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「市政は、身近な存在。自分の意見や行動で確実に変えられる」―千葉市長・熊谷俊人氏インタビュー

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当時最年少31歳で市長になった熊谷俊人千葉市長(撮影:弘田充)
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2009年に31歳という現職最年少の若さで千葉市長に就任した熊谷俊人氏。就任後、財政の健全化を中心に、着実に改革を進め、その取り組みは多くの自治体やメディアから注目を集めている。就任から現在に至るまでの過程を綴った著書『公務員ってなんだ?』(ワニブックス刊)を上梓したばかりの熊谷俊人千葉市長に話を聞いた。【取材・執筆:永田 正行(BLOGOS編集部)】

右肩上がりの時代のシステムは見直さなければならない


―市長就任から現在まで、主にどのようなことに取り組んで来たのでしょうか?

熊谷俊人市長(以下、熊谷):私が市長を目指した大きな理由は、3つほどあります。

まず、私のような若者の目から見た場合、「経済が右肩上がりの時代は終わったのだから、既存の様々なシステムを変えなくてはいけない」という思いがありました。これは私が政治家をやるに至った原点でもあります。既存のシステムが、微修正され続けているだけという現状があったので、「抜本的に変えなくてはならない」と思ったんです。具体的には財政の問題で、特に千葉市はかなり厳しい状況でした。将来的に市民が苦しくなる方向に向かっていたので、それを変えなくてはいけないと考えていました。

二つめは、今までかなり遠いところにあった行政や政治を身近な存在にしたい、という思いです。市政というのは一番身近な分野です。自分たちの税金が、どのように使われているのかが、市民に見えるようにしなくてはならない。税金の使い道について、市民が考えられる環境でなければならないし、参加しなければいけないと思うのです。今は年貢のように税金を取られ、為政者が勝手に使っているというイメージだと思います。ですから、それを変えていかなければならないと考えたことも大きなポイントですね。

最後に、未来志向でいろんな政策をやろうという思いがありました。私は、「将来世代の人たち」のために、政策を集中的に行う必要があると考えています。例えば、千葉市では、インターネットを含めたICT(情報通信技術)の活用が非常に遅れていましたが、こうした将来に向けて投資しなくてはならない分野に、積極的に投資をしていくような街をつくっていこうと考えていました。

―それぞれについて、成果をお聞かせください。

熊谷:財政の問題については、私は就任以来、大規模開発の中でも見直しをした方が良いものについては見直しを行ってきました。また、市民に影響のある分野も含めて、徹底した事業の見直しもやってきました。

さらに、職員の給与をはじめ、人件費の削減も行いました。そういう意味ではかなりコストを削ってきましたね。以前のままであれば、千葉市は国からイエローカードを出されるかもしれないという状況でしたが、「脱・財政危機宣言」を出し、3年間改革に取り組んだ結果、一番危ない期間は脱出することができました。すぐに健全な状態に戻るというわけではありませんが、第一ステップをクリアした状況にはあるといえるでしょう。財政再建に関しては、少し希望が持てる段階に入ってきたと思います。

行政の透明性や情報発信という部分では、千葉市は今までは政令市の情報公開度ランキングで最下位の方にいました。それが現在ではトップクラスの順位を維持していますし、予算編成過程を含め、「市が何を考えているのか」という情報は積極的に市民に届けられるようになりました。また、市民の声を聞く方法も以前に比べてはるかに増えていると思います。

―熊谷市長はTwitterなどでも、積極的に発言していますね。

熊谷:私がTwitterを使っている理由は、若い人の声を聞くためです。これは、市長になって痛感したのですが、行政に関わる人間に若者がほとんどいない。平日に、この街にいる人と言えば、仕事をしていない方がメインになってしまうんです。結果的に意見交換をするのは主婦と高齢者の方ばかり。若い人がいたとしても、子育てをしているお母さんという形になってしまう。このように、限定された人たちとしか向き合わない状態では、情報も限られてしまいます。

そうなると、働いている人たちにとっては、市役所は身近ではないし、何をやっているかもわからない。税金を払っているだけで、まったく行政の取り組みと関係がない状況になってしまいます。しかし、それを変える必要がある。働いている若い人たちに、関心をもってもらい、その人たちが望む街はどういうものなのかを考え、つくっていかなければならないと思っています。

Twitterを使っている効果もあり、現在では、盆踊りなど地域の行事に行っても、20代の人たちに、「Twitter見ています」と声をかけられるようになりました。これは今まででは絶対に考えられなかったことです。今までは、市長というと、「中高年で遠い存在の人」というイメージがあったかもしれませんが、少しは顔が見えるようになっているのではないでしょうか。それは市役所が見えるようになったことでもあると思います。

―3番目の「未来志向の政策」についてはどうでしょうか?

熊谷:例えば、待機児童対策についても「こども未来局」という専門の局を作って取り組んだ結果、今年の4月1日には、待機児童数が劇的に減りました。首都圏の中では待機児童数、比率の低さがトップクラスの街になっています。質を維持しながら、量を供給して改善してきたという意味では、3年間でかなりの成果を出すことができたと思います。

ICTの分野も、千葉市は行政システムの刷新が一番遅れていましたが、私が就任してから専門の部署を作り、大規模な刷新計画を作っています。システムをリニューアルするのはかなり時間がかかりますが、3、4年もすれば、千葉市は最先端のICTの都市に生まれ変わることができると思っています。

公務員や既得権を悪と決め付けることなく改革を進める


―若い世代が、トップに就任して、様々な改革を行うという事例は他の自治体でもあると思います。ただ、そうした場合でも、公務員・既得権との対立があり、改革が進まないという報道が見られます。千葉市の場合は、どうだったのでしょうか?

熊谷:公務員を批判し、攻撃したところで、結局、行政の実務を行うのは、公務員です。そういう人たちを追い出して、新しい人たちが、様々な政策の実行までやれるのなら別ですが、結局のところ、官僚や公務員に能力を発揮してもらわなければならない。これは組織の中で働いたことがある人ならば、誰でもわかると思います。

であるならば、そうした組織や仕組みを「完全に壊す」というやり方は成り立たないのではないでしょうか。目的が達成できるのであれば、極力対立を避けて、同じゴールに行ける方が、その後の政策執行のスムーズさが変わってきます。なので、一番スムーズに通れる道を通る、作っていくというのが、私のスタンスです。どうしても不可避な場合に起こる対決を否定するわけではないですが、極力、対決をしない中でできる方法を模索するべきだと思っています。

既得権についても、一方的に「既得権が悪い!」という見え方になってしまっている。既得権に関わる人たちにも、その人たちなりの想いがあってやってきていて、別に犯罪をしているわけでも、悪いことをしようと思ってやっているわけでもありません。彼らなりに想いがあり、歩んできた道なわけです。それが今まで見直しされずに来た結果、現在「一部見直しをした方が良い」という状態になっているのだとすれば、そこまでの歩みを認めた上で、「今の時代においては見直した方が良いのではないか」と説明していくことが重要だと思うのです。

私も様々な事業の見直しを行ってきましたが、事業内容がそのスタート時点から悪かったのかというと、そうではなかったりもします。また、そこに関わってくる利害関係者も、ただ自分たちの私利私欲のためというわけではなく、それ自体が良いことだと思ってやってきたわけですから、そこはしっかり認めます。しかし、「今の時代にそぐわない」ということであれば、お互い話しあって見直していかなければなりません。それが政治そのものだと思っています。

―例えば、熊谷市長は、マッサージ施設利用の補助など高齢者の方への事業の一部を見直していますが、そうした事業も右肩上がりの時代背景の中で生まれたものであって、その存在自体が悪ではないということですね。

熊谷:そうです。高齢者も少なかったですし、やっても負担にはならなかった時代背景の中で生まれた事業ですので、仕方ない部分もあると思います。ただ、今の社会状況に適していないということです。

確かに既得権益かもしれませんが、それが悪というよりも世の中には既得権益はあるものですから、そこをどう乗り越えるかという話だと思います。既得権益だから、それに関わっている人が全員悪という話ではないでしょう。

―以前、中田宏元横浜市長にインタビューさせていただいた時に、「横浜市では、改革に対して非常に抵抗があった」という話を聞きました。公務員や市議会から頑強な抵抗を受けたとのことだったのですが、千葉市の場合もそういった抵抗があったのでしょうか?

熊谷:千葉市の場合、そこまで大きな抵抗はなかったように思います。それはやはり、市議会議員の方々も大人で、立場が違ったとしても紳士的にやっていただいたことが大きな要因でしょう。

もちろん「それは問題じゃないか」という指摘をいただくこともありますし、議会の一部には徹底的に反対する人もいますが、基本的には私の方針を理解していただいています。ここまでご理解をいただけるとは思っていなかったので、本当にありがたく感じています。

また、私自身が職員と一緒になって改革を進めるにあたって、職員を悪者にせず、外部からスタッフをつれて来て、既存の事業をがんがん切るというスタンスでもないという点を理解してもらっていることが大きいと思います。基本的に行政の継続性を担保した中で、「変えるべきところだけは変えさせてもらう」というスタンスですので、市の職員たちも、少なくとも「自分たちの体制が壊されるのではないか」とまでは思っていないのではないでしょうか。「面倒だな」とか「大変だな」と思ってはいるかもしれませんが。そういう意味では、今までの継続性も担保された中で改革を進められているのではないかと思います。

―ただ職員の方にしてみれば、給料が減っていることは事実です。また、行政の場合、自分たちの成果について、市民から良いフィードバックをもらう機会が、それほど多いとは思いません。そういう中で職員の方々のモチベーションを保つために、市長として気をつけている点はありますか?

熊谷:先の見通しを明確に示すことが重要だと思います。給料が下がるという意味では辛いですが、「このままの状況が続くと大変な事態に陥るので、それを避けなければいけない」ということをしっかり説明するようにしています。

ですから私は、「脱・財政危機宣言」の時に、”このまま行くとどうなるか”を示しましたし、具体的な目標数値も定めました。さらに、一つ一つのステップが長すぎると大変なので、「それはいつまで続くのか」も示すようにしています。先日、平成23年度の決算が出たので、「今年の秋に第一ステップはクリアできた」と伝えました。また、「第二ステップは、4年後ぐらいに、このぐらいの数値を目指す」というように、見通しは示すようにしています。

―それで、職員の方々はついてくるものですか?

熊谷:正直言うと、これは難しいことだと思います。行政の辛いところは、成果と給料が連動しない点です。しかし、市役所に公務員として入ってくるような人たちは、「給料も大事だけれど、街づくりをしたい」という公共心に厚い人が多いんですよ。給料を減らされて、モチベーションが上がるわけはありません。しかし、世間が思っているほど、著しくモチベーションが下がるわけでもないと思います。私は職員と接していて、そう感じます。街を愛しているし、「なんとかしたい」という気持ちは熱いものがあるので、それで成り立っているところもあると思います。

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