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田中角栄「戦争嫌いの思想」を受け継ぐ94歳の無所属新人と小沢一郎

先週末、埼玉12区で94歳の方が総選挙に出馬するというニュースが流れた。
リンク元(スポーツ報知)はすでにないが、以下のような記事だった。

94歳無所属新人、蓄えた葬式代つぎ込み出馬…埼玉12区
 埼玉12区に無所属新人で立候補した川島良吉氏は、御年94歳。今選挙の最高齢候補者となるおじいちゃんは
「葬式代としてためていた年金を選挙資金に充てた」と覚悟を口にする。
 一方の最年少候補者は群馬4区の民主・青木和也氏。投票3日前の13日に25歳となる。
 94歳ながら、視力1・2を誇る両目は鋭い眼光を放つ。国の行く末を憂う川島氏は、立候補の理由を明快に語る。
「オレの出番だと思ってしまったんですよ」。
 供託金300万円は葬式代にと、ためていた年金から捻出した。まさに不退転。覚悟の初出馬だ。
 政治家を志したことはなかったが、各党の主張を聞くうちに闘志がたぎった。
「右傾化する安倍(晋三・自民党総裁)や石原(慎太郎・日本維新の会代表)から『軍』なんていう言葉が普通に出る。
 橋下(徹・同党代表代行)もムチャクチャ。無条件降伏したのに。日本はどうなっちゃったんだ、という不安がありました
」。
 耳は少し聞こえにくいが、話し出したら止まらないマシンガントークが武器だ。
 第1次世界大戦が終結した1918年に生を受け、第2次大戦勃発の39年に徴兵。中国での7年間の戦闘では多くの仲間を失った。
「オレは戦争で死なず、散々いい思いをした。このままじゃ死んでいった仲間に申し訳ないと」。そんな思いが出馬へと背中を押した。
 先月30日に自宅に親族を集めて「出馬表明」。最初は反対した親族も熱意に負けた。
「友だちに手伝ってもらおうと思ったけど、もうみんな死んでいなくなってた」
 カマド販売業、金融証券業などさまざまな仕事に従事した。今は埼玉県羽生市の自宅で一人暮らし。腰は真っすぐ。足取りは軽快だ。
 炊事、洗濯、掃除から車の運転まで自分でこなす。総務省選挙部管理課によると、94歳は今選挙の立候補者1504人の最高齢となる。
 埼玉12区は民主・本多氏と自民・野中氏の対決に、自民を離党した元県議・森田氏が加わる激戦の構図だ。
「正直勝てるとは思っていない。でも訴えたいんですわ」。
 公約は憲法9条順守、原発反対、天皇を「象徴」ではなく「元首」とすること。
公示直前の出馬決定で活動は出遅れたが、ようやく7日、チラシとポスターの作製に着手した。今後は街頭演説も行う予定だ。
「男ってのはね、やるときゃやんないといかんのよ」―。

※太字下線部はブログ主


この記事を読んだ時には、「素晴らしいジイちゃんだナ、オレが埼玉12区なら応援するナ」と思いつつツイッターに記事を流した(ちなみに私は埼玉4区で、立候補しているのは民主、自民、維新、共産の4人。まったく選択肢がない)。

ところが今週になってから『田中角栄の昭和』(保阪正康著)という本を読んで、この川島さんの居ても立ってもいられない思いがいかなるところから湧き出ているのかがわかり、さらに94歳の出馬に納得したのである。

同書によれば著者の保阪氏は、かつて田中角栄がロッキード事件の一審判決を受ける直前、角栄の地元後援会・越山会の機関紙『越山』の投書欄に投稿していた熱烈な「角栄ファン」32人に会って取材したという。
その中の一人に角栄と同い年の山岸政孝(仮名)という人がいた。この山岸さんの部分を以下に引用する。

 山岸は初対面の挨拶を終えるや、「わしは田中さんと同じ、大正七年生まれなんや。だからその考えがよくわかるんや」とせわしげに話し、そのあとは、「田中さんはそんなわるい人やない、五億円もらったなんて嘘や、いやたとえもらっていてもかまへんやないですか、むしろアメリカから外貨を獲得した功労者や」と矢継ぎ早に話を進めていった。私は時折、メモをとりながら、これまでと同じ田中ファンの類か、と心中でうんざりもしていた。山岸は髪の薄くなった頭の汗をぬぐい、音をたててアイスコーヒーをすすり、田中を感情的に礼賛し続けた。
(中略)
 ひととおりの話が終わって、雑談に移ったが、私に年齢を尋ねるので、四十三歳(当時、昭和五十八年)だと答えると、「兵隊の苦しみはわからん世代やな」と失望の表情になった。しかし、私が昭和陸軍に関心をもち、その内実について詳しく調べていると知るや、山岸は「これはわしらの世代ならみんな心で思うていることなんやが……」と声を低めて、「わしが田中さんを好きというより、尊敬しているというのは、あの人は戦争が嫌いだったと思うからや。あの人は、仮病を使ってでも軍隊を離れた人と思うからや」と言葉を足した。
 その意味はどういうことか、と執拗に尋ねると、「いいか、これはあんまり広言したらあかんことや。あの人は『兵隊なんかやっとられん、戦争なんかで死んでたまるか』というタイプや。だからわしらは信じるんや」という意味の言をくり返した。それをまた私は、メモをとらないという約束で質していくことになったが、山岸との対話がしばらく堂々めぐりを続けたあとに、彼は意を決したように次のような言を吐いた。
「わしらの年代が兵隊検査を受けたのは、昭和十二年から十三年だった。支那事変がはじまったころや。支那に鉄砲かついで送られるなんてまっぴらごめんや。兵隊になったら、でもそんなこと言ってられん。そうすれば、兵隊から抜けだすには三つの道しかあらへんやろ……」
(中略)
田中さんは自分の軍隊体験を克明に話していないし、書いてもいない。わしは断言はせんが、田中さんが好きなのはわしと同じような『戦争なんかで死ねるか』という意思をもっていたように思えるためだ。あの人は、決して日本を軍国主義にはしないよ。それだけは断言できる
(中略)
 田中の年代は、二十歳(大体は昭和十四年か十五年に入営)で兵役に就いた。すでにはじまっていた日中戦争、それに呼応するかのように対ソ連を意識した張鼓峰事件、ノモンハン事件、そしてアメリカ、イギリスとの正面からの衝突では末端の兵士として戦場を体験している。敗戦時はまだ三十歳前だが、それ以後は国土再建という社会の中枢に身を置き、ひたすら物量経済の肥大化の尖兵の役割を担った。この大正七年生まれは、戦争によって九%近くが亡くなったとの統計もあるが、近代日本の軍事政策の犠牲者としての数は、とびぬけて多い世代なのである。
 田中の心中に、自らの世代に課せられた歴史的辛苦が、決して天災ではなく人為的な結末だったとして、その怨念がひそんでいたか否か、私には正確には判断できない。だがこの世代の人びとは、田中の軌跡のなかに自らの人生の苦衷や憤懣を代弁しうると仮託されていたように思えてならないのだ。田中もまたそのことを自覚していた節がある。
 田中の七十五年の人生に凝縮していた真の思いとは一体何だったのか。それをさぐるには、田中は戦争を体験した世代の記憶をどのように共有していたか、あるいは拒否していたかを丹念に見ていかなければならない。そこから〈田中角栄〉の実像が浮かんでくるはずである。

※太字下線部はブログ主。

1918年は大正7年、つまり川島さんと田中角栄は同い年なのだ。
そして、恐らくは川島さんと角栄、そして保坂氏の著書に出てくる山岸さんにはこの世代特有の「戦争はいかん」「戦争は嫌いだ」という共通の思いがあったのだろう。
そういう世代の生き残りである川島さんから見ると、今の世の中は危なっかしいことこの上ないのだと思う。

なにしろ戦争を煽る言葉が「政治家」から普通に出て、それをマスメディアがさらに煽っている。
石原慎太郎というのは、前回の国会議員時代はごく一部の素っ頓狂なタカ派で相手にする人はほとんどいなかったが、いまや「戦争をするぞ!」と喚きたててそれなりの脚光を浴びている。

・くろねこの短語
街頭演説で「戦争するぞ!」と喚く日没の太陽族・・・哀れなり&敦賀原発廃炉となれば、「廃炉こそ新しい公共事業」(田中康夫)の絶好のテストケースになるんだが・・・。

一方、第二次大戦のA級戦犯の孫(この人物自らは福島第一原発破局事故のA級戦犯)は憲法を改正して自衛隊を国防軍にしたいのだそうだ。この男が現状では次期総理大臣の最有力候補だというのだから、恐ろしい世の中である。

そうした中で、田中角栄の流れを汲む小沢一郎は、日本の右傾化に対して強い懸念を表明しているが、マスメディアは相変わらずこのことをまったく伝えない。

しかし、私は今、「戦争嫌い」という田中角栄の思想はとてつもなく重要だと思う。

ある時期まで、朝日新聞や朝日ジャーナルを読むことですっかり洗脳されていた私は、恥ずかしながら田中角栄を長らく悪の金権政治家だと思っていた。

しかし、一方で確かに田中角栄は自民党の中でも軽武装派で、どことなくリベラルな雰囲気があったと思うし(当時はそこに着目しなかったが)、軍隊経験を持つ竹下登にも確実にその雰囲気があった。
さらに竹下派七奉行と言われた政治家の中にも、この角栄の遺伝子を受け継いでた政治家はいた(私見ではそれは、梶山静六、奥田敬和、羽田孜、小沢一郎)。
あるいは後藤田正晴。この人の晩年の発言は、およそ旧内務官僚、警察庁長官経験者とは思えないほどリベラルだった。

こうしてみると、かつて自民党内の最大派閥だった田中派に集まった面々というのは、もちろん角栄がくれる選挙資金や利権のみが目当ての議員もいただろうが、一方で「戦争嫌い」の角栄の思想に共鳴していた議員も少なくなかったのだと思う。

ところが田中角栄はロッキードで潰され、竹下登はリクルートで潰され、いま小沢一郎が潰されようとしている。
つまり保守の側の良質なリベラル勢力は常に検察とマスメディアの標的となり続けたのである。
小沢の場合、対検察との闘いはほぼケリがついたが、それでもマスメディアの攻撃はとどまるところを知らず、手を変え品を変えのバッシングと印象操作が今も続いている。
なかでもその先頭に立っているのが朝日新聞だが、第二次大戦の重大な戦争責任があるこの会社にとって、「戦争嫌い」だった角栄の後継者は仇敵以外の何者でもないのだろう。

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