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三浦瑠麗「与党がどれだけ失言を繰り返しても立憲民主党が選挙で勝てない理由」

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日本の最大野党である立憲民主党は、政権交代を果たせるのか。国際政治学者の三浦瑠麗氏は「価値観調査で明らかになったのは、投票行動に最も影響する政策が実は外交安保であること。立憲民主党のリベラル路線は、外交安保リアリズムをとる多数の有権者を遠ざけている。これでは政権交代は難しいだろう」という——。(前編/全2回)

※本稿は、三浦瑠麗『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)の一部を再編集したものです。

立憲民主党の定期党大会で、オンラインの参加者に壇上から手を振る枝野幸男代表(中央)ら立憲民主党の定期党大会で、オンラインの参加者に壇上から手を振る枝野幸男代表(中央)ら=2021年1月31日、東京都内のホテル - 時事通信フォト

政治的価値観が「定食メニュー化」しにくい日本

政治化したイデオロギーや価値観には、異なる人びとを結び付け、互いに連帯感を持たせる効果がある。実際には対立がないはずの分野で、政党の対抗意識によって新たな対立が生まれ、分断が深まることもあれば、政党が複数の価値観を結び付けて定食メニュー化を図ることもある。

前出のトランプ現象の場合は、人々の社会的価値観をめぐる対立の方が根深いことを的確にくみ取った結果、選挙における中心的なメッセージが社会保守的主張と中道の経済政策の組み合わせとなった。これは共和党が民主党に歩み寄ったのではなくて、分断の力点を経済から社会問題へと動かした例である。

ところが、社会的イデオロギーが分極化していない日本ではそもそも「価値観の定食メニュー化」が成り立っていない。その結果、有権者が「教化」されにくく、革新勢力のなかに女性差別が残ってしまったりする構造がある。

例えば、主に女性の管理職登用など女性の地位向上に関心を持つ人と、男性の非正規雇用が増え所得が下がっていることを問題視する人は、政党所属意識が乏しい日本の場合、本人たちがよほど政治意識の強い人でない限り交差しにくい。

しかし、米国においてはおそらく両者ともに民主党を支持する結果として、前者が高額所得者への課税強化に関心を持ったり、後者が女性のエンパワメントが重要な課題であることを受け入れたりするような変化が起きる。それは、イデオロギーに基づく「やせ我慢」が本音に打ち勝つという構造があるからだ。

SNSによってバランス感覚を失った政治家

日本でも、野党の政治家が社会リベラル化しつつある。

政治家の発言や東大・朝日新聞アンケートに対する政治家の回答の変遷を見れば、野党が社会問題の党派化を試みているのは明らかだ。一方で、自民党の政治家は政権を担うようになると社会保守から中道へと近づく。それは、与党の支持者が社会的には多様だからである。

米国ならばそのような現象はなかなか起きにくく、むしろトランプ大統領などは中絶などをめぐって自らの従前の立場よりも社会保守化する傾向がみられた。日本のテレビ局は放送法上、公正・中立を旨とした放送をしなければならないことになっているが、有権者もその延長線上の感覚で、まるでテニスの審判のように政治を見ている。具体的な政党に自らを投影するほど政治を自分事としてみる人はごく一部にすぎない。

しかし、情報化社会の進展によって一部の空間では雰囲気が様変わりしている。大手マスメディア以外に情報収集・交換する場ができ、SNSの登場により個々人の意見が公開の場で晒されるようになった。人びとが直接意見交換し、政治家もツイッターで一般人とやり取りをする。

こうした言論空間に触れていると、政治家はイデオロギー化しやすくなる。SNSで政治的な発信をしている有権者はごく少数であるのに、政治家はそれを支持者の代表的意見だと勘違いしがちだからだ。もちろん、同じことが政治家の個人後援会や支持組織との交流についても当てはまる。日頃、接している人が政治化された少数の人であればあるほど、世論の理解が偏ったものになりがち、というように。

自民党と立憲民主との支持層はほぼ変わらない

しかし、実際には、有権者は政治家が日々触れ合う存在よりももっと広大で多様である。図表1を用いて考えることにしたいと思う。

自民・立憲投票者(2019参院選比例代表)の価値観分布(経済×社会)日本人価値観調査より
出所=『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』

図表1は、図表2の「日本人価値観調査」の分布図のうち、2019年の参議院選挙の比例代表で自民党に投票した人を赤に、立憲民主党に投票した人を青にそれぞれ色分けしたものである。

日本人価値観調査による有権者価値観分布(経済×社会)
出所=『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』

自民党は社会保守的政党だと考えられがちだ。しかし、図表1の左のグラフを一瞥して分かるように、社会的価値観はバランスよく保守とリベラルに分散している。横軸で見ると、経済的には保守寄りの支持者を多く抱えていることが分かる。

図表1の右のグラフでは、その自民党投票者の上に立憲民主党への投票者を重ねて散布図を作成しているが、これが示すように、両党の支持者の分布にはほとんど違いはない。米国のように、経済リベラルに大きく振り切れた有権者の塊がいるわけではないし、立憲民主党支持者は自民党よりも僅かに中道リベラル寄りの傾向を示しているにすぎない。

社会的にもリベラルから保守まで幅広い。米国の有権者が共和党と民主党できっぱりと価値観が分かれているのに比べると対照的だ。

日本人の社会的価値観は大きなバラつきがない

2019年の参院選での比例代表への投票行動は、経済政策×社会政策をめぐる価値観では切り分けられない。経済政策に関わる価値観は、自民党に対する高評価層の方が成長重視で、低評価層の方が分配重視だが、参院選での投票行動と関連付けて一人一人の価値観分布を見れば、自民党投票者も立憲民主党投票者も価値観がばらけているのである。

つまり、経済と社会に関わる価値観だけで見ると、経済成長を重視する人は自民党に投票する可能性が高く、成長をそこまで優先度の高い項目と考えない人は立憲民主党に投票する可能性が高いということが確率論として言えるが、その確率はさほど大きな差ではない。

立憲民主党はここしばらく社会リベラル的価値観と分配強化の二つを強く打ち出してきているが、必ずしも集票効果にはつながっていないということである。

そこで、社会的な価値観をめぐる回答結果が自民党への評価にどのような違いをもたらしているのかを見てみよう(図表3)。

社会的価値観をめぐる党派対立の現状
出所=『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』

4本の折れ線グラフは、それぞれ自民党をどれだけ評価するかでグループ分けして、グループごとに設問への回答の平均点を示している。プラスは設問に対する賛成を、マイナスは反対を意味している。

簡単に言えば、4本の線が互いに離れるところが党派的な対立が大きいところで、くっついているところが党派的な対立がない日本人の平均的価値観が支配する領域ということになる。

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