- 2021年03月18日 14:53
駒井知会さんに聞いた:無期限収容は変えずに刑事罰!? 「改正」とは言えない政府の入管法改正案 - マガジン9編集部
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他国と比べて圧倒的に低い難民認定率のもと、日本では入管収容制度での長期収容が恒常化しており、国連機関から国際法違反の指摘も受けています。そんななか、2月19日に政府は「出入国管理及び難民認定法の改正案」を閣議決定しました。長年、難民支援に取り組む弁護士の駒井知会さんは「この政府案が通れば入管収容はさらに悪化する」と指摘。いま、多くの弁護士や支援団体が反対の声をあげています。政府案の問題点、そして野党が共同提出した法案のポイントについて駒井さんに教えていただきました。
難民申請を3回したら、強制送還が可能に?
――2月19日に、政府は「出入国管理及び難民認定法の改正案」を閣議決定しました。これから国会での審議が始まりますが、支援団体や弁護士の方が反対の声をあげています。
駒井 これは絶対に許されない法案だと思います。この法案が通ってしまったら、いまでもひどい入管収容や難民認定申請の状況がさらに悪化する。在留資格がない親のもとで生まれて耐えておられる子どもたちの将来も、非常に心配になるような内容です。
――特に問題だと思われる点を、いくつか具体的に挙げていただけますでしょうか。
駒井 まずひとつは「『送還停止効』外し」です。現行では、難民申請の手続き中は強制送還されないというルール(送還停止効)がありますが、この法案が通ると、3回目以上の難民申請者に対して一部例外をのぞいて強制送還ができるようになります。
もし、きちんとした難民認定ができている国でこのルールをつくるのなら別の話かもしれませんが、日本の難民認定率はたったの0.4%(2019年)。難民として認められる人が1%以下という、もはや「難民不認定制度」といえる状況です。つまり、この法案で最終的にほとんどの人を強制送還できることになってしまいます。
他国では難民として認められて保護されるような人であっても、日本ではほぼ認定されていません。複数回申請してやっと認定される人もいます。難民申請を繰り返してかろうじて日本に留まることができていた人たちを、生命の危機や拷問などの危険がある母国に強制送還してしまう可能性が強く懸念されます。これは日本が批准している難民条約第33条で定められた「ノン・ルフールマン原則(※)」違反と言ってしまっていいと思います。
※ノン・ルフールマン原則:難民を迫害が予想される地域に送還したり追放したりしてはならないという国際法上の原則。
日本と他国の「えげつない」認定率の差
――たとえば複数回の難民申請者のなかには、ミャンマー出身者も多くいますね。これまで日本で難民認定されることはほとんどありませんでした。しかし、今回のように軍のクーデターが起き、デモ参加者が何十人も死亡している状況をみると、出身国状況を正しく把握したうえで難民審査が行われているのだろうかと疑問をもたざるを得ません。
駒井 それは本当に大きな問題です。難民条約を批准しているほかの国々では、難民出身国での人権状況について綿密に調べ上げて、定期的にレポートを公表しています。しかし、日本では、そこまでの十分な調査や把握はできていません。
ミャンマーでは潜在的に危ない状況が続いていたのだと思います。日本に逃げてきて難民申請をしたミャンマー出身の方々から、よくそのように聞いていました。今回、その話が本当だったということが分かったわけです。この間に難民不認定とされた人は、一体どういう思いでいるのだろうと思いますよね。これはミャンマーだけの話ではありません。
日本の難民認定率が他国と比べて明らかに低いのは、「危なくない国からばかり日本に逃げてきているからだ」と説明されることがあります、しかし、そうではないことはデータからも明らかです。
たとえば、表1のように、カナダに逃げのびたスリランカ出身者は、2019年に74%以上も難民認定されています。イギリスでも43%以上。一方、日本では、0.07%です。

――たった一人ですか。日本だけ認定率のケタが違いますね。
駒井 この一人は私たちの依頼者で、弁護士たちが手弁当で支援し、何回も何回も裁判をしてようやく認定されました。ほかにも、いろいろな国の出身者が日本で難民申請をしているにもかかわらず、全体で0.4%という認定率の低さなのです。他国とはえげつないほど違います。複数回申請者を強制送還できるようにする前に、まず国際スタンダードに則った難民審査ができる国になることが先でしょうと言いたい。
母国で同じ時期に同じように政府に抗議をしていた仲間が、他国ではとっくの昔に難民認定されて、市民権を得て働いているということもあります。日本に逃げてきたばかりに認定されず、そういう仲間からの仕送りに頼らないと生きていけない。それは、本人にとって非常につらい状況だと思います。
収容制度の「三悪」は改善されないまま
――改正法案には、「監理措置」という新しい制度も盛り込まれています。一部メディアでは、あたかも長期収容問題を改善する制度であるかのように報道していましたが、実際はどうなのでしょうか。
駒井 監理措置制度では、在留資格がなく入管施設に収容されている人について、入管の職員が「相当と認めるとき」に限って、保証金や監理人などの条件をつけたうえで、外に出ることができるとしています。しかし、そもそも問題が指摘されている収容制度については、まったく改善されていないんですよ。
国連恣意的拘禁作業部会から国際法違反だと指摘された「三悪」、①無期限収容が可能であること、②収容の決定に司法による関与がないこと、③収容の必要性等を明確な要件としていないこと、は全然変わっていません。問題のある収容制度は手つかずのままで、そこに監理措置が新しく加えられているのです。
法案の条文から読み取れる内容とあまりにも違う記事がメディアに出てしまい、暗然とした気持ちになることもしばしばです。それは本当に怖いことです。この監理措置制度によって、入管収容問題はよくなるどころか、むしろ悪化するだろうと確信します。
――いまの仮放免制度(※)でも、入管が許可さえすれば収容施設の外に出ることができますよね?
駒井 そうです。いまの仮放免制度でも、長期間収容されている人が多くない時代もありました。しかし、ここ数年、仮放免がなかなか認められずに3年、4年と収容される人が多くいます。それは仮放免許可が入管次第だからです。そうした問題点は監理措置制度でも変わりません。
入管の職員が「相当」だと認めたら外に出せるというのなら、いまの仮放免制度と同じことですよね。新しい制度で長期収容改善につながる保証はどこにもありません。
※仮放免:収容が一時的に解かれること。ただし、就労や健康保険の加入は認められず、居住する都道府県からの移動も制限される
――監理措置制度では、外に出るためには「監理人」が必要になります。仮放免にも保証金や身元保証人は必要でしたが、身元保証人は法的な責任が問われるものではありませんでした。しかし、「監理人」には非常に重い義務が課せられます。
駒井 「監理人」は、入管によって「適当だと認められる者」のなかから「選定」されて、被監理者の身元保証をするだけでなく、住居維持などの支援への努力も求められ、被監理者の監督、入管への生活状況などの届出もしないといけません。
仮放免と同様に、退去強制令書(※)が出ている被監理者は就労もできないし、健康保険にも入れません。もし被監理者が経済的に生活できなくなり、そのことを監理人が入管に報告したら「じゃあ、再収容」ということになるかもしれません。監理人は入管から取り消されることもありますし、報告義務に違反すれば、過料の制裁(金銭の徴収)も課せられます。
何より、これまで仮放免の身元保証人になってきたような弁護士や支援者には、依頼者を「監理する」なんてできません。弁護士には守秘義務がありますし、支援者にも過度な負担です。本人との信頼関係もくずれてしまう場面が出て来てしまいます。
※退去強制令書:日本に滞在している外国人を強制的に日本から退去させる命令文書
公的支援も受けられず、働けば刑事罰……
――このコロナ禍で、仮放免中の方々はさらなる生活困窮に直面しています。監理措置で外に出られるといっても、就労もできず、健康保険にも入れず、生活保護などの公的支援も利用できないわけですから、生存さえ守られていない状態ではないでしょうか。
駒井 その通りです。しかも、今度の法案では、退去強制令書が出ている人が、食べる物がないとか、子どもを病院に行かせたい、という事情でアルバイトをしたら、犯罪になってしまうのです。法案には〈三年以下の懲役もしくは禁固もしくは三百万円以下の罰金、またはその併科〉と書いてある。これには私もびっくりしました。今までもアルバイトをしたら再収容や保証金が戻らないということはありましたが、刑事罰にはなりませんでした。
「監理措置制度ができれば社会生活が送れるようになる」というメディアの報道がありましたが、何をもって「社会生活」というのでしょうか。難民認定は99%以上されず、在留特別許可(※)も適切に出されない。たとえば、迫害をおそれて母国に帰れない人が、食べ物もなく生活保護も受けられない。そのうえ、働けば刑事罰を受けてしまう――これはもう絶対に、どんな意味でも私は賛同できません。
※在留特別許可:退去強制事由に該当する外国人に対し、法務大臣が個別に人道上の事情などを考慮して裁量で与える在留許可
――過料制裁まである「監理人」を引き受けてくれる人を探すのも大変だと思うのですが、そうなると、むしろ仮放免よりも外に出るのが難しくなりませんか?
駒井 そう! その可能性はあると思いますよ。入管としては制度を整えているわけだから、監理人の成り手が見つからなければ「外に出せないのは、そちらの責任ですよね」っていう話になるかもしれませんよね。でも、それは違法な入管収容の責任を民間になすりつけるようなものです。




