記事

東大教授「授業がオンラインで済むなら、多くの大学教授は不要になる」

1/2

コロナ禍で多くの大学が授業をオンラインに切り替えた。授業を聞くには、時間と場所を選ばないオンラインのほうが便利だという声も多い。東京大学大学院の吉見俊哉教授は、「そうすると、かなりの大学の先生は要らなくなる。絶対に面白い授業だけを配信すればいいからだ。ただ、そうした大教室を前提とした大学の設計が、そもそも間違っている」という。ジャーナリストの堀和世さんが聞いた――。

※本稿は、堀和世『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)の一部を再編集したものです。

大学の大教室で講義をする教授やアシスタントたち
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

学生は「オンライン化するなら大教室授業」と言うが…

——少人数授業であれば、オンラインが対面よりも効果的でありえるというのは、意外な気もします。学生アンケートなどを見ると、オンライン授業がなじむのは大教室形式であり、ゼミ形式などは対面授業が望ましいという声が一般的です。

学生から見れば、その方が楽なんだと思います。200~300人の授業で同時双方向型は考えられない。大教室のオンライン授業はオンデマンド配信型で、これは学生にとっては楽です。いつでもアクセスできる。バイトの合間にアクセスして、必要な情報をチェックすればいい。ただ、それでいいのかということです。

大教室の授業は実空間であろうが、オンラインであろうが大差ないんですね。実際に対面で授業をしても、ほとんどの学生は出席を取られて座っているだけで、こそっとスマホを見てたり。真剣に聞いている学生はごく一部ですから。

少人数のオンライン授業は要求水準が高い

そう考えると、消費者としての学生のニーズにより合っているのは、大教室のオンデマンド配信型の授業です。実空間の授業は学生を来させて、一定時間そこに座らせる。その義務を外すのがオンデマンド配信です。授業を購買する、ショッピングするという意味では、大教室・オンデマンド配信型の方が、お手頃の商品であることは間違いない。学生たちが大教室の授業はオンデマンドの方がいいと言うのは当然だと思います。

一方、少人数・同時双方向型の授業では、学生は授業に集中しなくてはならないので疲れます。アクティブにやろうとする先生はどんどん学生を当てて、発言させていく。学生はボーっとしてられなくて、負担が大きいと思います。なおかつ、オンラインの方が学生に対するリクワイアメント(要求される基準)は大きくなるんです。

一年生の授業の全面オンライン化は望ましくない

少人数授業で対面が求められていることについて、確かに一つ、当然ながら考えられるのは、学生間の横のコミュニケーションが取りにくいことです。先生とそれぞれの学生は一対一というか、非常に関係が密になる。半面、学生同士はオンラインだとどうしても関係が疎になります。一緒にご飯を食べに行けないとか、一緒にワイワイできないとかですね。大学に来て、ゼミなどの授業で集まっていれば友達ができますから。そういう面がオンラインで非常に阻害されているのは事実だと思います。

そういう意味で、特に1年生の授業を全面オンライン化することは、非常にマイナスだと思います。授業の中で生まれてくるさまざまなコミュニケーションの可能性をオンラインは育てないですから。教室という場、実空間を共有している方がコミュニケーションは育つわけです。空間を共有し、時間も共有する、つまり一つの教室にみんな集まってワイワイガヤガヤやる授業があるというのは、確かに大学の基本だと思います。

学生間のコミュニケーションが全部ダメになるわけではない

ただ、空間の共有ができないからといって、全部駄目になってしまうわけではなくて、オンラインによって時間の共有はできるわけですから、そこでコミュニケーションをする可能性というのは、我々はもっと探求していいはずだと思います。

——学生をはじめとして、そういう「可能性」にはなかなか目が向きにくいということでしょうか。

学生は何をしに大学に来ているのか。目的が卒業証書をもらうためだけだとすると、一番楽に単位を取ることが重要になる。大学は友達や恋人、あるいはコネクションを作るところだとすれば、オンラインは最悪なわけですよ。

その意味ではオンラインには限界がある。友達を作るのは大学の重要な要素だと思います。これを失わないためにはキャンパスは必要だし、教室も必要で、全部オンライン化しちゃいけないっていうのはとてもよくわかるし、僕もそう思う。

問題は大教室授業そのものにある

そういう学生にとって、大教室のオンライン授業が楽だというのは、そもそも大教室授業そのものが間違っているのです。大教室でできる授業とは、決まった知識を教えるとか、例えばコンピューターの使い方のような基礎技術習得型、あるいは極めてベーシックな授業であれば、大教室でもいいのかもしれない。

むしろそれだったら、非常に教え方のうまい先生が、優れた教育コンテンツを作ってオンデマンド配信し、わからないことがあれば、TA(ティーチングアシスタント=授業をサポートするスタッフで、主に大学院生)が少人数の補習授業を行うという体制が一番効率的なんです。

そうすると、かなりの大学の先生は要らなくなるんですよ。一人一人がバラバラに80人とか100人単位で教えなくてよくなる。オンラインを徹底するんだったら、ちゃんとお金を投資して、この先生の授業は絶対面白い、学生のためになるっていう完璧なコンテンツを作って、5000人や1万人に対してオンデマンド配信をすればいいし、大学がそっちに行く可能性は十分あると思います。

ところが今は、一つの大学に何百人かの先生がいて、それぞれバラバラに基礎的な科目を担当する。いい先生もいるだろうが、そうじゃない先生もいて、授業に出来不出来があるような中で、学生は試験対策としてとりあえず勉強するが、それ以上のことは何も学ばない。そういう典型的な大教室授業の現状がすでにあるのではないか。そこまで劣化しているのならば、学生が「オンラインになっても同じだよね」と諦めていても不思議ではない。そうすると、労力が少なくて、単位が取れるオンデマンド配信型がいいとなってしまい、それは必ずしも教育のクオリティーの向上とは結びついていない。

履修科目数を今の半分以下に減らすべき

——オンライン中心の授業に対して、少なくない先生や学生から疑問の声が上がっています。それはオンライン化そのものよりも、大教室形式の授業など、従来の大学のあり方自体に問題が埋め込まれていたということでしょうか。

僕はそう思いますよ。大教室で授業を受ける形が一部残ってもいいけれど、大学の授業のほとんどを、少人数型で先生と学生がインタラクティブに議論をし合う形に変えていく必要があると思います。そうした時に、日本の大学が一番、根本的に変えなくちゃいけないポイントがあるんですね。それは、1人の学生が一つの学期に履修する科目の数を、今の半分以下に減らすことです。これを変えない限り、もう大学といえないと思います。

あわせて読みたい

「オンライン授業」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    国会終盤戦は荒れ模様。一部野党の審議拒否連発で、非生産的な国会運営が続く…

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    05月15日 08:35

  2. 2

    「最も忙しい四大臣、待ちぼうけ」官房参与の“嘘”追及で立民らが退席 80分超える空白の時間

    BLOGOS しらべる部

    05月14日 18:36

  3. 3

    ガザ地区の友人から届いたメール「地獄と同じ。なす術も行くあてもない」

    田中龍作

    05月15日 09:35

  4. 4

    新型コロナワクチン接種進むハワイ、米本土観光客は例年並みに

    WEDGE Infinity

    05月15日 11:54

  5. 5

    検査拡大に橋下氏「無症状者への闇雲な検査をしても感染抑止の効果は出ない」

    橋下徹

    05月15日 10:01

  6. 6

    無策を繰り返す政府からの休業要請にエンタメ界が上げた「狼煙」

    松田健次

    05月15日 08:03

  7. 7

    できない言い訳ばかりの政府、恐怖煽るマスコミ…情けない日本のコロナ対応に怒り

    青山まさゆき

    05月15日 09:28

  8. 8

    変異株の真実/感染力は増して若干の軽症化が数字からの結論

    青山まさゆき

    05月14日 22:10

  9. 9

    「緊急事態でも通勤ラッシュは三密状態」日本人が自粛をしなくなった本当の理由

    PRESIDENT Online

    05月15日 11:42

  10. 10

    コロナ禍で「肺炎死亡者が減少」の謎

    自由人

    05月14日 08:12

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。