記事

非常事態宣言は再再延長すべきか――自粛の強者、自粛の弱者 - 田中辰雄 / 計量経済学

1/2

1.背景:ゴールポストの移動と世論の延長支持

2021年3月7日、一都3県の非常事態宣言が再度延長された。2月初めの延長に続く2回目の延長である。

この延長は一部で驚きをもって受け取られた。なぜなら当初予定された解除条件は、ステージ3まで下がること、あるいは、新規感染者数が500人を下回るまでとされており【注1】、これはすでに達成されていたからである。現在ではステージ2まで下げることを目指せという声があがり、東京都は解除条件として新規感染者数が140人以下になることを打ち出した【注2】。いわばゴールに達したところでゴールポストを動かしたことになる。

これについてはいろいろな理由づけがされているが、政治的に最大の理由は世論が延長を支持していることであろう。新聞社の世論調査では、延長を支持するとの答えが8割に達しており、解除を求める声を圧倒している【注3】。この点は、少し状況が改善すると解除を求めてデモが起こる欧米とは状況が大きく異なる。8割もの支持があればそれに応えるのは政治家として当然であり、実際、延長後に菅総理の支持率は少し上昇した。

本稿の目的はこの8割の支持の中身を腑分けし、実態を明らかにすることである。新聞社のアンケート調査は全国民の代表性はあるが、その代償として簡単なことしか聞けないため、詳細分析にまで立ち入れない。本稿ではアンケート調査でこれを試みる。結論は次の4点にまとめられる。

1.延長を求める声が強いのは会社員、その配偶者、高齢者である。いずれも自粛のダメージが少ない人、すなわち自粛の強者である。

2.解除を求める声が見られるのは、学生、自由業、エンタメ・スポーツ関係者である。いずれも自粛から受けるダメージの大きい自粛の弱者である。

3.数の上では自粛の強者が多いので、世論調査では延長支持が圧倒的多数となる。しかしそれに従うことが社会として望ましいかどうかには疑問がある。

4.補足:テレビを見る人ほど延長を支持するので、テレビがコロナの危険性を強調して宣言延長を促した可能性がある。

2.調査概要:8割は延長支持

調査は2021年3月8日夜から9日にかけて実施した。時期的には延長の直後である。サンプルはウェブモニター会社の登録者の中で関東地方に住む20歳から59歳までの男女1202人である(調査会社はSurveroid社)。男女と年齢別に分けて均等割り付けを行った。集計に当たっては地域別ならびに年齢別の人口構成比にあうように補正を行っている。サンプル募集にあたっては、バイアスをさけるために「最近の社会風潮について」として募集した。

まず、緊急事態宣言についての見解を尋ねた。用意したのは次の問いである。

問:今回の一都3府県の2週間の非常事態宣言の延長についてあなた自身はどう思いますか? 以下からあなたの考えに最も近いものを選んでください

1.これでは不十分で、もっと長く延長すべきだ

2.この延長で妥当だ

3.延長せずここで解除したほうがよかった

4.そもそも2月初めに解除しても良かった

1と2が延長支持で、3と4が解除支持である。図1の青のバーが集計結果で、延長支持があわせて79.7%となり、8割が延長に賛同という新聞報道の調査結果と同じ結果が得られる。赤のバーは、新聞調査が全国でかつ全年齢なので、これとの整合性を見るために、今回のサンプルデータから全国・全年齢の結果を推測したものである。やはり同じような結果が得られている。8割が延長支持という結果は間違いないだろう。

図1


以下では、便宜的に1,2を選んだ人を延長派、3,4を選んだ人を解除派と呼び、それぞれの特性を見ていくことにする。延長派は79.7%、解除派は20.3%存在する。延長派と解除派とはどういう人たちなのであろうか。

2.延長派は高齢者と会社員、解除派は学生と自由業

まず、地域別に見てみる。地域は東京都、1都3県(神奈川、千葉、埼玉)、それ以外(茨城、栃木、群馬)の3通りに分けて見た。図2がその結果で、赤が延長派、青が解除派の比率である。これを見ると解除派が多いのは1都3県である。解除派は東京では24.4%と4人に一人いるが、茨城・栃木・群馬では15.5%で6~7人に一人に減っている。

考えて見ると緊急事態宣言で経済あるいは社会生活にダメージを受けているのは1都3県の住人なので、その住人に解除を望む人が多くなるのは自然である。それ以外の地域の人は宣言でダメージを受けているわけではないので、延長を望むだろう。1都3県の問題で世論を問う時、全国規模の世論調査を行うことには疑問がある。

図2


次に年齢別に見てみよう。図3がそれで横軸に20代から50代まで4段階で区分した。これを見ると、明らかに解除派は若年層に、延長派は中高年に多い。50代では延長派が83.4%で、解除派は16.6%しかいないが、20代の若年層になると、延長派は67.1%、解除派32.9%とかなり接近してくる。

図3


高齢者が延長派なのは、コロナの死者に圧倒的に高齢者が多いことを考えると自然である。この調査は59歳までしかカバーしていないが、60代、70代になるとこの傾向はさらに強まるだろう。特に引退して年金暮らしになると、自粛に伴う経済的ダメージが無いため延長をためらう理由が無い。少しでも不安があれば延長を支持するのは自然な心理である。

一方、若年層に解除派が見られるのは、自分たちのリスクが少ないことに加えて、若年層はもともと活発に活動するものなので、緊急事態宣言での行動制限により心理的あるいは社会生活上の不満が大きいという面があるだろう。現在、若年層が主役であるエンタメ、スポーツ等の活動は大幅に抑制されている。

図4は職業別である。職業別では差が大きい。最大で25%ポイントの差が生じており、人々の意見が職業ごとに割れていることが分かる。一番解除派が多いのは学生である。学生の場合、40.5%が解除派であり。延長派の59.5%に迫っている。すでに述べたように学生は自身のリスクが少ないことに加え、青春につきもののさまざまの活動をしたい年代にあたり、それゆえ解除を望んでいると考えられる。ついで自由業に解除派が多い。自由業は政府の休業補償措置が届きにくく、経済的ダメージが大きいためと考えられる。公務員に意外に解除派が多いが、理由はわからない。

図4


延長派が多いのは会社員と専業主婦である。これは、現状、企業倒産がまだひろがっていないため、会社員の生活には大きな経済的ダメージが無いためであろう。専業主婦も配偶者が会社員であることが多いとすれば同様である。自営業者にも意外に延長派がいるが、これは休業補償措置がある程度効果をあげているからかもしれない。最近、一部のごく小規模の飲食店では休業補償でむしろ黒字が出たという報道もなされている【注4】。

しばしばメディアなどで話題になる特殊な属性のケースも見ておこう。例えば医療関係者やエンタメ産業関係者、そして高齢者と同居している人等である。図5はこのような特別な属性のある人とそうでない人を分けた時の結果を示したものである。

図5


図で示したのは延長派の比率で、たとえば左端の保健所関係者では延長支持派が88.9%で、そうでない人の79.6%より10%ポイント程度延長支持が多いことを示している。保健所のひっ迫を知る人は延長をより強く支持するからと考えられる。医療関係者、また高齢者と同居している人でも延長支持が大きく増えている。

逆に延長支持が減るのは、スポーツ関連、あるいはエンタメ関連の仕事をしている人である。特にスポーツでは10%ポイント近く延長派が減っている。スポーツとエンタメ産業は経済的ダメージが大きく、また飲食店や小売店と違って政府の休業補償措置が届きにくいからと考えられる。

あわせて読みたい

「緊急事態宣言」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    架空情報を使いワクチン接種予約した朝日新聞出版&毎日新聞 岸防衛大臣の抗議は筋違い

    諌山裕

    05月18日 14:25

  2. 2

    早くもウーブン・シティ開発に着手 にわかに信じがたい豊田章男氏の経営スピード

    片山 修

    05月18日 08:11

  3. 3

    コロナ禍で取り残される「好きなこと」が無い人 誰かを責める前に行動せよ

    かさこ

    05月18日 09:02

  4. 4

    マリエさんの枕営業告発が一瞬で話題から消えた2つの理由

    PRESIDENT Online

    05月18日 16:25

  5. 5

    『週刊さんまとマツコ』はなぜそっちへ行った?残念な理由

    メディアゴン

    05月18日 08:21

  6. 6

    「ワクチン大混乱」を招いたのは誰? 河野太郎の“突破力とスタンドプレー”に現場は困惑 - 辰濃 哲郎

    文春オンライン

    05月18日 10:23

  7. 7

    負傷者数半減は嘘?交通事故を物損事故として扱う警察の怠慢

    紙屋高雪

    05月18日 08:42

  8. 8

    「オリンピックは中止すべき」の調査結果は正しくない〜統計はウソをつく

    新井克弥

    05月17日 14:16

  9. 9

    アドバイザリーボード・分科会と感染研は信頼に足るのか?

    青山まさゆき

    05月18日 08:20

  10. 10

    「週6で働いて手取り15万円」「23時まで残業して月16万円」 低すぎる手取りに疲弊する人々

    キャリコネニュース

    05月18日 16:08

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。