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「次はお母さんと一緒に来て」…新米パパが感じた“育児の世界に歓迎されていない”違和感の正体 - 渡邉 卓也

 2020年に子供が産まれた。いまや「男親も育児をするのが当然の時代である」といわれており、もちろん私もしっかり育児をやるつもりだった。しかしいざ子育てをはじめると、男親が主体的に育児をすることの難しさが浮き彫りになってきたのである。

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男性にも多い“産後うつ”

 我が家は共働きで、妻は外へ働きに出ている(現在、妻は育休中)。よって家で仕事をしている私が炊事・洗濯・掃除・買い出しなどを担当している。子供が産まれたのならばそこに育児を足せばいいだろうと思っていたのだが、それは甘い考えだった。

 ある日の深夜2時、子供がギャンギャンと泣いてばかりで眠らなかったとき。妻は育児がうまくいかないことを悩み落ち込んでいたため、私が子供をあやしていた。しかしひとつ問題があり、その日の私には朝早くから仕事があったのだ。

 子供が泣いているのは無視できないし、妻も落ち込んでいるのだからいまは自分がやるべき状況である。とはいえ、いくらなんでもこのままでは仕事に支障が出てしまうわけで、いったいどうすればいいのかとため息も出てしまう。しかしこれが失敗で、情緒不安定になっていた妻はため息を聞いて泣き出しはじめた。急いで妻をフォローし、なんとか子供を寝かしつけたあと、私は「もはや自分にはため息をつく権利もないのだ」と知った。


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 時事メディカルの記事によると、妊娠20週から産後3カ月における産前・産後うつ状態の割合は、女性が7.0~10.9%、男性が6.3~9.0%となっており、同程度の発症が見られるようだ。NHKでも父親の産後うつが特集されるように、育児に悩む父親は決して少なくない。

労働と育児を両立させる物理的な困難さ

 私はフリーランスの文筆業であり、比較的時間に融通が効く仕事なのでまだマシだが、それでもやはりすべてをやろうとするとタスクが多すぎてあふれてしまう。しかし子供が成長するにつれて必要なお金も増えていくため、労働の手を抜くわけにもいかない。それどころか、子供が産まれたら「これまで以上に仕事を頑張ろう」となるのが自然であろう。

 男親も妻や子供のために育児を主体的に行って当然だが、しかし無茶をして潰れてしまっては意味がない。そうなると「仕事をメインにしつつ、育児はちょっと手伝って、イクメンぶっている」という状況に陥りやすく、嫌だとしてもそれが合理的に見えてしまうのだ。

 この問題はやはり、労働と育児が両立しえないからこそ起こるのであろう。解決するにはどこからか膨大な金を手に入れるとか、あるいはパートナーにより多くの賃金を稼いでもらい立場や割り振りを変えるとか、もしくは会社や社会の理解を得て男性の育児休暇などの拡充をするなど、要するに“男性が労働から解放されなければならない”わけだ。

男性育児休暇の実態は?

 私の義兄はベビー用品に関連した会社に勤めているため、育児休暇をしっかりと取得できていた。子供が大きくなってきてからは自身のキャリアアップのために新たな勉強をはじめるなど、子供がいてもかなり恵まれた環境にあるといえる。一方で知人の塾講師は子供の寝顔を見るのが精一杯なくらい激務で、育児を手伝うことすら難しいという。

 厚生労働省の発表によると令和元年度における育児休業の取得率は、女性が83.0%の一方、男性は7.48%に過ぎない。男性は平成30年度に6.16%なので取得率が上昇傾向にあるものの、それでもわずかな人しか取得できていないのは事実だ。

 育児休暇の義務化が行われ、会社員のみならずフリーランスなどの人々も対象に労働環境が是正されれば、男性が育児に参加する余裕ができる。しかし、そうなったからといってすぐ育児の世界に男性が増えるかというと、疑わしく感じられるのだ。

「次はお母さんと一緒に来てね」

 保育園を見学しに行ったとき、それを象徴するような印象深い体験をした。その日は妻の体調がいまいちだったので子供と留守番してもらい、私、つまり父親ひとりで複数の保育園を見に行ったのだ。

 ある保育園で見学を終えて帰ろうとしたところ、園長先生に「次はお母さんと一緒に来てね」と声をかけられた。

 最初は意味がわからなかったが少し会話をして様子を窺ってみると、「男親であるあなたには決定権がないだろうから、きちんと決められる妻を連れてまた見学にくるといい」と言われていたのだ。もちろんそこまで直接的には言われていないが、大意はそうだと受け取らざるを得ない会話内容であった。

 私は家に帰ったあと、子供を抱っこしながら過去の出来事を思い返していた。自分はいわゆる“新米パパ”なわけだが、それでも育児の世界に歓迎されていないと感じることが多々あったのだ。

沐浴練習での出来事

 産院の沐浴練習があった際は喜んで参加したのだが、実際はほとんど妻に教えるような雰囲気であった。仕方なくこのときは手伝う側に回ったわけだが、結局子供を風呂に入れるのは私の担当なわけで、あのときもっとでしゃばるべきだったと感じた。

 地域の保健師が家に来たときもそうである。保健師の方は子供の様子を見て、妻の心理状態を聞き取り帰っていった。夫はまったく蚊帳の外だが、これはそういうものだろうと思っていた。

 役所で出生届を出したときのことも思い出す。出生届を出すとちょっとしたお祝いをもらえたのだが、それを選ぶとき「記念品に関しては、家に一度帰って奥さんと相談してもいい」とうながされた。最初は単なる親切心かと納得していたのだが、それはおかしいだろう。大した記念品でもないのだから、そのくらいひとりで決めろという話だ。

 結局のところ、私という父親は軽視されていたのではないか。

 しかし、こういった対応は合理性を重視した結果なのかもしれない。

 保育園の見学会で周囲を見ると、女性が子供と一緒に見学にきているケースが多く、次に夫婦できていることが多い。そもそも保育園の見学は平日の昼間なので、見に来る男親が少ないのだろう。

 沐浴の練習も、地域の保健師が家に来るときもすべて平日の昼間であった。私のような人間はともかく一般企業に勤める会社員の父親の場合、現状は平日の昼間に時間の捻出をするのが難しく、ゆえに各施設の人々も母親を狙って動きがちなのではないか。

 男性だからとターゲットから外される経験は育児以外でもあった。たとえば家電量販店で洗濯機を買おうとしていたとき、店員の方は私よりも妻のほうに熱心にセールストークするのである。実際に家で洗濯機を使うのはほとんど私なのだが、その人は妻のほうに話をすれば売れると判断したのだろう。

 子育てに関連した書籍を読んでも、共同で子育てをするというよりは「女性ひとりでいかに子供を風呂に入れるか」といった解説が書かれているし、とある本で1日のスケジュール表を見ると父親のほうは働きづめというケースが多かった。

 むしろ保育園を探しに自分で足を運んだり、妻よりも家電をよく使う私が特殊なのかもしれない。そもそも私が平日昼間に家にいるせいか、うちに来てくれた保健師の方は私のことをヒモだと思っていたようだ。文筆業を続けているため、そんなことには慣れつつあるが、いやはやひどい偏見である。

 育児は日常の延長線上にあるものかと思っていたが、どうやら特殊な環境のようだ。労働環境が是正されれば徐々にまともになっていくかもしれないが、正直なところそれだけで解決するとは思えない。

男は子育てにおいて忌避される存在?

 そもそもの話、男性が育児の世界に求められていないようにも感じられる。保育園に関して情報を集めていたところ、「男の保育士がいるところは嫌だ」という忌憚なき意見を持つ人とも遭遇してしまったのである。

 見学した地域の保育園も、ほとんどが女性の保育士で占められている。ある保育園では「うちの保育園には男性保育士の更衣室があります」と聞かされたが、それは当然の話ではないのか? と疑問に思ったし、そもそもそんなことを話さねばならない状況なのかと不安が増してしまった。

 今後、男親である自分が育児の世界に出ていくのも難しいのではないか。たとえば保育園の保護者会などに自分が参加するには、かなりの勇気・気概・時間が必要なのではないかと不安に思っている。労働環境が改善されて男性が育児に参加しやすくなったとしても、忌避されるのであれば、やはり消極的な参加になってしまうだろう。

 男親が育児に積極的に参加しない理由はなんだろうか? そう考えてみると、当人の問題でもあり、労働環境の問題でもあり、育児に専念することの難しさでもあり、人々の意識の問題でもあるように思える。

 新米パパである私は、「自分は主体的に育児をしよう!」と思っただけではどうにもならない壁が目の前にあり、それにはとてつもない高さがあるのだと知った。

(渡邉 卓也)

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