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法科大学院教員の「適格性」という問題の行方

 法科大学院の教育が実務家を養成するという目的にマッチしているのかということがいわれます。それは、司法試験に合格するという、いわば結果を出せるのかということとともに、それが内容においても、志望者が「価値」を見出せるものなのか、という二つのことが、現実的に問われることになります。そして、このテーマで実は切り離せないのは、教える側の適格性の問題。法科大学院の教員自体が、この目的にマッチしているのかということです。

 一方で、実務家教員こそが本来、その中心的役割を担うのに適しているという見方。一方で「理論と実務のかけ橋」というコンセプトから、実務家に必要とされる理論をきっちり教えるための研究者(学者)教員の役割をいう見方。ただ、大学という舞台に設置された、この機関は、前記テーマをあいまいにしたまま、後者を主体として、ここまできた観があります。それがどういう現実をもたらし、どういう意味を持っているのかは、多くの市民には伝わっていないといっていいと思います。
  「実際に授業を受ける学生の立場からしますと、狭い専門を研究してきたことと実務家を養成することとの間には、かなりのミスマッチがあると言わざるを得ないと思います」
 11月29日に行われた法曹養成制度検討会議第4回会議で、委員である和田吉弘弁護士が、前者の立場から、現在の法科大学院の問題をストレートに指摘しました。彼は、実務に役に立たない観念論が繰り返されているケースなどの実例を挙げ、「司法試験に合格しておらず実務も知らない学者教員が法曹養成をすること自体に無理がある」という主張をしています。
 「一般の国民の皆さんは、法科大学院の教員の多くが司法試験に合格していないということは知らないと思います。私の所属している法律事務所の職員でさえ知りませんでした。私は、一般の国民が広くこのことを知ったら、税金の使い方として納得できないと感じる人が多いだろうと思います」
 和田委員は、この状態を「例えば、車のメカにどんなに詳しい専門家でも、運転免許の試験に合格していない人は自動車教習所で教えるのには向いていない、ということと同じこと」だとしています。そして、同委員は、法科大学院で基本科目を担当する教員には、原則として司法試験に合格し司法修習も経ていること、もし司法試験に合格していないけれども法曹養成としてよい教育をしているというのであれば、法科大学院での教員資格試験という意味で、少なくとも担当科目は現行司法試験に合格することを提案しました。「そうすれば、学生の辛い状況も、受験勉強の重要性も理解できるようになるのだろう」と。

 ここまで言われては、まず、あの人が黙っていないだろうと思ったならば、案の定、即座に反論がなされています。委員である井上正仁東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授が発言しています。  
「和田委員が言われた点ですけれども、そういう例があったであろうことは否定するつもりはありませんけれども、そこから先の御発言は過度の一般化ではないかと思います。特に研究者教員について和田委員が非常に厳しい御意見をお持ちだということはわかりましたけれども、問題は、研究者か実務家かということではなく、飽くまで法科大学院にふさわしい教育能力を持っているかどうかということであるはずです」
 詳しくは引用しませんが、井上委員の反論は、要するに「和田委員より数多くいろんな法科大学院を見ている」立場からすれば、そんな教員ばかりではない、実務家の方が研究者教員に比べ法律基本科目について十分な教育ができるかといえば、立派な実務家としての経歴を持っている人や司法研修所の教官経験者でも、授業内容や試験問題、成績評価の仕方などで問題例が少なからずあった、74校乱立で教員確保が優先されたことが原因でもあるが、いずれ実務家・研究者教員の区別はなくなってくる立場であり、法科大学院に適した教員を育てる。東大では法科大学院の設置以降、少なくとも実定法の研究者は原則として法科大学院を出て、望むらくは司法試験を通り、一定程度の修習とか、実務経験を積んだ上で、研究者の道に入ってもらうよう切りかえている――というものです。

 いろいろな評価の仕方はあるかもしれませんが、井上委員の発言中、純粋に和田委員への「反論」といえるのは、冒頭の、一概にはいえない、という部分だけであり、とりわけ後段については、法科大学院教員についての、実務経験の必要性を認めることになっています。だとすれば、将来的なこと(もっとも東大以外がどう対応していくのかはともかく)は別にして、現状において、和田委員の提案を排除する意味が果たして存在するのか、ということになります。そして、もし存在するというのであれば、それが誰の、何のためであるのかも、想像できる話になってきます。

 法科大学院制度の存続に疑問を持っている研究者のなかには、研究者教員ひいては大学自体が、実務家養成機関としての中核を担うことの「無理」をいう見方も出てきていますが、一方で、法科大学院にかかわる多くの研究者は、そこを認めない、あるいは分かっていても認められない立場にあるようです。

 そのことを考えて、まずは、和田委員が指摘したこのテーマが、果たして今後の議論で深められるのかどうかに注目しなければなりません。

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