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【120カ月目の飯舘村はいま】「間違いなくあれで良かった」 前村長が伝承館で自画自賛講演 「ゴーストタウンにはしたくなかった」「村民の事を考えての判断」

昨年10月まで6期24年にわたって飯舘村長を務めた菅野典雄氏が14日午後、双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」で講演。原発事故後の自身の対応について「村をゴーストタウンにはしたくなかった」、「村民の事を考えての判断」などと自賛した。しかし、70分間の講演のうち、具体的な原発事故対応について語ったのは3分の1程度。次世代に何を教訓として語り継ぐのか提言も無く、ぼんやりした話に終始する一方で初期被曝は否定。原発事故発生当時の首長講演としては非常に物足りない内容だった。



【こだわった「車で1時間」】

 自ら「福島から学ぶ」「未曽有の複合災害の記録と経験・教訓、復興のあゆみを将来へ伝え、つないでゆく」と掲げる伝承館で行われた講演会。だが、菅野氏が原発事故発生直後の自らの対応について語ったのは3分の1程度。それも自画自賛に終始する内容だった。

 「テレビや雑誌などでずいぶんと話題になっていたので来てみたが、大変素晴らしい。いろいろな意見に惑わされないように頑張って欲しい」

 冒頭、伝承館をそう持ち上げてみせた菅野氏。14分が過ぎ、ようやく村の原発事故被害に言及した。

 「飯舘村はかなり(原発から)離れていたわけですが、後から『年間20mSvを超えるので計画的避難地域』という事で『概ね1カ月以内に避難するように』という事がありました。後発の避難でしたから避難場所が無い。首相官邸に行ったら『ちゃんと用意しておきました。長野県に700、岐阜県に800…』という事で官房副長官から提示されました。でも、申し訳ないですがお断りしますよと。戻って来てから『車で1時間以内の場所』を役場職員など関係者の皆さん、必死に探してくれました。結果的に村の人口の90%が村から1時間以内に避難しました。通勤時間をちょっと延ばす事で辞めなくて良いんじゃないか。転校しなくて良いんじゃないかという事を考えたのです」

 「避難まで発災から3カ月かかりましたから、『村民をモルモットにする気か』など、もういろいろな事を言われました。私なりに(放射線の健康影響について)知らない中でもかじりかじり(やりました)。『このくらいなら大丈夫じゃないか』という事であります。一番のポイントは、ここの館長さんでいらっしゃる高村先生。多分いち早く飯舘村に来ていただいて、放射性物質の数値から何からいろいろを…。追って山下(俊一)先生にも来ていただきましたが、そういうのがあったので村民からはいろいろと言われましたが、後々の事を考えれば1時間以内に(避難させて良かった)という事であります。

もし国の言うように長野県や岐阜県に行っていたら、とてもとてもこのような話にはならないのではないのかな。課題について話し合う集まりも出来ました。『国の手先じゃねえのか』とも言われましたが、少なくとも村民の事を考えての判断でした」

 特別養護老人ホームに入居するお年寄りも避難指示の対象になっていた事について、当時「それが国のやり方か?違うんじゃないの?室内は年20mSvに達しない」と国と闘ったと胸を張った。




菅野氏と〝お友達〟の高村館長は何度もうなずきながら講演を聴いていた。終了後には菅野氏の原発事故対応を絶賛してみせたが、一般聴衆からの質問を受け付ける時間は設けられなかった=福島県双葉郡双葉町中野高田

【「初期被曝していない」】

 当時の想いを「村をゴーストタウンにはしたくなかった」と振り返った菅野氏。一方で、こんな事も口にした。

 「避難させられた私たちは被害者。原発政策を進めてきた東京電力さんと国は加害者という構図があります。当然、われわれは被害者の立場に立ち、常に加害者に強い話をするが、原発事故は起きてしまったわけです。起きてしまった事はどうしても元には戻らないのです。いかに復興をさせていくか。実をとっていくのが私の務め。ただただ被害者、という事だけを声高らかに言っていて良いのかどうか。いろいろ言われるかも知れませんが、相手の立場も十二分に考えてやった上で要求をする。提案をし合いながら、場合によっては折り合いをつけるのも大切なのではないか。今になって整理してみると20以上、国からしていただいたなと思います」

 菅野氏は「絶対に安全だと言われた原発で爆発事故が起きてしまった」、「何を学んで次の世代にバトンタッチするのか」とも語ったが、「本当の豊かさとは何か」というような話ばかりで具体的な提言は無かった。また、津波で親を奪われたいわゆる「震災遺児」を挙げ「(原発事故被害は)大変だけれど、頑張れる余地はあるんじゃないか」とも。津波被害と原発事故被害は比較して論じる事柄では無いが、これも在職中からたびたび口にしている事だった。

 終了後、取材に応じた菅野氏は「避難まで3カ月を要した事が良かったのか悪かったのかは後世の判断に委ねるしかないです。私としては間違いなくあれで良かった。100点では無いけれど、一番高い点数だったと思っています」、「初期被曝?初期被曝したというのは無い。ずっと推定線量でやられたから。飯舘村は常に推定線量が高く計算されていたから。ただ私は何度も言うように高村さんにしろ何にしろ、いろいろ聞いて、あの線量だったらガンになるという話は少ないだろうとある程度分かっていた」と答えた。

 また、2011年3月15日に「いちばん館」前のモニタリングポストで44・7μSv/hを計測したものの広く村民に知らせなかった、NHKがテロップで数値を流したのでやめるよう抗議した、と指摘されている点については「健康にどの程度影響するのかが分かるまで待ってくれという話をしたと認識している。数値は毎日のように下がってましたから。数値の意味も分からないのに公表すると、かえって村民の皆さんに大変な想いをさせるんじゃないのかという事。放射能について無知識だから」と、積極的に村民に周知しなかった事は認めた。

 NHKへの抗議については「今中(哲二)先生には抵抗したよ。かなりやり合った記憶はあるが、発表するなとNHKに抗議した記憶は無い。少なくとも健康影響が分からないというのがあった。しかも、数値が出ていたのは飯舘村だけなんだよ。他の町村は入って線量確認が出来なかった。もっと高かったはずだけど。飯舘村は入れたので44・7という数値が確認出来た。数値を出したくなかったのではなく、意味合いが分からないのに数値を出すとね」と答えるにとどまった。

2011年7月の村の広報紙。「44・7μSv/h」や「高村さんの講演会」が小さく触れられている



【〝お友達〟館長も絶賛】

 菅野氏は70分ほど語り尽くしたが「お時間の関係で」聴衆からの質問を受ける時間は無し。「質疑応答の時間くらい設けられているのかと思ったので残念」との声もあった。

 その代わりに、伝承館の高村昇館長が「参加者を代表致しまして御礼の言葉を」マイクを握り「このような素晴らしい話をしていただいて本当にありがとうございます。伝承館は震災10年目のイベントを種々させていただきましたが、その最後を飾るにふさわしいご講演だったと思います」と述べた。

 「実は菅野前村長とは2011年3月26日に初めてお目にかかりました。私は福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーとして自治体を廻って講演会をしていたんですが、3月26日は飯舘村にお邪魔しました。600人の方に来ていただいて講演会をしました。

前村長から『村民のほとんどが放射線の話を聴くのが初めて。中学生に話すように講演してくれないか』と言われたのを良く覚えています。さらに10日後、『私の話などを基にして飯舘村としては、ちょっと線量の高い地域の人、あるいはお母さんとか妊婦さんは村内の比較的低いところに移す。そして小学生中学生は隣町にバスで学校に通わせる。そういう事を考えている。その事を村民にもう一度説明してくれないか』と頼まれました」

 「当時、情報が錯そうして混乱して国からの指示で飯舘村は計画的避難という事になりましたが、国から明確な指示が出ない中で当時の菅野村長は、村民への思いやり、村民への愛を大事にしながらギリギリの中で施策を考えておられたのを目の当たりにしました」

 「今日は伝承館への重要な提案もいただきました。より良い伝承館にしていきたいと思いますので、今後とも大所高所からご指導いただければと思います」

 スタッフが講演の動画を撮影していたが、広く公開される予定は無いという。

(了)

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