- 2021年03月24日 10:34 (配信日時 03月24日 09:15)
テスラがトヨタを抜いて「世界一の自動車メーカー」になれた3つの理由
1/2米テスラは、株式時価総額でトヨタ自動車を抜き、現在「世界一の自動車メーカー」となっている。東京大学で起業支援に携わる馬田隆明さんは「これまでビジネスでは課題(イシュー)や問いの質を上げることが重要とされてきたが、これからはテスラのように『インパクト』を実践することが求められる」という――。
※本稿は、馬田隆明『未来を実装する テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(英治出版)の一部を再編集したものです。

SpaceX社のオーナーであり、Tesla社のCEOであるイーロン・マスク氏が、2020年12月1日にベルリンで開催された「Axel Springer Awards」授賞式のレッドカーペットに到着し、ポーズ - 写真=AFP/時事通信フォト
テスラ、スペースX、パランティア…公共が大きなビジネスになる時代
ビジネスの1つの大きな流れとして着目しておきたいのが、かつてであれば政府が取り組んでいたような公益に利する事業に取り組むスタートアップが増えてきていることです。
トヨタ自動車を抜いて「世界一の自動車メーカー」になったテスラを筆頭に、スペースX、パランティアといった企業が世間をにぎわせています。テスラはエネルギーの変化を生み出そうとし、スペースXは宇宙開拓を進めようとしています。パランティアは政府系を中心としたビッグデータ解析を行うスタートアップです。
これらの企業はB2C、B2Bではなく、政府や自治体(ガバメント)にサービス提供を行う「B2G」や、ビジネスを使って公共(パブリック)に貢献する「B2P」とも言える領域でのスタートアップです。この数十年、新自由主義やニューパブリックマネジメント(NPM)の台頭などで政府の機能が次第に小さくなるにつれて、かつて行政が行っていたサービスを民間が徐々に請け負うようになってきています。
その結果、公共に近い領域で新しいビジネス機会が生まれています。そしてこうした領域も規制と関わることになるでしょう。また並行して、民間企業による社会貢献が、投資家や市民から本格的に求められ始めています。
従来も企業は社会貢献活動をCSR(企業の社会的責任)という文脈で実施していました。しかしそれはビジネスにとっては本流ではない領域での活動が主でした。しかし昨今はESG投資(環境、社会、ガバナンスを考慮した投資)やSDGs(持続可能な開発目標)などの流れを受け、ビジネスの本流において社会貢献が求められ始めています。
ESG投資が盛んになることで大きく変わったことは、企業の価値評価の方法です。かつては財務のみによって行われていた企業の評価が、今では財務だけではなく、SDGs等の社会課題への取り組みや、ESG関連のレポートや評価レポート、NPOやNGOなどの団体からの訴訟を抱えていないかについて調べたうえで、機関投資家が投資対象とするかどうかを決めていく、という流れに変わりつつあります。また利益以外に人と地球環境を考慮する、トリプルボトムラインという企業評価のフレームワークも注目を浴びています。
CSR部門だけでなく全社員が社会貢献に関わる状況へ
こうした流れに渋々ながら付き合う企業や、形だけ従うような企業もいるでしょう。しかしこれを新たなビジネス機会だと捉えて動き始めている企業もあります。社会的な課題解決が事業機会につながり、さらにそれが投資を呼び込んで新たな事業機会へとつながっていくという循環が生まれ始めているからです。
この循環がさらに進めば、社会貢献に熱意を持つ良い人材もその企業に集まり、さらに企業の競争力が高まるという好循環にもつながるでしょう。
また2011年以降、戦略論で著名なハーバード大学のマイケル・ポーターにより戦略的CSV(共有価値創造)の考え方が提唱され、ビジネス領域にも広まったことで、社会に対して良いことをすることが企業の競争力になるという理解も広がっています。
世界最大の機関投資家と言われている日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)では、ESG指数に連動したパッシブ運用を行っています。つまり、実際に環境・社会・ガバナンスに優れた企業に、お金が流れ込みつつあるのです。
こうした流れを鑑みるに、かつてはCSR部門の従業員だけが主流事業の周縁で社会貢献を考えていた状況から、すべての従業員が本業の中で社会貢献に関わっていく状況へと変わりつつあると言えるでしょう。
社会貢献と営利活動、規模の3つを兼ね備えたビジネスが可能に
こうした社会貢献とビジネスの関係については、従来から社会的企業やNPOが行っていました。こうした組織のなかには、社会貢献と営利活動を両立させているところもあります。しかし多くはサービスの提供範囲が小さいままで、大きな社会的インパクトにつながりづらい状況にありました。
今回の変化の大きな特徴は、社会貢献と営利活動、そして規模の3つを兼ね備えたビジネスが可能になってきているという点にあります(図表1)。この背景にも、デジタル技術があります。

デジタル技術の特徴の1つとして、規模拡大の容易さが挙げられます。ソフトウェアはほぼ無料でコピーすることができ、さらには従来の物理的なサービスとは違い、土地や国境を容易に越えてサービスが提供可能です。フェイスブックやLINEのように、成功すれば世界や日本全国にわずか数年で普及させることができます。
またデジタル技術は、データに基づいたパーソナライゼーションによって多様なサービスを展開できるというメリットもあります。かつてはマスにしか発信できなかった情報を、特定の条件を満たす人にスマートフォンで通知することも可能になりました。
これは公共サービスにも適用できます。たとえば給付金を受けられる人だけに通知を送ることもできますし、そのほかの公共サービスについても、必要な人に必要な分だけ届ける、という仕組みが構築可能になりつつあります。
規模を拡大しつつ、個人に適したサービスを提供できるのが、デジタル技術の特徴です。そうした特徴をうまく使えば、これまではローカルにとどまりがちだった社会的企業が、日本全国や全世界に価値のあるサービスを提供可能になるかもしれません。そして、多くの人たちに提供することができれば、十分な利益を稼ぎながら社会貢献できるようになるのです。
つまり、非営利企業と営利企業の境目が徐々に揺らぎつつあるということです。社会的企業の研究者たちは、伝統的な非営利企業と営利企業のハイブリッドとしての社会的企業を、図表2のように分類しました。

この分類で言えば、かつては多くの企業が伝統的非営利組織と伝統的営利組織の両極のいずれかだったものが、今は多くの企業が真ん中に当たる「社会的企業」や「社会的責任を持つ企業」であることが可能になりつつあり、そしてそれが社会から要請されるようになってきているということです。
- PRESIDENT Online
- プレジデント社の新メディアサイト。



