- 2012年12月18日 02:20
大島堅一『原発のコスト』
1/2また原発の話で恐縮である。
前の二つのエントリのつづき。
ぼくの記事に対するネット上やここのコメ欄での反応は様々だけど、自動車事故の比喩や他の「大事故」との比較については、下記エントリを読んでほしい。
原発と自動車 - 紙屋研究所
加藤尚武『災害論 安全性工学への疑問』 - 紙屋研究所
かんたんに言うと、便益の違うものの比較はするな、ということと、反復が不可能な「異常な危険」については特別扱いが必要だということ。
あと、「福島第一は老朽化してたからダメだったが、他はいい」というのは、論外。福島第一の事故主因が「老朽化」であるというような調査は見たことがない。少なくとも福島の事故の原因究明は終わっていない。炉の中がまともにわかっていないのに、「老朽化していたからダメ」「老朽化していないからいい」などと言える状況にはないことは明らかだ。
結局、残るのはコストのことだけなのだ。
原発はコストが安いんだからしょうがないじゃん、当面事故は起きないんだから、いま日本は経済的に余裕ないし、安全のことは抜きにして、それでやっていこうよ、という感覚である。
ところで最初のぼくの論点、「安全基準をキツくして動かない原発がいっぱい出たらどうする気なのか?」という点については、推進派と思われる人たちは、基本的に「降参」ということになる。「はいはいわかったわかった。でも現実を考えようよ」という感じであろうか。
それがわかれば、もう基本的にぼくは最初の論点についてはこれ以上論じるつもりはない。話はいったん終わっている。「安全よりも経済性」という気持ちで再稼働を支持していることはものすごくクリアになったからである。
ただ、もう少し、コストのことだけ考えてみよう。
目の前で電気料金があがり企業が打撃を受けている「事実」
“原発はコストが安いんだからしょうがないじゃん、当面事故は起きないんだから、いま日本は経済的に余裕ないし、安全のことは抜きにして、それでやっていこうよ”というこの感覚。原発が止まり、火力に依存するようになり、燃料費がかさんで、企業が打撃を受けているという「事実」が目の前で繰り広げられているので、この感覚はすっと入っていくわけである。
ここで「当面事故は起きない」という点に反原発派は批判したくなる。
で、それを批判するのは、一つの健全な姿でもある。事故が起きたらどうするんだよ、と。お前が謝って歩くのか。お前の貯金箱でつぐなうのか。てな感じで。
ただ、それをカッコに入れて留保してちょっと考えてみる。つまり「当面は事故は起きないものとする」というふうにしたとき、「コストが安い」という感覚はどういう基盤に立脚しているか、ということである。
奇しくも、今年の大佛次郎論壇賞に、大島堅一の『原発のコスト エネルギー転換への視点』(岩波新書)が決まった。それを読めば、この問題は解けてしまう。
脱原発の便益を論証 大佛次郎論壇賞に大島堅一さん - 本のニュース | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト リンク先を見る
公的コストを考えてないだけ
リンク先を見る 結論から先に言ってしまうと、これまでも発生し、これからもさらに大きく発生する途方もない公的なコスト分を度外視しているだけ、ということである。再処理とか立地交付金みたいなコストね(賠償含まず)。
税金などで公的に支えてもらっているコストの少なからぬ部分は、私的な電気料金の中に入り込んでこないので、電気を食う産業はそれを「安心」して使えるが、燃料費がかさんだ火力でつくられた電気を使い始めたとたんに、パンクが始まるのである。その燃料費増嵩→電気料金値上げ→中小企業パンクという「因果」がいかにもわかりやすく、しかもアップアップしていた企業が「パン!」「パン!」と音を立てて劇的にパンクしているので、「コストが安い原発を動かせ!」ということを言ってしまいがちなのである。
電気料金がどれほど公的なコストに支えられているかということをまったく考えず、電気料金の上下だけでその影響を見るなら、そりゃあ、めちゃくちゃ高度な「受益」をしている、電気食う産業はもう必死ですよ。
石原慎太郎センセイが「君、何年前にだね、ある電力の値上げがあってだね、電気料金が上がってね、一体どれくらいの期間に日本の重要な産業であるアルミ業界が潰れたと思っている。知ってる? 言ってみろよ、知らねえだろう」みたいにおっしゃられるのは、もう実に俗耳に入りやすい話だというわけです。
公的コストとして国民が負担している分、そして今後「ドン」とものすごく重くかぶさってくるだろう負担は、こういうわかりやすい因果と、劇的な形をとらない。税金を余計にとられて、その分生活が苦しくなっても、それがエネルギーの問題だとはだれも思わないし。
劇的な形をとらないけどもトータルのコストは原発の方がかかっているというのが大島の計算である。
いやまあ、電気を食う産業をきちんと守りましょうよ、一部にとんでもない影響を出すようなやり方はけしからんじゃないか、という主張ならば一定わかる。でも、そこはホレ、大島が言っている次のやり方で対処を。
他方、電炉(鉄スクラップを電気炉で溶かして再生する産業)やソーダ産業など一部の産業では、電気料金の影響が大きいとみられる。こうした電力多消費型産業については、ドイツでは、電気料金に賦課される再生可能エネルギー関連コストが大幅に削減されている。この仕組みと同様の制度を導入すれば、電気を消費せざるをえない産業についても、一方的な不公平がおきないよう調整することは十分に可能である。(大島p.207)



