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【特別対談】元担当記者が語りつくす「北朝鮮」の真実に迫る術(下) - 城内康伸,塚本壮一

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長年にわたって浮いては消える「北朝鮮崩壊説」だが、盤石な体制の裏には巧みな人事と優秀な人材の豊富さがある、と城内康伸さん、塚本壮一さんは言う。そして話題は核問題へ――元担当記者による白熱の対談、最終回!

塚本壮一:前回、金正恩の治世はよほどのことがない限り大丈夫だというお話がありましたが、その“よほどのこと”が起きるとしたら、どんなことになりそうですか。

組織的なクーデターは無理?

城内康伸:どうなんでしょうね。ただ、塚本さんが朴正熙(パク・チョンヒ)暗殺(1979年)のようなハプニングもあり得ると言われていますけど、ひょっとしたらそういうこともあるかもしれない。側近による至近距離からの暗殺です。日本でも公開している韓国映画『KCIA 南山の部長たち』みたいなことがあるかもしれない。

塚本:そういうハプニングがない限り、何となくこのままいくんでしょうね。

城内:北朝鮮で組織的なクーデターを起こすというのはおそらく無理でしょう。そうすると、本当に彼の身近にいる人間がやるしかない、という感じですね。可能性は極めて低いとは思いますが。

城内康伸さんの著書

塚本:本(城内康伸『金正恩の機密ファイル』小学館新書)に書いておられたけど、1990年代は苦難の行軍の最中でしたが、人民軍第6師団の反乱とか、龍川駅の爆破といった組織的な行動がありましたね。でもそういう組織だったものはもはや難しい。今は、本で書いておられるような、爆破を狙ってあっという間に捕まった青年のように、ちょっと社会になじめない人が悪さをしようとして、しかもあっという間に潰されるという形にとどまるのかな、という気がするのですが。

城内:僕も組織的なものは難しいと思います。

 今回の党大会などを見ていると、金正恩(キム・ジョンウン)は権力分散を徹底的にしているでしょう。 例えば、従来は組織指導部に全部投げていたような仕事を、新しく規律検査部というのをつくって分散したりとか。

 もう1つびっくりしたのは、『労働新聞』などに組織指導部長の名前がちゃんと出たことです。昔は、組織指導部長が誰なのか皆目分からなかった。金正日(キム・ジョンイル)時代なら、金正日自身がやっているのだろうとか、全く分からなかった。

塚本:それが、肩書付きで写真まで配信しましたからね。あれにはびっくりしました。

城内:びっくりしました。かつ、組織担当書記として趙甬元(チョ・ヨンウォン)を置く。金正恩以外にとてつもない権力が集中する事態が起きないようにしていますね。

趙甬元「大抜擢」の理由

塚本:その趙甬元の大抜擢も驚きでした。

城内:2011年だったか、付き合いのあった北の人が僕に教えてくれたのが、「黄炳瑞(ファン・ビョンソ)というのがいて、これがこれから力をつける」ということでした。まだ黄炳瑞があまり知られていない時期でした。数年後には、彼は金正恩の側近となった。数年前には消えちゃいましたが。

 黄炳瑞について教示してくれた人物が次に名を上げたのが趙甬元でした。2015年夏頃だったかな、「この男がこれからどんどん伸びていくよ」と言う。趙甬元はたしか2014年12月頃から、金正恩の同行回数が増えていった。

「趙甬元は金正恩に同行して何をしているんですか」と聞くと、次のように言うんです。

 金正恩が現地指導でいろいろと指示を出しますよね。いわゆるマルスムですが、趙甬元はこれを傍らで全部メモし、整理して理路整然とした分かりやすい文章にまとめ、それをあちこちに下達するんだそうです。つまり、金正恩の言葉を察してきちんと整理するのが趙甬元の役割で、しかもものすごく的確なんだそうです。

塚本:彼は宣伝扇動部にいたわけじゃないですよね。

城内:彼はずっと組織指導部ですね。

塚本:本人の才能なんですね。

城内:これまでずっとその仕事をやってきたようですよ。そして評価がすごく高い。

 それこそ最高指導者の発言ですから、誤った形で解釈してねじ曲げてしまったら命取りになる。ところがそういうことのない趙甬元は非常に高い評価を受けたということで、「こいつはこれから伸びる、どんどん偉くなるから」と言われていて、案の定そうなった。

塚本:政治局常務委員まで一気に昇りましたものね。

 このように金正恩は人事に手を入れましたし、朝鮮労働党規約も大分変えて、党の機能と規律を意識的に変えてきていますね。その中で、政治局常務委員にある程度の業務、任務を任せるようにもしたりしているようです。

城内:負担軽減という形も最近やっているような感じがしますね。

塚本:その辺もやはり自信なのかなと思います。

城内:自分のところに全部権力を集中させなくても大丈夫、というのは、つまり自信の表れですよね。

 何だかんだ言っても、父親が“俺の後継者はこいつしかいない”と小さいときから言っていたというのは、そういう能力を見抜いていたからなのかもしれない。

塚本:でも限界だと思うのは、経済問題で新たな方針を打ち出せないところですね。北朝鮮がもとより改革開放のような政策などできるわけないから、やりようがないのでしょうが。

城内:今回の党大会でも重工業とか言っているでしょう。いつの時代の話なんだと。

塚本:それを含めて、先祖返りにしか見えないですね。核問題も同様だと思います。

核先進国という野望

城内:核については、僕は一段と危険な水域にエスカレートしたような気がするんです。

 今回の党大会を見て、核については「並進路線」への回帰かなと一瞬思ったのですが、いや違う、これは並進路線の上を行っているな、と感じましたね。

 2018年4月の党中央委員会総会で、“国家核武力は完成して並進路線はこれにて終了、これからは経済建設に総力を挙げる”と言っていたのに、今回の党大会ではまた、核の高度化と言い出している。しかも、いわゆる“核先制・報復打撃能力の高度化”という言葉まで使っているんですよね。核の先制使用についてポジティブな表現になっている。昔は、“我が国の主権を侵害しない限り、核の先制使用をしないだろう”と言っていたのが、“核の乱用をしないだろう”に変わった。“乱用しない”とは何だ、って話ですよ。場合によっては使うってことなのか、1、2回は使うことがあるってことなのか。

 それから、戦術核の開発という発言にも驚きました。これまで北は、核は米国による攻撃を抑止することが目的と主張してきた。けれど戦術核となれば、これまでの主張が理由にならない。これによって、北朝鮮の核はいっそうデンジャラスなステージに上がった気がします。もう核は捨てないという話でしょう。

塚本:そうですね。もとより捨てるつもりはないだろうなと思ってはいましたが。

 そうすると、バイデン政権が誕生したから言葉の上で牽制しておいた、というのではなく、基本的に戦略を変えてきたという感じですか。

城内:そう思います。もちろん米新政権に対しての牽制もあるでしょう。

 それと、金正恩という人はやはり、核を持ち、優れた核先進国になるんだという野望があるのでしょうね。軍事パレードでミサイルが出てきたときなど、本当に嬉しそうな、楽しそうな顔をしているでしょう。やっぱり好きなんですよ。

塚本:今回もどこまで本気なのかよく分からないけど、原子力潜水艦を建造するとか新兵器を造るなどなど、ありとあらゆることを掲げてみました、という感じがあり、つい「またバカなことを言っている」と思ってしまいますが、それもよくないですね。

城内康伸さん

城内:僕は、基本的にはったりだけではなくて、金正恩が言う以上は、核先進国を目指しているのは間違いないと思います。あの国は、言ったことを実現しようとする、少なくとも近づこうとしますからね。

 1回目の核実験は2006年10月でした。当時、北朝鮮は核実験をやるやると言っていたけど、僕はやらないと思っていた。

 ところが本当に実験したものだから、その日の夜、当時親しくしていた北朝鮮の北京駐在の人物と会って話したら、

「あんたは本当に共和国を知らないね」

「我々は1回言ったら必ず実行に移す」

 と言っていました。それがいまだに非常に鮮明に残っています。更に彼は、

「アメリカは我々を、共和国を疾走する馬に乗せた」

 という表現を使った。これは鮮烈な印象を持って胸に迫ってきまして、1度コラムに書いたことがあります。

 この2、3年の、ミサイルの発展もすごいじゃないですか。

塚本:そうですね。今は正確に撃てるようになって、失敗が本当になくなりましたね。

 そういえば、この本にも書いてあったけど、ミサイル開発チームはいくつかに分かれている、という話も面白かった。そういうところを読んでいると、技術者たちの層が厚いんだなと思います。

城内:頭がいい人が多いんですよ。ハッカー集団だって世界有数なんでしょう? 今、それこそ核とサイバーさえあれば通常兵器は要らないでしょう。

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