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データで政治を可視化する 菅原琢×荻上チキ(2/2)

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「ダメ出し」ではなく「ポジ出し」を! 非難やあら探し、足の引っ張り合いはもういい。ポジティブで前向きな改善策を話し合おう――。気鋭の評論家と政治学者による対談。印象論で語られがちな政治の見方を変える方法とは?



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■一般ユーザーに分析を任せる

荻上 7月からSYNODOSで「復興アリーナ http://fukkou-arena.jp/」というサイトを立ち上げています。震災復興に関する情報を取材し載せていくもので、新聞記者に震災記事を書くときの反省点を伺ったり、被災地で自治会長や子供をもつ女性たちの座談会を開き、仮設住宅の課題を語っていただいたりしています。

毎日新聞の小川一編集局長にお話を伺ったときに、「ソーシャルメディアの役割が非常に重要だ」ということを仰られていました。小川さん自身、震災後にツイッターをどんどんやるようになったといいます。新聞が情報を出すことを独占していた時代は終わるんだから、新聞で書き切れないことは、いろんなソーシャルメディアと連携しながら、報道のスタイルを変えなくてはいけないと。

その話を聞いたときに、ウェブメディアをやっている立場として、ぜひ新聞社にやってほしいことがあると思いついたんです。それは、記者会見で録音した音声や配布された資料を、すべてウェブにあげること。小川さんも、こうした路線の必要性には共感してくれた。

加工された情報を届けるだけでなく、生の情報を公開して、国民に情報の道筋を作るのがこれからの新聞社の役割ではないかと。そこから先はソーシャルメディアに検証してもらいながら、より上質な記事を提供していければいい。記事を売るのではなく、国民が情報にアクセスしやすくすることが仕事なんだと話していて、そうした意識が現場から出てくること自体、けっこう驚きでした。データを可視化するための動きを新聞社がしめしてくれれば、言説も変わってくるんじゃないかと思います。

菅原 たとえば大手新聞社は、各国会議員の政治資金収支報告書の原本を持っていたりします。たとえば大臣が変わったときに、事務所費がおかしい、領収書が変だと突然言い出すことがありますが、データ自体を持っているので、調査することは簡単なのです。でも、こんな「狙い撃ち」で政局を混乱させることがメディアの役割かというと非常に疑問です。データを持っているのだから、それを積極的に公開して日常的にチェックしていてもよいでしょう。

政治資金収支報告書は年に一回公開していますが、その時に、メディアがすべてのデータをウェブにあげれば社会のためにもなるでしょう。そうすれば、大臣になったタイミングで騒動するのではなく、最初からそういう人が大臣にならないですむかもしれない。公開されるから、その前に修正しようと政治家の側ももっと気をつけるようになるでしょう。そのほうが社会にとっては好ましいはずです。そういう展開もあっていいはずなんですが、そうはならない。

結局、社会の公器とかいいながら、自分たちの利益しか見ていないわけです。データを公開しないで保持することで、何か意義があると思っているメディアが非常に多い。そこがうまく回転していない原因の一つです。

荻上 小さな事ですが、僕は「白書」をウェブでよくダウンロードするんですけど、ファイル名が同じだったりして、どれがどれだかわからなくなってすごく不便です(笑)。

報告書等も一部PDFで上げられているけど読みづらい。ちゃんとエクセルでまとめてくれればいいのにと思う。つまらないことのように思いますが、「しっかりユーザー=国民のことを考えて情報環境を整えています」という感じがしない。

政治系の議論でいつも疑問に思うのは、例えば不正な献金問題が浮上したときに、メディアの政治記者やキャスターが、「こういう人を予め身体検査しておく党の意識が足りなくて、たるんでいる」みたいなことを言うんですね。 ちょっと待てと。身体検査って、普段からメディアもできることでしょう。それが仕事でしょう。もともと大臣になる前から検証してくれていれば、「身体検査」はできていたはず。何でこう「いや、たるんでる」って話になるのかなと。

ただこのあたりは、報道機関のジレンマというのを感じていて、新聞社というのは新聞記事を書いて新聞紙を売るのが仕事だし、テレビも番組を放送してスポンサーを獲得するのが仕事になっているけれど、「情報を届けるためになんでもやる」というわけではない。必要に応じて、プロジェクト単位のサイトをメディア企業が作ってもいいのにと思うのですが、収支報告書のまとめサイトを作ろうみたいなプロジェクトは、報道機関からはなかなか起きないわけですね。だからこそニーズがあるわけですが、外の人間が積極的に働きかけないとだめですね。

菅原 イギリスの例ですが、公開された議員の経費に関する文書45万件以上を『ガーディアン』がウェブにアップして、一般ユーザーに内容をチェックしてもらったということがあったそうです(小林啓倫「ネットの力を取り込んで 英米で始まる新たな調査報道」『Journalism』2012年3月号。ガーディアン紙の特集のウェブサイトはこちら http://www.guardian.co.uk/politics/mps-expenses)。

たとえば、日本には、全国に何万人という地方議員がいますが、ほとんどの議員の政治資金はまともにチェックされていないでしょう。そういうのを一般人がうまくチェックするような仕組みを一度作ってしまえばいいと思いますね。

記者が地方議員をすべて調べるのは手間でしょうから、それをユーザー側に任せて、その中から出てきたものを吸い上げてスクープを出すことができれば、メディアとしても喜ばしいでしょう。もっともこの場合、自治体などの協力も必要ですが。

荻上 例えば「ワンボイスキャンペーン」(http://onevoice-campaign.jp/index.php)は、ネットで選挙運動解禁しようという試みで、選挙期間中にブログやツイッターを更新したり、ネットで議員へ質問したりできるようにしようと動いています。国民が政治にいちばん関心を持っている時期に、街頭や勉強会でしか議員に会えないというのは、ある意味、情報の格差が埋められていないといえます。

ただ、ネット選挙運動を解禁できたときがゴールではない。そこから先、ではこんなデータも可視化して選挙に影響させようという、次の球をどんどん投げ続けていかないと、制度改革の議論と同じで、結局改革はしたけれど何も変わらなかったよねと、意気消沈して終わるだけになると思うんですね。

■衆議院データってなぜない?

荻上 皆さん意外と知らないと思うんですけど、参議院は、参議院のHPを見れば誰が何に採決したか法案別に○×形式で載っているのですが、衆議院にそれがないんですよね。

菅原 衆議院の採決方法には「議長が「御異議ありませんか。」とはかる方法、賛成者の起立を求める方法、記名投票による方法」があります(http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_gian.htm)。誰がどのような投票行動を行ったかは記名投票でしか記録・公開されませんが、衆議院の採決ではほとんどこれを行いません。一方、参議院の場合は「押しボタン方式」の採決が通常で、特別な場合に記名投票をしており、どちらでも議員の投票行動が記録・公開されます(たとえば第181回国会の投票結果はこちらhttp://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/vote/181/vote_ind.htm)。

なぜ衆議院はこういうルーズな採決をしているのかというと、おそらく議員が国会に拘束されるのをいやがっているためだと思います。会派の人数で採決結果が事前に決まっていれば、本会議に出席しないでもよくなります。ニュースでよく「小沢さんがまたいない」といった報道がされたことがありましたが、いないのは実は小沢さんだけではなかったりする。衆議院は出席も記録・公開していないので、投票行動もわからなければサボっても普通はバレない。踏み込んでいえば、衆議院の採決方法はサボりたい人のために配慮しているわけです。

ただし、昔に比べると出席率はかなり良くなっているとも聞きます。データが採られている参議院では出席率が上昇しています(山内由梨佳・菅原琢「本会議」第5期蒲島郁夫ゼミ編『参議院の研究』第2巻、木鐸社)。かつては、どうせ自民党多数だからというような感じで、野党からしても与党からしても、わざわざ本会議に出席する意思は低かったのでしょう。

荻上 衆議院で誰が何に投票したかを個別に確認できない状況が、ずっとこの国の政治では続いていたという事実。けっこうびっくりなことです。何人かの議員や政治家秘書に訊ねてみても、やはりデータはないし、気にしたこともないと。

菅原 ないですね。首相の指名選挙など記名投票を特別にやる場合はわかりますが、それ以外は出席しているかどうかもまったくわからない。

海外を見てみると、例えばアメリカでは誰がどこに投票したかは公開されています(たとえば、ワシントンポストのサイトはこちらhttp://projects.washingtonpost.com/congress/)。それを基に、労働組合や右翼団体が「あの議員だったらお金出してやろう」というように動く、そういう材料になっています。これは党議拘束の有無とも関係しますが。

私が国会議員白書(http://kokkai.sugawarataku.net/)を公開しているのも、日本ではそういう議員ごとのデータの集約が不足しているという問題意識からです。投票やロビーイング、記事を書くときの参考にしてほしいですね。

荻上 ロビーイング先にしたり、今だとアノニマスな人が、「こことここに突撃しよう」ということをやったりするわけですよね(笑)。

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