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世界の危機や民主主義の修復に取り組むのは我々主権者~「東京会議」にどう取り組むのか~

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 言論NPOの工藤泰志代表と元国連事務次長で、言論NPOのアドバイザリーボードも務める明石康氏が来週に迫った「東京会議2021」にどのように臨むのか、緊急の対談を行いました。今回の対談の司会は、共同通信の川北省吾編集委員兼論説委員が務めました。

 まず、コロナの感染者が1.2億人となるなど世界的な人類共通の危機に、なぜ世界が協調して取り組めなかったのか、との問いかけに工藤は、米中対立の深刻化、さらには世界が国家対立や国家の視点で考える傾向が強まり、戦後作ってきた国連システム自体が世界の危機に対応できない状況だと強調。グローバルヘルスを含め、世界が直面する課題に対する国際協調の在り方に答えを出さなければいけない重要な時期だと指摘しました。

 明石氏は、国連が加盟国の連合組織であることに伴う限界があるとしつつも、「常に無能だったわけではない」と述べ、国連の理想と限界での模索はこれまでも進められてきたと語りました。ただ、今回のコロナの危機に世界中があたふたして対応が遅れたことに失望を示し、こうしたことが二度とないように人類は努めなければならない、と語りました。

 さらに工藤は、民主主義における主権者は国民であり、我々は統治を国家にただ委ねるのではなく、コロナのような危機に対応するために、統治の仕組みを改善していくこと自体が民主主義の修復に繋がると強調し、世界の民主主義国家のシンクタンクや世界のリーダーが個人の資格で集まり議論することこそが、国際協調や民主主義の修復のための流れをつくるのであり、それこそが今回の東京会議の目的であると語りました。


川北省吾:3月22日、23日に「東京会議2021」が開催されます、「国際協調と民主主義をどう修復するか」をテーマに、2日間にわたって議論が行われます。

 その中に、「新型コロナ―人類の危機に世界はなぜ対応を間違えたのか」というセッションがあります。冷戦時代に、こんな笑い話がありました。「他の星から異星人が攻めてきたら、米ソ両陣営が喧嘩していたのを一旦止めて、スクラムを組んで、共通の敵に立ち向かうだろう」と。ところが、今回のコロナという危機に対しては、世界は協力するどころかむしろ対立を深めている感があります。

 アメリカのシンクタンクの集計によると、今日(3月17日)現在、感染者は世界で1憶2000万人、死者は266万人を超えています。

 お二人に最初に伺いたいのは、このコロナ危機という人類共通の危機があったにもかかわらず、なぜ世界は協力をすることができなかったのか、ということです。

各国ごとにコロナ対策が大きく異なったことが、世界的な協調を遠ざける要因となった。バイデン政権で風向きが変わる可能性も


明石康:コロナという人類共通の危機に直面しているのに、なぜ人類はお互いに手を結ぶことができないのか。おそらく、コロナが宇宙のどこからか攻めてきたのであったら、人類は協調できる可能性もあるのではないかと思います。しかし、アメリカと中国という現代の二大超大国は、コロナ以前から相互に疑心暗鬼ですし、コロナの脅威が本格的に表れた頃、アメリカの大統領は完全にアメリカ一国主義で対処していた。また、コロナはそもそも、中国の武漢のあたりから発生したのではないか、という疑惑が、はじめからトランプさんの頭の中にはあったようで、トランプ政権のコロナ対策は当初からかなりアメリカ一国主義的だったし、トランプさんの中の全く個人的な思い付きというか、執念というか、そういうものでやっていたのではないかと思います。

 ヨーロッパのそれぞれの国なども、かなり国ごとに特色のある対処の仕方をしていました。ドイツはわりと教科書的・模範的な態度を当初はとっていました。イタリアやスペインはそうではない、というように文化・社会、その国の成り立ちの違い、医学のあり方の違いのようなものが反映されて、それが国ごとに異なる対処につながっていました。

 わりと国土の大きな国ないしは連邦制をとっている国は、その分だけ難しさがあったと思います。中小国の方がわりと素早く対処ができていた。アメリカないしブラジルのような、巨大でしかも連邦制を取っている国、インドもここに含まれるかもしれませんが、こういう国々は図体が大きいあまり、国として統一的な対応はできなかったのではないかと思います。そういうわけで、コロナ危機に対して世界的な協調が見られなかったわけです。

 ただ、アメリカではトランプ政権からバイデン政権に代わり、風向きが変わってきました。米中関係もコロナ問題に関しては協調の路線ができるのではないか期待しています。

今回の世界的なコロナの被害は、世界の危機に世界が対応できない、その本質を我々に問いかけている


工藤泰志:この人類の危機に、世界がなぜ対応を誤ったのか。この論理立て自体が、実を言うと結構、勇気のいるものでした。「本当にそう決めつけていいのか」という指摘もありました。しかし、先程ご指摘がありましたように、感染者が1億2000万人、死者が266万人という、明石さんが理事長を務める国立京都国際会館がある京都府の人口に匹敵する規模の死者が出ている。これほどの被害が世界で発生し、しかもいまだに収束していない。この問題を世界は総括しない限り、次のパンデミックにも対応できないと考えたのです。

 これは、感染症に限らず、世界の今後について考えていく上で非常に重要なテストだと私は考えています。その重要な機会を我々は逃すわけにはいかない。とそう思ったのです。

 この問い、を考えていくといくつもの重要な問題が浮かび上がります。明石さんも言われたように、やはり米中の大国対立がその背景にあります。その中で私が考えなくてはならないと思うのが、WHO(世界保健機関)が専門的な機関としての役割をほとんど果たさなかったことです。感染への警告という初動から始まって、国境をどう開いていくか、各国の対応の調整などの課題に対してWHOは専門的な役割を果たしていないわけです。

 それはテドロス事務局長というリーダーの問題やWHOの機能の制約などもあると思うのですが、私が最も気になっているのは、戦後作ってきたグローバルヘルスの脆弱な構造自体なのです。今回の世界的な被害は、世界の危機に世界が対応できない、その本質を我々に問いかけていると思うのです。

 戦後の国際協力の枠組みは様々な分野で米国さらに英国が中心に作り上げてきました。グローバルヘルスのガバナンスも同じです。その中核的な国が世界の中でも比較的多くの感染者数と死者数を出し、国内の統治自体が問われ、コロナ対策で失敗している。

 トランプ政権はマスクの着用まで疑い、科学的な知見が全くないような対策で自滅している。その責任を感染症が見つかった中国に求め、人々の生命に関わる感染症が政治化されました。感染症の世界的な対応でリーダーシップを発揮する国もなく、本来、世界が協力すべき局面で世界の多くの国はそれぞればらばらに、内向きの対応に向かったのです。

 コロナ感染は世界の平和と安全の脅威になっているのに、国連安保理は沈黙を守りました。これは2014年のエボラ出血熱の流行の際の国連対応とは全く異なります。その際には、国連はエボラ対策のミッションを作り、安保理でも決議して軍まで感染のアフリカに派遣しました。しかし、今回は「中国発祥のウイルス」という表現自体をめぐって米中が対立し、国連や多くの国際機関もほとんど動けなかった、のです。

 国連は加盟国の連合であり、多くの国際機関が加盟国の拠出によってなりたっています。こうした国連システム自体が、世界の人命の危機に対応できないという問題に私たちは直面しているのです。しかし、世界が協力しない限り、パンデミックを阻止することは絶対にできません。ウイルスは国境を越え、世界に広がってします。そう考えると我々はグローバルヘルスガバナンスのあり方という大きな問題に対して、まだ答えを持っていない。しかし、答えを出さなければならない非常に大きな段階に来ているのではないか。それが、今回の「東京会議」で私の問題意識の出発点なのです。

 その難題に世界10か国のシンクタンクや世界の代表的なリーダーで挑もうと考えているのです。

川北:今回のコロナ危機では国家の役割というものがものすごく前面に出てきて、EUにしても国連にしてもそういったグローバルな機構が、なかなか動けなかったということが非常に印象付けられた面があったと思います。

 日本で最初に国連事務次長になられ、長くご活躍されてきた明石さんは、この国連システムの限界について、どのように考えておられますか。

 国連は加盟国の連合という限界はあるが、常に無能であり、何もしていないのか、というと決してそうではない。

明石:国連というものは、そもそも作られた当時から世界政府ではなかったわけです。工藤さんも触れましたけれども、国連を形成しているのは、国連の加盟国、国家なのですね。独立国家が196カ国あって、そのうち193カ国が現在国連に加盟しています。その他にも、パレスチナなどの国々が準メンバーのような資格を国連で与えられていますし、専門機関の中には、国としての待遇を与えている場合もあります。

 そういうわけで世界政府というものが存在する場合、もっと機敏に、もっと統一的な形で、行動することができたと思いますけれど、国連というのはその意味でできることも非常にたくさんありますが、できないことも数多い。

 感染症の問題は、それぞれウイルスによって脅威の度合いも違います。2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の際は、脅威に直面した国もあれば、そうでない国もありました。上手く対応できた国もあるし、そうでない国もあった。このSARSの経験をもっと身近に感じられた国の場合、コロナ対応も多少は機敏だったのではないか、と私は考えています。

 今回のコロナに関してもやはり、それぞれの国の位置や大きさ、感染症対策の経験の多寡によって違ってきたということであって、人類全体がいつもこういう問題を解決ができない、そういう情けない存在では決してないと思います。

 他の課題を見てみますと、食糧問題には、ローマに本部がある国連食糧農業機関(FAO)とか、ノーベル平和賞を最近に受賞した世界食糧計画(WFP)などの組織が国連にあります。子どもの問題に関しては、UNICEFがありますよね。ここもまたノーベル平和賞を受賞し、子どもの問題に関しては世界的な権威となっています。それから、難民問題は、1990年代に大きな問題となりましたが、国連難民高等弁務官事務所がイラクなど中東で活躍したわけです。

 ですから、国連は常に無能であり、何もしていないのか、というと決してそうではない。それなりにやってきたわけです。WHOにしても、アメリカと中国の対立関係を反映して、今はちょっとばたばたしていますが、できることはやってきた。

 それなりにやってきたけれど、今回のような大きな脅威に世界中があたふたしている。工藤さんが言われたように、多くの人々が命を失った。しかも、最後の段階では家族にも誰にも会えないという悲惨な状況の下で亡くなっていく。これは現代においてあってはならないことです。その解消にこんなに時間がかかっている。対処が遅れているということは誠に残念なことだし、こういうことが二度とないように、人類は努めなければならないということだと思います。

川北:今、非常に本質的なことをおっしゃったと思います。国連というのはまさに名前の通り国家の連合なので、どこか大きな国家がトランプさんのような指導者によって一国主義的、あるいは強権的な国になっていくとなかなか上手くいかない、ということです。そこについては工藤さんはどう思われますか。

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