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「それ、アドリブじゃないよね。演技でしょ」野田秀樹・高橋一生がネットニュースに覚える違和感 NODA・MAP『フェイクスピア』対談 - 木俣 冬

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 テレビドラマや映画に引っ張りだこの高橋一生さんが、野田秀樹さんの舞台に出演することになった。高橋さんは舞台出演歴も長く、これまで、故・蜷川幸雄さんや白井晃さんなど、優れた演出家と仕事をし、坂元裕二さんの朗読劇にも参加している。野田さんからも何度かオファーを受けており、ようやく出演が実現した。

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 気になる舞台のタイトルは「フェイクスピア」。フェイク+シェイクスピア? 「フェイク」にあふれる現代らしいタイトルだ。

 ネットニュースに日夜、流れていくニュースのなかから真実とフェイクを見極める知見が我々には求められている。たとえば、コロナ禍で不要不急と思われているものはほんとうにそうなのか。俳優のアドリブとは何なのか。シェイクスピア劇はほんとうに人気なのか。

 正解がよくわからないことについて、野田さんと高橋さんはどう思っているのか。彼らの本音に迫る。



高橋一生さん(左)と野田秀樹さん(右)

◆ ◆ ◆

ワークショップで、給金をもらえてびっくりした20代

野田秀樹(以下 野田) 最初の出会いは、NODA・MAP主催の ワークショップに来てもらったときかな。まだ20代だったよね。

高橋一生(以下 高橋) はい、20代中盤ぐらいかと思います。その前に、大河ドラマ「新選組!」(2004年)で共演しているんですよ。

野田 そうか、あっちのほうが先なのか。「新選組!」には僕はちょっとしか出てないけれどね(笑)。

高橋 勝海舟を演じた野田さんのお芝居が強烈に印象に残っていたので、そのあと、ワークショップに呼ばれて嬉しかったです。

――ワークショップに参加されたときは何を感じましたか。

高橋 参加者がそれぞれアイデアを出して、ひとつのものを作っていく作業がすてきでした。驚いたのが、ちゃんと給金をもらえるんです。

野田 ギャラは大事なことだからね。安くても日銭って意外とうれしいものだよね。

高橋 すごくうれしかったです(笑)。

野田 だから、みんな、NODA・MAPのワークショップに来てくれるんですよ(笑)。ワークショップというと、演劇やダンスのレッスンをして、主催者側が参加者からレッスン料を徴収するものと思われがちですが、欧米だと、主催者側の新作づくりに協力してもらうものとして、参加者に対価を払う場合もあるんです。NODA・MAPは後者としてやっているんですね。

高橋 たとえ日の目を見ることがなくても、無価値になるかもしれないことでも、一日、ワークショップというある種の肉体と頭脳を使う労働をやったあと、お金の入った封筒をもらう感覚がうれしかったんです。給金が出るって、プロとして認められるということですからやる気が湧く人もいると思うんです。

野田 日当のいいところはその場ですぐに使えること。コロナ禍の時期じゃなかったら、ワークショップのあと、あれを持ってそのまま飲みに行けるわけよ。

高橋 僕は封筒を一度握りしめたあと、すぐにばらしてお財布のなかに入れた気がします。別にしておくと、特別なものになりそうだったから、日常、出入り(はいり)するものと混ぜてしまいたかったのかもしれません。

野田 だからこそ、その場で飲み代みたいに使ってしまうほうがいいんだろうね。

新作はどんな舞台になるのか? いいお芝居とは

ーーお金をはじめとして、俳優の価値を数値に置き換えることも必要でしょうか。

野田 それはそうじゃない? 僕がお芝居をはじめた70、80年代頃は、演劇は食えないものの代名詞で、いまみたいに舞台を中心に活動している役者さんが容易にテレビや映画の仕事をできませんでした。いまでも、テレビや映画に出ることは大変だろうとは思うけれど、とりわけ舞台をやっている人間に映像の仕事はまわってこなかった。

 そうなると、芝居だけで食べていきたいと志をもった役者は、なにがなんでも演劇で収入を得る必要があるわけです。芸術のためならお金は関係ないという考え方もあるとはいえ、結局は生活の問題に行き着く気がします。

 だからこそ、コロナ禍によって劇場が経済的に落ち込むことは非常につらいことだし、かんたんに補償の可能性を諦めたり譲ったりしてはいけない。我々に自粛を要求するならば、その分、補償をちゃんと出してくださいと劇場は主張すべきだと思う。

高橋 海外の知り合いに聞くと、不要不急の外出は控えてと言われたうえで、生きる最低限のことは約束されていたりする国が多いですね。「外には出られないけれどその日のご飯はあるよ」にしないと、「外に出るな、ご飯はない」だとDVですから。そういうことが大事だと思います。 

ーー野田さんにとっては今回の新作はコロナ禍以降ではじめて書く新作になります。今、感じる問題がテーマになるのでしょうか。

野田 いや、極力、我関せずなものを書いているつもりです。僕のなかではまだ状況を作品にするほどに至っていないから、書くとしてもコロナが通り過ぎてからでしょうね。コロナについて何か書くことよりも、当たり前だけれど、まずおもしろいものをつくりたいと思います。

 今年に入って再び緊急事態宣言が出て、劇場では客席を半分にすることをはじめ、さまざまな感染対策を行っていて、観劇環境はけっして快適とはいえません。それでもお客さんが、公演を見ている間だけでもコロナのことを忘れることができるとすれば、そういう芝居こそがいい芝居です。まずはそういうものを目指したいですね。

高橋 楽しいのがいちばんだと思います。芸術やエンターテインメントが不要不急であると思われがちですけれど、楽しいといわれる感覚、ひいては文化といわれるものは必要不可欠だと思うんです。そこをぜんぶ切ってしまうと、それを言い出した人たちこそ、自分の首を絞めてしまうのではないかと。

 この1年間、ほんとにそういう楽しいことを諦めて、がんじがらめの世界に陥っている人たちが増えた気がしていて。そう思うのは、ぼくが文化のひとつであるエンターテインメントを仕事にさせてもらっているからというわけではなくて、引いた目で見ても、文化は不要不急ではないと思います。

日本人はシェイクスピアが好きなのか?

ーー「フェイクスピア」というタイトルを聞いたとき、高橋さんはどんなイメージを抱きましたか。

高橋 「フェイクスピア」のためのワークショップをやる前は、そういうタイトルだとは知らなくて、その後、宣伝用ポスター案を見て「フェイクスピア」と書いてあったとき、まず「シェイクスピア」が浮かびました。

 去年、ひさしぶりに出演した舞台が「天保十二年のシェイクスピア」という、井上ひさしさんが、シェイクスピアを意識して書かれた作品で、僕が演じた役はリチャード三世など、シェイクスピア作品の登場人物を合わせたような役だったんです。2年連続、シェイクスピアに縁があるなあと。

野田 でもあくまで「フェイク」だからね(笑)。

ーーフェイクとはいえシェイクスピア的な要素が入ってくると考えて良いのでしょうか。

野田 そうですね。セリフや登場人物の人間関係などはシェイクスピア作品を思わせるところもあります。

――シェイクスピアの作品は日本でいえば戦国時代と同時代の作品です。それだけ古いにもかかわらず日本人には馴染みがありますよね。なぜなんでしょう。

高橋 実際、人気があるのか、よくわからないですけれど……。演劇界以外の人たちはどう思っているんでしょう。

野田 演劇界ではよく上演されているけれど、街ゆく人たちに聞いたら「シェイクスピア? なにそれ?」っていう人も多いんじゃないかな。とはいえ、いまなお上演され続けているだけあるシェイクスピアの他が追随できないところは人間のドラマをほぼ網羅していることです。恋愛、家族、権力争い……。それはギリシャ劇なんかもそうですけどね。

高橋 どちらにも普遍性がありますね。

野田 シェイクスピアとギリシャ劇のふたつのジャンルとも、蜷川幸雄さんが上演して一般に広めたものですね。それがなかったらシェイクスピアって何? って思う人はもっと多かったんじゃないかな。

「俺は現代のシェイクスピア」(笑)

ーー野田さんは、日本の現代のシェイクスピアと考えてよろしいでしょうか。

野田 はい。よろしいです。

高橋 即答(笑)。

野田 これ、活字になったときが怖いね。

高橋 怖いです。

野田 「俺は現代のシェイクスピア」だとか見出しになったりして。なんだこいつって思われるっていう(笑)。

高橋 活字になると発言がひとり歩きするからとても怖いです。発言していなくても、発言したことにされてしまうくらいですから。 

ーーそういうご懸念もまったくそのとおりで。ネットの時代になって、言葉が拡散する力が大きくなったのと同時に、本来の意味からズレてしまうこともあります。たとえば、俳優の演技に関するニュースもひとり歩きしていきます。最近は、SNSで、あの演技はアドリブだったというような記事がよく読まれるんです。アドリブについておふたりはどう考えますか。

野田 へえ、そうなんだ。アドリブとは、セリフのことを言ってるの? それとも動き? 

高橋 セリフもままありますが、主に動きでしょうか。

野田 それ、アドリブじゃないよね。それは演技でしょ。

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