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プロスペクト理論の創始者が語る意志決定論の決定版

「ファスト&スロー(Fast and Slow)」ダニエル・カーネマン、早川書房、2012年11月
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著者ダニエル・カーネマンは、人間の意思決定論を専門にする認知心理学者だが、プロスペクト理論の創始者であり、行動経済学の先駆者&代表的な学者としてノーベル経済学賞を受賞している。

上下2冊、本文合計で500ページはちょっと歯応えがあるかもしれないが、本書を読めば、近年流行の行動経済学の様々な入門書に登場する代表的な心理実験例などのほとんどが、著者並びに著者と関わりの深い研究者によって行われたものであることを知るだろう。

私にとって本書の新しさは、合理性から乖離する人間の行動を、2つの異なる仮想的なキャラクターを人間の中に想定することで解き明かすアプローチだ。
すなわち、速い思考をする直感的なシステム1と、遅い思考をする熟考・分析型のシステム2、この2つがまるで漫才のコンビのようにボケとツッコミのやりとりを繰り返し、頭の中でせめぎ合う結果としてヒューリスティックな現象を説明している。

また金融投資行動で合理的な選択をするためには、システム2の訓練が欠かせないことを強く感じさせる。システム2が訓練で強化された人は、システム1にほとんど依存している人に対して、決定的な優位に立てるということだ。 例えば不況時に安い価格で叩き売られる資産を買う投資家行動が、しばしば世間の情緒的な反発をかうのは、もしかしたら、そうした行動ができないシステム1型人間の2型人間に対する恨みなのかもしれない。

行動経済学をこれから学ぶ方、また既に何冊かの一般書で勉強済の方、双方に薦められる内容だと思う。

追記:12月17日
大竹教授がJCERのサイトで以下のように語っている。まことにその通りだと思う。
http://www.jcer.or.jp/column/otake/index429.html
「客観的にみれば、日本の財政は、人々がいつ財政破綻の可能性を信じ始めて、破綻状態に陥ってもおかしくない状態にある。それにも関わらず、私たちは、債務返済にまじめに取り組もうとしないのはどうしてだろうか。これは、行動経済学で知られている損失回避で説明できるように思う。損失回避とは、損失による価値の減少を、利得による価値の上昇よりも、人々は非常に大きく感じることを言う。

そのため、人々は次のような行動をとってしまう。少しの損失を確実に被る選択肢と、現状を維持できる可能性もあるけれど大きな損失を被る可能性もあるという選択肢に直面した人を考えよう。多くの人は、確実に損失を被るという選択肢を避けて、現状を維持できる可能性があるギャンブルに賭けてしまうのだ。」

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