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焦点:トルコ中銀総裁また解任、投資家の信頼は完全失墜か


[ロンドン 22日 ロイター] - トルコのエルドアン大統領が、またしても中央銀行総裁を解任した。その結果、既に正統な理論から外れた経済政策に長い間疑念を抱いていた投資家からの信頼を、同国は完全に失ったかもしれない――。複数のアナリストはこう話している。

エルドアン氏が20日、インフレに対するタカ派姿勢を打ち出してきたアーバル総裁を更迭し、後任には高金利に批判的という点で波長が合うシャハブ・カブジュオール氏を起用。これを受けて22日に通貨トルコ・リラは10%近く急落し、トルコ国債利回りも跳ね上がった。

ソシエテ・ジェネラル(ソジェン)は、信頼性という面でトルコは「回復可能な地点を越えた」として、国民自身も自分の資産をリラ建てからドル建てやユーロ建てに転換する動きが加速しそうだ、との見方を示した。

エルバン財務相は22日、トルコは自由市場のルールと完全フロート制の通貨体系を堅持すると断言したものの、近年の同国では「緩やかな」資本規制が導入されている。

そうした中で投資家は警戒感を隠さない。ノルデアのグローバル・チーフストラテジスト、アンドレアス・ステノ・ラーセン氏はツイッターに「われわれは、エルドアン氏が中銀を事実上支配している限り、リラに対して絶対に強気に転じない」と投稿した。

エルドアン氏が中銀総裁の首をすげ替えたのは、過去2年間で3回目。同氏は2桁の物価上昇率を抑え込む手段として、利上げすることには反対だと繰り返してきた。とはいえ、それでも今回の人事は投資家に衝撃を与えている。

ゴールドマン・サックスやJPモルガン、ドイツ銀行といった投資銀行は、波乱が今後待っているとそろって警鐘を鳴らした。欧州最大の資産運用会社・アムンディは、来月に政策金利が下げられても驚かないと述べた。

中銀のコメントはカブジュオール氏の総裁指名発表に関する声明のみで、中銀の主たる目的は「物価上昇率の恒久的な下振れ」を通じて、マクロ経済の安定を達成することだと表明するにとどまっている。

アーバル氏が総裁に就任したのは昨年11月。当時10.25%だった政策金利をそれ以降積極的に引き上げて主要国では最高の19%にしたことで、幅広い市場関係者の評価を勝ち取った。解任の数日前にも、予想を上回る200ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切り、リラを3%余り押し上げていた。

<新たな通貨危機へ>

一方、消息筋によると、エルドアン政権与党の公正発展党(AKP)元議員のカブジュオール氏は21日に開いた銀行関係者との電話会議で、即時の政策変更は計画していないし、どう動くかは物価上昇率次第だと説明した。

ただ、アバディーン・スタンダード・インベストメンツのポートフォリオマネジャー、キーラン・カーティス氏は「この人物が利下げのために起用されたのでないとすれば、彼は一体何をするのだろうか」と首をかしげ、エルドアン氏が女性への暴力やドメスティックバイオレンス(DV)の防止条約から脱退を決定したことも踏まえると、リラは「売り」だと簡単に判断できるとした。

エコノミストたちによると、借金に依存して浮き沈みしてきたトルコ経済の不安定さを増幅させ、過去4年間のほとんどの時期の物価上昇率が2桁で推移した原因は、金融政策に対する政治の介入にある。

22日に記録したリラの10%近い下落率は、2018年以降で最大。当時からこれまでにリラの価値は半減し、13年に約25%だったトルコ国債の外国人保有比率は足元で5%程度まで低下している。

それでもアーバル氏は短い在任期間中、投資家をある程度呼び戻す役割を果たし、18%のリラ上昇をもたらすとともに、国民や企業が資産価値を維持するためにリラ建てからドル建てに切り替える「ドル化」の流れを食い止めてきた。

今月公表されたデータを見ると、トルコ国民が国内銀行に保有する外貨建て預金残高は2300億ドルで、今年1月に付けたピークの2360億ドルからわずかに減少していただけだった。

ただ、投資家の間で大きな不安の種になっているのが、中銀の手元に外貨準備があまり残っていないことだ。さまざまな「スワップ」取引のポジションを勘案し、ソジェンなどが試算したところでは、差し引きの外貨準備は400億ドル前後のマイナスになってしまう。

多くのアナリストは、エルドアン氏の娘婿のアルバイラク氏が財務相を務めていた時代に1200億ドルもの外貨準備が市場介入に投入されたとみている。

このため、バンガードの新興市場債券プリンシパル、ニック・アイシンガー氏は「中銀が政策変更を間違えれば、新たな通貨危機と対外収支危機を生み出しかねない。トルコには短期債借り換えと外貨準備の枯渇を巡る懸念があるからだ」と解説する。

MUFGのイーサン・コーマン氏の見積もりでは、トルコは年内に2000億ドル強と、国内総生産(GDP)の2割を超える規模の短期債返済期限を迎え、その資金繰りを迫られるという。

サクソのFX戦略責任者ジョン・ハーディー氏は、外貨準備がゼロの局面では政策運営は危険に満ちると指摘。「中銀がまた(下げ方向に)金利を動かし、リラが再び下落すれば、何らかの資本規制が打ち出されるのではないかというのが、私の主たる心配だ」と述べた。

アナリストの見立てでは、リラ防衛のために採用される可能性がある対策はさまざまだ。例えば、通貨スワップの規制強化が挙げられるし、国外へ持ち出す資金を制限する、より正式な資本統制すら導入されるかもしれない。

ソジェンのフェニックス・カレン氏は「トルコは、近く新たな通貨危機に向かうのではないか」と語り、前途に待ち受けるのは生き残りを賭けた「バトルロイヤル」だと述べた。

(Marc Jones記者、Tom Arnold記者)

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