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30年以上別居の妻が認知症になったら?夫が綴った日々の記録が書籍化

厚生労働省の試算によると、2025年の認知症の有病者数は約700万人となり*1、そのうち約3人に2人がアルツハイマー型認知症と見込まれている。これからますます身近な存在になるであろう認知症だが、80代の高齢になってもその思いをFacebookに綴り、書籍化された夫婦がいる。

*1 参照:認知症施策の総合的な推進について

テネシー州ナッシュビルの音楽業界で、現役時代はそれこそバリバリ働いてきた夫婦だ。だが妻がアルツハイマー病とパーキンソン病と診断され、二人の生活は大きく変わった。夫も85歳になるが、看病の日々をFacebookで綴り続けていた*2。そしてこの度、2019年10月から2020年10月までの45回の投稿をまとめたものが『Stardust: An Alzheimer’s Love Story(スターダスト:アルツハイマーの恋愛物語、未邦訳)』として書籍化された。夫いわく、大切なパートナーの記憶力が低下していく中で、文章を書くこと、それを読んで励ましてくれる人たちが大きな支えになったとのこと。

*2 参照:https://www.facebook.com/edward.morris.50

STARDUST: An Alzheimer's Love Story


ノーマ・モリスは今や別人のよう。奇跡的な医学の進歩が起こらないかぎり、元の彼女に戻ることはないだろう。ノーマに物忘れの兆候が見られるようになったのは2015年頃だ。アルツハイマー病とパーキンソン病、両方の診断が下された。

アルツハイマー病は脳細胞の変性を引き起こし、思考、行動、社会的スキルの継続的な低下と重度の記憶障害につながる。パーキンソン病は進行性の神経系障害であり、震えやこわばりが出て、動きが遅くなる、顔の表情が乏しくなる、声が小さくなる、不明瞭な話し方になるなどの症状がある。(参照:メイヨー・クリニック)どちらも薬で進行を遅らせることはできるが、治癒はできない疾病だ。

以前の彼女について、「 “エレガント” という言葉が真っ先に浮かぶね」と夫のエドは言う。



本書には、物忘れが多く、怖がりで、言いたい言葉がなかなか見つからないノーマの姿が描かれている。

「お母さんに会いたい」と言って、ノーマが私を見上げる。まるで私がそれを実現してあげられるかのように。この瞬間ほど、彼女をかわいそうに、そして愛しく感じたことはない。ノーマの母親は34年前に他界しており、もう何年も母親の話はしていなかったのに、なぜ今?彼女を抱きしめ、守ってあげたいと感じた。私の記憶から、彼女の母親を生き返らせたいと思った。

頑固にもなるので、毎日の薬を飲ませるだけでも壮絶な戦いになることも多い。だがウィリー・ネルソンのアルバム『スターダスト』を聴くと心穏やかになるので、毎晩の習慣にしており、本のタイトルにもなった。

音楽の中心地ナッシュビルでキャリアを築いてきた夫婦

エドとノーマは長年、ミュージック・ロウ*3の立役者だった。『ビルボード』誌の編集者だったエドは、カントリー・ミュージック・テレビのウェブサイト、CMT.comのライターも務めていた。ノーマは、娘のエリンが経営する音楽PR会社「Morris Public Relations」で働き、クライアントにはグラミー受賞歴のあるラルフ・スタンレーやスティーヴ・ウォリナーなど著名ミュージシャンもいた。広報の前も、教科書の執筆や雑誌の写真提供なども手掛けていた。「何をやっても有能でしたが、その力をそっと発揮するタイプでした」とエドは振り返る。

*3 テネシー州ナッシュビルにある、音楽関連企業が集中する地域。カントリーミュージックの代名詞でもある。

しかし、夫婦といえど34年間別居状態だった。それが二人のスタイルだった。だが今は、エドがナッシュビル郊外のノーマの家に引っ越し、介護に専念している。「母に尽くしてくれる父に、とても感謝しています」とエリン。「体がだんだんと不自由になり、コミュニケーションも取りにくくなっていく母を24時間介護する生活です。私たちも手伝ってはいますが......心の底から愛していなければ、とても難しい、きつい役目だと思います」

音楽業界で磨きをかけてきた文才で綴られた闘病記

本の中の一節を紹介しよう。

ノーマは無性に何かを求め、その強い衝動から震え始める。万華鏡の中のかけらのような壊れた記憶の破片で、何かに焦点を合わせようとする。言葉をつむぎだそうと唇を動かすが、見つからない。根元から折れる木のように前かがみになり、細い腕をテレビのほうへ伸ばす。冬のシカモアの木が太陽を求めてその枝を伸ばすように。

音楽PR会社Shock Inc.の代表、エレイン・ショックは語る。「エドの文章は美しいだけではなく、精神的な強さも感じます。時に胸が張り裂けそうになりながら、すべての投稿を読みました」

介護記録といえど、面白おかしい場面も出てくる。エドのスポーツ嫌いな一面や、あらゆる肉体労働、自宅の修理作業が嫌いなことなど(これがノーマと別居する一因でもあったようだ)。

ノーマは私生活を明かさないタイプだったが、この本の出版に反対はしないだろうとエドは確信している。以前、エドが二人の結婚生活について書いたウェブ記事*4 についても承諾してくれていたから。

*4 The key to our successful marriage: Separate houses

「社会に差し出せる真実は多ければ多いほど良いと思っています。記者のような思いで書きました」とエドは言う。似た境遇にある人たちの励み、そして役に立つ情報になればと期待している。

「悲しみや下り坂ばかりではないと示す本になったと思います。何か生きる喜びを見つけて活力が湧けば、ずっと生きやすくなる。介護者が目の前の状況をどう感じ、どう捉えるかも大きいと思うのです」

By Jim Patterson
Courtesy of The Contributor / INSP.ngo

イラストすべて
by Shannon Kelly

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