ニーズの高まり

【図5】は、「22 原子力発電所事故等」に関する法律相談内容の内訳の推移をまとめたものである。これによると、全体を通じて最も割合が高いのは、「損害賠償」に関する相談であるが、その損害賠償の相談を時系列でみると、大きく変動していることがわかる。

【図5】「22原子力発電所事故等」に関する法律相談内容の内訳の推移(福島県)リンク先を見る
 
まず、原子力発電所事故直後の2011年3月には、「損害賠償」の割合は44.9%であったが、4月には31.6%に減少している。その後、当該割合は急増し、11月には93.3%にも達している。

福島県における「22原子力発電所事故等」のリーガル・ニーズの高まりは、原子力損害賠償紛争に関するリーガル・ニーズが牽引したことが明確になったといえる。

そもそも「損害賠償」が高い割合を示しているのは、弁護士に対する法律相談ということから、明確な損害賠償請求の意思をもっていた被災者からの相談が集中したことによると考えられる。特に、3月にその傾向が顕著であったと考える。

一方で、3月〜4月中旬までの避難指示や屋内退避指示により避難を余儀なくされた被災者は、賠償問題よりも、身の回りの財産や契約の問題(住宅ローンの支払いの問題、家賃の支払いの問題)、避難生活全般の問題(各種支援制度の問い合わせ)に関心があったため、「契約」、「避難生活」、「賃借人からの相談」の割合が一定程度高くなったと考えられる。

まとめ ―― リーガル・ニーズの分析結果を政策へ活用

今回は、福島県におけるリーガル・ニーズのうち、「22原子力発電所事故等」に関するものをクローズ・アップして紹介した。その結果、以下の事柄が一定程度は実証されたと考える。

1.事故当時の住所地が福島県の相談者の、最大のリーガル・ニーズは「原子力発電所事故」に関する問題であること。
2.原子力発電所事故によるリーガル・ニーズが急増していた真因は、被災企業や個人の間で、『放射線やその風評被害の広域化が明確に認識されてきたこと』及び『多くの紛争の本質的な解決には、原子力損害賠償紛争の解決が不可欠であるとの認識が浸透していったこと』にあること。
3.原子力発電所事故による被災者にとって、「損害賠償」問題が最大のリーガル・ニーズであり、時間経過によるニーズの急増を牽引していたこと。
4.損害賠償問題だけに帰着しない、様々な種類の困難が存在していること。
これらは、いずれも4,000件を超える原子力発電所事故の被災者の声から実証的に導き出されたものである。分析結果が、今後の原子力発電所事故の被災者支援政策等に貢献できることを願う。(完)

本稿について

本稿は、小山治青山学院大学助手・日弁連研究員と筆者とによる、以下の共著論文を、日弁連の報告書「東日本大震災無料法律相談情報分析結果(第5次分析)」に基づいて数値をアップデートし、加筆・再構成したものである。

小山治・岡本正(2011)「東日本大震災における原子力発電所事故等に関する法律相談の動向 : 被災当時の住所が福島県の相談者に着目して」(自由と正義、Vol.62-13)http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/special_theme/data/lj2011_12.pdf  小山治・岡本正(2012)「東日本大震災における原子力発電所事故等に関する法律相談の内訳とその推移 :「損害賠償」等に着目した詳細解析」(自由と正義、Vol.63-1)http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/special_theme/data/lj2012_1.pdf 岡本正・小山治(2012)「東日本大震災におけるリーガル・ニーズと法律家の役割−無料法律相談結果からみえる被害の実像」(3.11大震災暮らしの再生と法律家の仕事、日本評論社)
なお、本稿は、筆者が所属する団体等の見解ではなく筆者個人の学術的見解に基づくものであることを念のため申し添える。

岡本正(おかもと・ただし)
1979年生。神奈川県鎌倉市出身。弁護士(田邊・市野澤法律事務所)。2001年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、司法試験合格。2003年から現事務所に所属。

2009年10月から2011年10月まで内閣府行政刷新会議事務局に出向し、上席政策調査員として国の行政改革に関与。2011年4月から12月まで日本弁護士連合会災害対策本部嘱託室長を兼務。慶應義塾大学に「災害復興法学」を創設し、2012年4月から講座を受け持つ。

福島大学大学院東京サテライトの非常勤講師にも招聘されている。2013年4月からは、慶應義塾大学法学部にて「災害復興と法Ⅰ・Ⅱ」を開講する。中央大学政策文化総合研究所客員研究員、中小企業庁認定経営革新等支援機関、日本組織内弁護士協会理事、実務公法学会理事、日本災害復興学会所属。著書に「3.11大震災 暮らしの再生と法律家の仕事」(共著、日本評論社)など。

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