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【読書感想】2016年の週刊文春

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「(新谷(学・『週刊文春』元編集長)は)編集者としても能力が高いと思うんですが、一番驚異だったのは取材者、記者としての能力でしたね。要するに人脈。『新谷くん以外には会わへん、話さへん』というタマを山ほど持っとるわけです。そこまで落とし切っている。人間関係をズブズブにしてしまう力、人に可愛がられる力がとんでもない。花田(紀凱)さんは雑誌づくりの天才。でも、人脈を情報に変えてしまう能力に関しては、新谷さんが圧倒的に上じゃないでしょうか」(西岡研介)

 しかし、新谷と飯島勲(小泉純一郎元総理の主席秘書官)の蜜月は、ひとつの記事によって突然終了する。

<小泉首相秘書官が月4回密会する北朝鮮工作員>(2003年1月16日号)である。担当デスクは新谷自身だった。
「日朝交渉の時に飯島が使っていたエージェントが、朝鮮総連系のスパイだったんです。ユン・ギジュンという男で、金正日体勢でナンバー2の張成沢(のちに甥にである金正恩の不興を買って2013年12月に処刑)の親戚と言われていた。小泉首相の側近が北朝鮮のスパイを使っていいのか、とドッカーンと大きくやりました(笑)」(西岡研介)

 記事を見た飯島は激怒した。新谷のことはこれまで散々面倒を見てやったつもりが、こんな掌返しをするのか。

《「もう訴えるぞ! 謝罪広告出させてやる!』と言われ、私も「しょうがないですね」と答えるしかなかった。結局、東京地裁に名誉毀損で訴えられた。飯島さんと私は証人尋問に出て直接対決することになった。》(新谷学『「週刊文春」編集長の仕事術』)

 新谷はごくあっさりと書いているが、普通の取材者には大切なネタ元との関係を断ち切ることなど決してできない。日本の最高権力者の側近とつきあえば、耳寄りなネタがいくらでも入ってくるからだ。その上、首相秘書官と北朝鮮工作員の関係を報じたところで、世間を揺るがすほどのトップニュースにはなり得ない。記事を握りつぶした方が、新谷にとっても『週刊文春』にとっても得なのだ。

「新谷のように、自分でリスクを取って取材してくる人は本当に少ない。相手に嫌われても、自分の大切な人間関係を壊してでもネタを取ってくる人はほとんどいないんだよ」(鈴木洋嗣)

 ひとつの情報を手に入れるために、現場の記者たちがどれほどの努力をしているか。そのことが、同じ経験をしてきた新谷にはよくわかる。自分のネタ元との関係を保つために、部下の努力を握りつぶすことなど決してできない。新谷はそう考える人間なのだ。

「俺のモットーは、『親しき仲にもスキャンダル』。友達でもネタ元でも何かあれば書くよ、と。情に流されやすくて、誰とでもすぐに仲良くなってしまう自分への戒めもこめています」(新谷学)

 かくして飯島勲との関係は断ち切られてしまった。

 『週刊文春』では、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川さんの少年たちへのセクハラ疑惑を積極的に採りあげていました。

 ジャニー喜多川およびジャニーズ事務所は新聞やテレビから一切の批判を受けることなく、芸能界における絶大なる権力と影響力を長く保ち続けた。2019年7月9日にジャニー喜多川が亡くなった時、少年たちへのホモセクハラに触れた主要メディアは『週刊文春』だけだった。

 権力の監視者を標榜しつつも、実際には極端に臆病で従順なのが日本の新聞やテレビだ。諸外国とは異なり、日本の新聞社とテレビ局は資本関係でつながる異常な構造を持つ。読売新聞と日本テレビ、朝日新聞とテレビ朝日。テレビ局は許認可事業であり、規制に弱いのは当然だ。政治記者は政治家に食い込み、同様に芸能記者は芸能事務所に食い込み、様々な形で便宜を図ってもらううちに、いつのまにか取り込まれ、やがて何も言えなくなる。

 権力者は、自分にとって都合のいい情報だけを発信し、都合の悪い情報は徹底的に隠す。だからこそ不都合な真実を伝える週刊誌、特にタブーを恐れない『週刊文春』は権力者からはことさらに危険視され、敵視され、忌避されるのだ。『ニューズウィーク』は「週刊誌がおじけづいたら、誰が政治家に楯突くのかと考えると絶望的になる。日本の新聞はあまりにも臆病だから」と書いた。

 紙の雑誌がどんどん売れなくなっていくなかで、『週刊文春』も、デジタル化、ネットでのニュース配信での収益化に舵を切ろうとしているのです。

 記事の内容がテレビで採りあげられるときに「使用料」を徴収するようにもなりました。
 そんな高い志があるのなら、芸能人のスキャンダルじゃなくて、政治家の汚職とかだけを追うようにすればいいのでは、とも思うのだけれど、実際に「売れる」記事は芸能人のスキャンダルのほうなんですよね。

 まあでも、人間、そんなものだよね、僕だってそうだし。
 ベッキーさんの「センテンススプリング!」とか、爆笑してしまったものなあ。

 『週刊文春』は、日本に残された、唯一の「メジャーであり続けているジャーナリスト集団」なのかもしれません。
 「親しき仲にもスキャンダル」を貫くのって、キツイことですよね。
 書く側も「人間」であることが、あらためて伝わってくる本でした。

fujipon.hatenadiary.com

『週刊文春』と『週刊新潮』 闘うメディアの全内幕 (PHP新書)
作者:花田 紀凱,門田 隆将
発売日: 2018/02/02
メディア: Kindle版






完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)
作者:柳澤 健
発売日: 2017/02/03
メディア: Kindle版






「週刊文春」編集長の仕事術
作者:新谷学
発売日: 2017/03/13
メディア: Kindle版

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