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被害者側の方々を追い詰めないために必要なこと。

2008年の舞鶴市の高1女子殺害事件で、大阪高裁が一審判決(無期懲役)を覆し、被告人に無罪を言い渡す、という極めてインパクトの強いニュースが報じられた。

この事件は、犯人性立証に資するような物的証拠が乏しく、遺体発見から被疑者逮捕、起訴に至るまでの間にかなりの時間を費やした上に(1年近く経ってようやく起訴されるに至った)、被疑者宅への捜索をめぐってのゴタゴタ等もあったから、起訴されたというニュースを聞いた時は、「被告人側がガチンコで無罪を主張したらかなり複雑な話になるんじゃないかなぁ・・・」と薄々思ったものだが、案の定、の結果。

高裁判決の内容は、まだ全文を見ることができないので、ニュースで報じられている程度のことしか分からないが、どうやら「被告人の犯人性を裏付ける間接証拠の信用性」がことごとく否定された、ということのようだ。

そこで、判例DBに収録されている第一審判決*1を見ると、一審で犯人性の認定に使われた間接証拠の中心にあるのは、

(1)「犯行推定時刻の数時間前に被告人を見たスナックの従業員の証言」

(2)「犯行推定時刻の数時間前に被告人と被害者が一緒にいるのを見た、という通行人の証言」

(3)「犯行推定時刻の数時間前に撮影された被告人と被害者の姿が一緒に映って防犯ビデオの画像」(ただし、上記通行人証言と併せての認定)

(4)「遺体発見現場に近接した場所、かつ犯行推定時刻に近接した時刻に、被告人と被害者が一緒にいるのを見た、という通行者の証言」(ただし自動車運転中に見たものとされる)


といった、一見すると犯人性を強く裏付けるもののように見えて、一歩間違えると危うい識別供述である*2

また、一審では、「被害者の遺留品(化粧ポーチと下着)に関する被告人の供述」が、「被告人が犯人でなければ知り得ないことを知っていた」証拠として、これまた立証材料の一つとなっているのだが、一審判決によれば、これも、「(被告人が犯人だと主張する)第三者が捨てたものの特徴」として供述されたものであるようで、「自白」というわけではないから、結局、今回の高裁判決のようにシビアに評価するとなると、

「色や形にも際立った特徴はなく、当てずっぽうで特徴を言い当てたとしても不自然ではない」

「取調官が知っている特徴に合致するまで供述を求め続け、供述に影響を与えた可能性は否定できない」

(日本経済新聞2012年12月13日付け朝刊・第43面)


ということになってしまう*3

なので、一切の予断を排除して、法廷に現れた証拠だけを見れば、「無罪」という判決結果自体も、“非常識”とまでは言えない、と考えるのが、一般的な法律家の感覚ではないかと思われる。

だが・・・


高裁判決を報じた記事の片隅には、被害者の母親の次のようなコメントが掲載されている。

「良い結果が出ることを信じて待っていました。悔しくて納得できません。絶対に上告していただき、真実が明らかになることを祈り続けます」(同上)


短いコメントだが、これだけでも十分、ご遺族の無念ぶりは伝わるし、判決後のご遺族の挙動を報じる他の新聞社の記事等を見ると、より大きな衝撃も伝わってくるところである。

ここで、専門家の視点から、

「いや、だって、被告人になったから、といって即、犯人と決めてよいわけではないのだから、そんなこと言ったって仕方ないじゃない」


というのは簡単だろう。

しかし、この事件をめぐるこれまでの状況を考えると、そう言い切るのは、躊躇せざるを得ない。

おそらく、「被告人」が逮捕され、法廷に立った姿を見るまでは、ご遺族と「被告人」の間には何らの接点もなかったはず。

それが、なかなか見つからなかった「犯人」として「被告人」が逮捕され、逮捕直後から理由なき安堵感とともに日々大量にメディアに流された「被告人=犯人」視報道に接し続けることになった。

そして、一審の京都地裁も検察官の主張を全面的に認める形で(量刑こそ無期懲役に落としたものの)有罪判決を言渡し、それを前提とした報道が、また大量に流れる・・・。

そうなれば、よほど、刑事裁判の本質を意識している専門家でなければ、ご遺族ならずとも、誰しもが同じ感情を抱くはず*4

この無罪判決が上告審でも維持されるのかどうか、現時点では何とも言えない状況であるが、仮にこのまま判決が確定することになった場合、“梯子を外された”形で、行き場のなくなったご遺族の思いがどうなるか、ということを考えると、いたたまれない気持ちになる。

被害者のご家族をこういう形で追い詰めないようにするためにできること・・・。

「捜査を確実、かつ慎重にやれ」といったところで、今の捜査機関のリソースでできることにはおのずから限度があるだろうし、「判決が出る前から予断を与えるような報道をするな」といって、一切の事件報道を排除してしまえば、かえって弊害が出る可能性も否めない。

本当は、「捜査機関が抱いた確信」をあたかも「絶対的な真実」であるかのように報じるのではなく、あくまで自分の頭で「どこまでの確信をもって報じるべきか考えて」とメディアの方々に言うのが一番早いような気もするのであるが、捜査機関から断片的な情報を与えられただけで、「自分の頭で考えろ」と言ったところで、多くの記者は頭を抱えてしまうだろう・・・


ということで、今答えを出すことは凄く難しいのだけれど、せめて、こういう時は、逮捕直後から、裁判手続きの流れも含めて、被害者側の関係者に、きちんと冷静に、かつ客観的に状況を伝え続けられる専門家を寄り添わせるシステムを設けることで、衝撃を和らげることはできないだろうか・・・と思わずにはいられない*5

示談の要否等を問わず、被害者側に公費で代理人(というか、リーガルアドバイザー)を付すことができるシステムを、拡充することができたなら・・・

今、たら、ればの話をしたところで、当の事件のご遺族にとっては、何の足しにもならないかもしれないけれど、こういうニュースを聞くたびに思うことなので、ついつい書いてみた次第である。

*1:京都地判平成23年5月18日、H21(わ)第519号。

*2:特に重要な(2)、(4)は、午前1時~3時くらいの時間帯に、屋外で目撃した内容を供述した、というものであり、(4)に至っては「車の中から見た」というものだから、その信用性は慎重に判断しないと危ないことになる。現に高裁判決は通行人2名のうちの1名の証言の信用性を、かなり厳しく判断したようである。

*3:第三者を陥れるために、取調官に迎合して適当な供述をするリスクは、虚偽自白のリスク以上に大きい、というべきだろうから・・・。

*4:ちなみに、本件の被告人の場合、法廷での言動にいろいろと首を傾げたくなるところもあったようで、一審判決の中では「被害者の母に暴言を吐いた」とまで認定されてしまっているし、悪情状として判決の中に取り上げられてしまうような前科(しかも本件を彷彿させるようなものを含む)もあったことから、被害者側としては、より憎悪が募っていたのだろうが、仮にそういった事情がなかったとしても、状況は大きくは変わらなかったような気がする。

*5:これが犯罪事実を争っていない事件であれば、弁護人がご遺族フォローも兼ねられる可能性が皆無ではないのだが、本件のような否認事件になれば、それも不可能である。

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