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「知は力なり」。21世紀を生き抜くには知識を使う“知恵”が必要 - 「賢人論。」第134回(中編)野依良治氏

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2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治氏は、名古屋大学で学生を指導するだけでなく、教育再生会議座長、国立大学評価委員会委員長、中央教育審議会委員など、教育や教育行政にかかわる場で多くの提言を行ってきた。日本有数の科学者・教育者でもある野依氏は、コロナ禍で深刻な影響を受けている日本の教育界をどのように見ているのか。また、健全な社会を生み出すための教育や、現代で求められる「独創」から「協創」へのイノベーションシフトについて話を伺った。

取材・文/盛田栄一

コロナ禍は従来の教育を改め、再生する絶好の機会

みんなの介護 野依さんはノーベル化学賞を受賞される以前、30年以上にわたって、名古屋大学で教鞭を執っておられました。また、教育再生会議座長を務めるなど、教育関連の場で多く発言をされています。新型コロナの感染拡大に直面している教育界の現状を、どのように見ておられますか。

野依 すでに、大学などに在籍していた5,800人の若者が中退、休学したことを聞きました。日本だけではなく、昨年末のユネスコの調査よれば、学校に通学できない子どもは世界で3億2,000万人以上。学生や生徒から貴重な教育機会を奪うことで、世界レベルで学力低下することを懸念しています。

みんなの介護 日本の多くの大学では、オンライン授業がもはや当たり前になりつつあるようです。

野依 それも困った現象です。もちろん、オンライン授業には利点があります。学生がどこにいても講義が受けられ、移動の効率化や地域格差の解消ができます。対面では受講できなかった著名な人の講義も在宅で受けられ、理屈上は「学びの場について機会均等な状態になった」ともいえます。しかし、そのために情報端末や通信環境の整備が必要で、経済的理由による格差が拡大しないよう配慮が必要です。

単にオンラインセミナーを受けるだけなら、学校に行く必要はありません。学校とは人と人が出会い、互いに連帯感を持って成長していける場所。大学生の場合、教授や講師による授業よりも、本当は友人や先輩との交わりから教わることのほうがはるかに多いと思います。コロナ禍で大学構内への立ち入りが制限され、大学生たちはかわいそうです。

大学は仕方なくオンライン授業を続けるのではなく、教育再生に向けて新たに挑戦する絶好の機だと捉えるべきです。例えば、個別の専門分野に偏ったカリキュラムを見直し、遠隔授業を活用してリベラルアーツ(自由で能動的な市民となるための基礎的教養)を重視する方向に大胆に舵を切るなども良いかと思います。

人の能力を育成・開花させる教育の先に健全な社会がある

みんなの介護 野依さんは大学教育の現場から退いた今でも、教育に対する思い入れが強いのですね。

野依 私は人生というものを、少しばかりの必然と数多くの偶然からなる長い旅路だと考えています。日本も人生100年時代を迎えた今だからこそ、長い人生をまっとうに歩むための実りある教育が求められます。

教育は、若者や子どもたちが将来充実した生活を送れるように、それぞれの能力を育み開花させるためにあります。そして、そうした一人ひとりの人生の集積こそが健全な社会をつくることになります。だから教育は個人のためだけではなく、社会全体にとって重要です。

そうだとすれば、教育は各家庭や学校だけに任せるのではなく、地域社会、産業界、国家をも巻き込んで、総掛かりで取り組むべき課題だといえるでしょう。

みんなの介護 教育といえば、大学入試センター試験が2021年から大学入学共通テストに変更されましたね。

野依 はい。高校教育、大学教育、大学入学者選抜を一体的に更新する「高大接続改革」の一環として導入されました。しかし、もっと早い時点で人間性を育むSTEAM教育を実践するなど、劇的に改革しなければなりません。

みんなの介護 STEAM教育とは何でしょうか。

野依 これからのグローバル時代に即した多様な人材を育てるため、アメリカで提唱された手法です。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術・人文科学)、Mathematics(数学)のそれぞれ頭文字を並べた言葉。従来のような受け身の教育ではなく、自ら問題を発見し、他者と協調して解決していくための思考力・判断力・表現力を醸成する教育ともいわれます。

17世紀の哲学者フランシス・ベーコンは「知識は力なり」という名言を残しました。しかし21世紀の今、単にKnowledge(知識)だけではAIに太刀打ちできません。これを十分に使いこなせるWisdom(知恵)が必要です。彼の言葉を修正するならば、知識と知恵の両者を掛けて「知は力なり」でしょう。

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