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震災10年 放送されぬ「遺体」

写真:宮城県亘理郡山元町で、亡くなられた方に花を捧げる町長(2011年4月8日) 出典:Athit Perawongmetha/Getty Images

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・亡くなった人の映像はテレビでは放送されない。

・テレビ報道は過度に自粛しているのではないかとの議論あり。

・事件、事故、大災害を風化させないためにどうすべきか。

東日本大震災から10年、テレビや新聞では連日特集が組まれている。テレビでは、津波のシーンが流れる前に必ず「この後、津波の映像が流れます」というテロップが出る。

被災者の方々のPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)に配慮したものだとおもう。

そして気づいている人も多いだろうが、亡くなった人の映像は決してテレビでは放送されない。

震災直後、この問題はテレビ業界でも議論になった。災害の悲惨さを伝えるために、テレビ報道は過度に自粛しているのではないか?それはジャーナリズムにのっとって熟考した上でのことなのか?

そんな問題意識がどこからともなく沸き起こってきたのだ。なぜかというと、海外のメディアが被災地を取材したとき、彼らは日本のメディアのような判断をせず、遺体の写真を報道していたからだ。

実際、殺人現場などを取材したとき、血痕が現場にのこっていることはままある。それを撮りはしても、では実際報道するかというと、編集段階でカットするか、ぼかしを入れるか、してしまっていた。

誰に何かを言われたわけではないが、暗黙の了解でそうしていたのだ。

ニューヨーク特派員として駐在していたとき、南米で日本人の若者が強盗に遭遇し、殺害された事件があった。12月のことだったが、南半球は夏、地面に埋められた死体は腐敗し、発見されたときは骨だけになっていた。現地警察署に安置されていたそのお骨を現地カメラマンが撮影したが、もちろんその映像は放送されなかった。遺族感情に配慮したからだ。南米のテレビ局だったら、おそらくそのまま映像を流すだろう。

話を自然災害に戻す。災害は殺人事件とは違う。悲惨な自然災害の記憶を後世に残すために、我々は過度な放送自粛をすべきではなかったのではないか。そんんな反省を口にする人は震災直後、少なくなかった。

こうした問題意識から、とある東北のローカル局が津波発生時の映像を見せてくれた。大津波にのまれ濁流の中、人がもがきながら流されていく映像が淡々と流れた。それはまるでマネキンのように浮かんだり沈んだりして画面の右から左に流れ、やがて見えなくなった。それはフィクションでも何でも無い。まごうことなき津波の真実である。その映像は決して流れることはなかった。私を含め複数の人間がその映像を見たが、放送すべきだったか、すべきでなかったか。結局、その場で結論は出なかった。

▲写真 宮城県気仙沼で遺体を運ぶ救助隊員(2011年3月16日) 出典:Paula Bronstein/Getty Images

一体、いつからテレビは遺体を放送しなくなったのか?明確にいつから、というのは分からないが、「NHK放送ガイドライン2020」には以下の記述がある。

11 事件・事故 6映像の6項目

「事件や事故、災害などでは死者の尊厳や遺族の心情を傷つける遺体の映像は、原則として使用しない

15 国際・海外取材 2戦争・テロ報道」の5項目

「戦場やテロ現場の映像については、慎重に判断して扱いを決める。遺体の映像は、人間の尊厳や遺族などの感情も尊重し極めて慎重に扱う。捕虜の映像は、人権に十分配慮し必要最小限にとどめる」

また、BPO(放送倫理・番組向上機構)中国・四国地区各局との意見交換会(2011年10月)で、震災報道について議論があった。

「東日本大震災報道」についての「日本のテレビでは遺体映像は出ていないが外国のメディアでは海に浮かぶ遺体の映像が流れたと聞く。どう考えるか」という質問に対し、以下のような意見が出された。

 ・牛や豚が死んでいる映像だけでは真実は伝わらない。次世代にまで伝えるという点では、迫真のある映像を残すことをベースに且つ人間の尊厳を守っていくという観点からまず撮影し、そのうえでボカシを入れるかどうかを議論し、出すべきものは出すという方向性で行かないとメディアとしての意義はない。

 ・欧米のメディアでは遺体を含むはるかに凄惨な画像が通常放送されている。それと日本での扱いとの間にあまりの段差がある。(中略)名前が特定できるとか親族には分ってしまう等の場合は別として、遺体であるから放送しないという一般的な原則が果たして有効かどうか、いま少し議論する必要があると考える。

 ・広島の原爆の時も遺体写真がほとんどなかった。(中略)やはり撮らなければいけない、記録しなければいけない。それを記憶させていかなければいけないというのが私たちの仕事の宿命というか使命だ。

こうした意見は放送業界の中に確かにあった。しかし、自粛は続いている。報道に携わるものとして、この問題は、絶えず自問自答していかねばならないものだろう。

事件、事故、そして大災害を風化させないために。

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