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天下り?

なんかその、原発を容認する最高裁判決を書いた判事が東芝に天下っていたとか主張している人がおり、どうも震源はこのあたり(My news Japan)なのかな。全文は登録しないと読めないとのことなのですべては確認していないが、事実関係に根本的な誤りがあるとは言えないもののその評価がおかしいように思われる。なので、情報全体を見てなおこれが天下りだとか癒着だとか考えるならそれはそういう価値判断もあるかもしれないがどうせtwitterとかで結論だけがばらまかれて独り歩きするのだろうなあと思うと、いつものデマ増幅の構造と同じだなと思う。あるいは東大の寄附講座の事例と同じね。あれも計算方法とかをすべて踏まえてなおそのような産学連携関係は許せないと思うならそれはそういう立場もありだとは思うが、基本的にはそのあたりの背景を踏まえずに「5億円5億円」と叫んで回るあほおを増やしただけだったから無能かデマゴーグかという話になったわけですな。

さて、で今回の話。問題になっているのは味村治氏なのだが、まず氏が(1)検察官出身であり、(2)最高裁裁判官としての在任中に「四国電力伊方1号炉訴訟」と「東京電力福島第二原発1号炉訴訟」に関与し、(3)退任後に東芝の社外監査役を務めたという点に誤りがあるわけではない。しかしよく見るとどの要素も嘘とは言えないが正しく判断するのに十分な情報を含んでもいないことがわかる。順に検討していこう。


まず(1)味村氏が元検事であるという点。確かに氏は東京帝大を卒業後、司法修習を経て東京地検の検事に任官している。だが司法修習第1期というから昭和22年から24年まで(おおむね氏の23〜25歳)が修習で、その後に検事になり、1954年(30歳)以降はほとんどの経歴を法務省や内閣法制局で過ごしているというからそれまでに検察官として本格的に仕事をしたのは5年程度に過ぎない。もちろん東京高検検事長は務めているのでゼロでもないとは思うが、法務省で取り組んでいたのが商法改正作業であること、最高裁判事前の最終官職が内閣法制局長官(55代・1986-89)であることと合わせ、基本的には法制官僚であって検察官としての性格は非常に薄いと考えた方が良い。

この点、実は氏が最高裁判事(1990.12〜94.2)を務めた経緯からも読み取ることができ、つまり氏の前任者は内閣法制局長官(53代・1979〜83)を務めた角田礼次郎氏(最高裁判事1983.11〜90.12)、後任の後任も内閣法制局長官(57代・1992〜96)を務めた大出峻郎氏(同1997.9〜2001.12)である。要するにこの時期内閣法制局長官は一代おきに最高裁裁判官に選ばれていたのであり、かつ出身が検察にはまったく限定されていないことを考えると(注)、この任命は検察官だからではなく官僚枠と考えた方が良い。実際、味村氏と大出氏の間にこの枠を使っていたのは労働官僚であった高橋久子氏(同1994.2〜97.9)、大出氏の後任は厚生官僚の横尾和子氏(同2001.12〜08.9) である。

つまり味村氏が検察官出身なのは間違いないが、そのことと最高裁裁判官に選ばれた経緯、あるいは在任中のスタンスを関連付けて語るとすればミスリーディングだろうと、そういうことになる。つうか「官僚枠で選ばれた最高裁判事が!」みたいな書き方をしてあればまだこのあたりのシステムは分かっているのだなと思って多少感心したのにな、という感じ。

(注) 「内閣法制局長官」という職名になった49代・林修三(大蔵省)以降、高辻正己(内務省)、吉國一郎(商工省)、真田秀夫(未詳)、角田礼次郎(内務省)、茂串俊(大蔵省)、味村治(検察官)、工藤敦夫(未詳)、大出峻郎(未詳)、大森政輔(裁判官)、津野修(大蔵省)、秋山収(通産省)、阪田雅裕(大蔵省)、宮崎礼壹(検察官)、梶田信一郎(自治省)。


次に氏が(2)「四国電力伊方1号炉訴訟」と「東京電力福島第二原発1号炉訴訟」に関与したという点。これは書き方に注意したところで、この表現であれば嘘ではない。一方、問題の記事の表題のように当該判決を「書いた」と言えばほぼ誤りである。どういうことか。

両判決の全文は、最高裁判所のウェブサイトにある「裁判例情報」から簡単に調べることができる。ともに判決日は平成4年10月29日。チェックすれば分かる通り判決を下したのは第1小法廷で、ともに裁判長は三好達氏である。両判決とも結論は全員一致なので味村氏が判旨に同意していることは間違いないが、その寄与度はせいぜい他の裁判官と同様の1/5、実際には裁判長がやや多いであろうからそれ以下に過ぎない。

また、実際に判決原文を起草したのは調査官である可能性も高いが、最終案をまとめる責任を負っていたのはおそらく裁判長であった三好氏であり、味村氏が「書いた」というのは事実でない可能性が高い。というか実は同日に第一小法廷は新株発行無効確認訴訟と株主総会決議取消訴訟の判決も出しており、(法制官僚としてのご専門に近かったからだと思うが)どちらも裁判長を務めたのは味村氏なので本来の担当でもない事件に手を出しているヒマはなかったんではないかと思われるところである。

念のために言うが、当時の第一小法廷を構成していたのは味村氏以外に上記の三好達氏と小野幹雄氏(裁判官出身)、大堀誠一氏(検察官出身)、橋元四郎平氏(弁護士出身)なので、特に構成が官僚に偏っていたというわけでもない(なので(1)の最後に言及したスジもあまり通りそうにはない)。まあそれでもこの全員なり過半数なりが東芝(その他の原発関連企業)に関係を持ったという可能性がないわけでもないとは思うから、そう思う人は調べると良いと思う。しかしまあまず常識的に三好達氏のその後から当たらないかね多少なりとも裁判制度とかのことがわかってる人だったら

最後に(3)退任後の話であるが、やはり上記の書き方であれば嘘ではない。つまり味村氏は94年まで最高裁判事を勤めて定年退官し、96年にまあ功成り名遂げたということで勲一等旭日大綬章を受け、98年から約2年間東芝の社外監査役を務めている。この経緯については当該記事にも書いてあるのだが、そのつまりシンプルに言えばこういうの天下りって表現するのかね

典型的な「天下り」と言うのは官僚などが退職してすぐに民間企業や外郭団体の職に就くことであり、もちろん批判をかわすなどの理由である種のクッション的な職を経るパターンも含めて構わないと思うのだが、今回の事例では4年後であり、その間も弁護士のかたわら政府の審議会委員などを務めていたという話だから要するに前後のキャリアに関連性がないのではないか。とにかく政府の官職を務めたものが別の職に就けば天下りだというなら堺屋太一氏は通産省からの、森博嗣氏は文部科学省からの、あさりよしとお氏は大蔵省からの天下りか。

もちろんそんなわけはないのであって、要するに官職とその後のキャリアの相互関係をきちんと指摘しないと、それが天下りかどうかということは判定できない。ところで味村氏の事例で言えば(2)で書いたとおり氏の原発訴訟との関係は極めて疑問なので、その点を突破しない限り原発関係の訴訟に名を連ねた裁判官数十名のその後をかたっぱしから洗ってみたところたまたま一人4年後に原発企業に関係を持った人がいましたというだけのことではないかという疑問が拭えないわけである。で、仮にそうだとしたらそれは原発関連企業と司法のあいだに深い関係があると評価すべき事態なのか、それともそれだけ調べても一人しかいないと表現すべき事態なのだろうか。

念のために言うが、もちろん総ざらえに洗ったら相当の高確率で原発関連企業に再就職してましたとかいう結果になる可能性がないわけではない。私自身は直感的にねえなと思っているが、きちんと調べたわけでもないから本当にそうでしたという調査を持ってこられたら恐れ入る準備はある。しかし今回に問題になった最高裁判決だけでも最低5人の関係者がいるところそのうち一人だけの話で騒ぎ立てるレベルの人にそんなまともな調査できるわけないよねえとも思っているわけである。ラムザイヤー・ラスムッセン両先生は日本の裁判官と自民党との関係を検討するために裁判官265人の経歴洗ってたけどねと、まあそういう話。

***


というわけで。私の本件に関する評価は冒頭でも述べた通り東大の寄附講座の事例と同じであり、これを信じて触れ回る人間が多ければ多いほどまた反原発運動全体の知的水準に対する評価が下がるなというものである。やれやれ。

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