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【120カ月目の富岡町はいま】「やってる場合じゃねえべ」 原発事故被害封印する五輪・聖火リレーに町民の怒り 「どうせやるなら現実を見せろ」

震災・原発事故から10年が過ぎた福島県双葉郡富岡町。しかし〝復興五輪〟などかけ声ばかりで、町民は「復興など進んでいない。きれいなのは一部だけ」と嘆く。聖火リレーも新装された富岡駅周辺をほんの少し走るだけ。いまだ続く放射能汚染も解体で広がるさら地も帰還困難区域のバリケードも封印される空虚なイベントに、多くの町民が首を傾げている。まさに町民不在。現実の町の姿を見ない聖火リレーまで12日に迫った。「五輪・聖火リレーなんかやってる場合じゃねえべ」という富岡町民の言葉は重い。

【「感染症対策に専念すべき」】

 建設業を営む男性は怒っていた。

 「地元のわれわれにしてみればいい迷惑だよ。仕事が止まるんだもん。除染や道路整備の仕事を請け負っているけれど、聖火リレーの前後は仕事しないでくれって環境省から言われて、町もそれを受け入れたんだから。『3・11』に関してはもちろん迷惑だと思わないですよ。慰霊の日に仕事をしないのは当然だと思う。でも、何で聖火リレーをやるからって何日も休工にしなきゃいけないんだよ」

 原発事故が起こるまで、男性は自宅前の家庭菜園でジャガイモなどの野菜をつくり、味わっていた。自宅のある地区は2017年4月1日に避難指示が解除されたものの家庭菜園は断念。代わりに草木が植えられている。2011年3月には1万5960人が町内で生活していたが、避難指示解除から4年になろうとしていても町内居住者は1103世帯1575人にとどまる。周辺には農地が広がるが、何も植えられていない広大な土地がただただあるだけだ。

 「ここは全部田んぼでした。今となっては定期的に保全してるだけ。安倍さん(安倍晋三前首相)は原発事故から10年できれいになっていると思って五輪を誘致したんだろうけど、とてもじゃないけど10年や20年で済む現場じゃありません。これが現実です」

 近くに住む別の男性も「田んぼは、これ以上荒れないように保全作業をしているだけ。具体的な計画はありません。持ち主は皆、町外に移住してしまいました。町内に家はあるけど住んでいない。これが本当の現状ですよね。こういう場所を聖火リレーで走れば現実が伝わるのにね…」と話した。

 建設業の男性は語気を強めた。「25日から聖火リレーが始まるからそれをまたがずに緊急事態宣言を解除するのでしょう。でもね、五輪も聖火リレーも早く中止を決めて感染症対策に専念するべきですよ。世界の誰もが納得すると思いますよ。無観客で五輪やって意味があるのかって思うし、そんな事より人の命を優先して欲しい。地方だからこそ高齢者が多いから。郡山でもクラスターが発生しています。そんな事やってる場合じゃねえべって思います」。

 これが、町の再興に携わっている町民の本音だった。

2017年3月末から休校している県立富岡高校。すぐ近くの林では手元の線量計が0・6μSv/hを超えた。夜ノ森駅周辺には帰還困難区域が存在し、バリケードの向こう側では解体工事が進められている。避難指示が解除された地区では保全するだけの農地が広がる。これらは〝復興五輪〟では伝えられない

【「『生活の復興』まだまだ」】

 富岡町での聖火リレーが予定されているのは初日の25日。

 JR常磐線・富岡駅前を出発し、町立富岡第一中学校までの1・3キロメートル足らずをリレーする。きれいな駅舎や新しいホテル、住宅街を通って学校へ。そこだけ見た人は、もはや原発事故被害など存在しないのではないかと錯覚するだろう。

 町役場の担当者は「きれいな場所を見せたいと言いますか、あの地区が一番最初に整備されましたから」と話したが、町内在住のタクシー運転手は「聖火リレーやるみたいですね。でも住民が帰って来ていないんですよ。富岡はまだまだです」と首を傾げた。

 「〝復興〟を進めるという事で新しい建物や道路が出来ているけれど、生活するうえでの復興というのはまだ全然出来ていません。商店街も無いし、洋服屋さんも無い。個人商店もありません。生活するにはとても不便です。国道6号線沿いに『さくらモール』があるんですけど、ヨークベニマルが開店するのは午前11時。遅すぎますよ。夜は19時で閉店。コンビニだって、一番遅くまでやってるローソンでさえ21時閉店ですからね。駅の周囲にコンビニなんかありませんよ。駅舎にあるキオスクも18時で終わり。結局は、どの店も原発や除染などに従事する作業員でもってるようなものなのです」

 今月6日には菅首相が福島を訪れ、大熊町や浪江町などを〝視察〟した。

 「首相が来たって、いつもきれいな場所にしか行かないでしょ。テレビも新聞も良い所しか報じないですよね。『~が新しく出来ました』とかね。夜ノ森はまだ帰還困難区域です。バリケードがたくさんあります。駅は確かにきれいですよ。でも、駅だけきれいでもね。人がいないし…。誰も歩いていない。ダンプカーばかりが行き交っています。そういう場面は聖火リレーでは絶対に映しません。それじゃ駄目ですよ」

 つぼみが少しずつ膨らんできた夜ノ森の桜並木。バリケードの向こう側では解体工事が進められていた。

富岡町での聖火リレーは、富岡駅周辺をほんの少し走るだけ。帰還困難区域の存在も人の往来を禁じるバリケードも発信されない

【学校も奪う原発事故】

 聖火リレーのゴールとなる学校の校舎には「とみおか小中学校 みんなで作ろう おもいでの故郷に かがやく未来を」と書かれた横断幕が掲げられている。17人の中学生と27人の小学生が一つの校舎で学んでいる。学校関係者は言う。

 「ここは元々は富岡第一中学校でした。2018年4月から町内4校(第一第二小学校、第一第二中学校)が一つになってここに入っています。原発避難で子どもが減ってしまいましたから。それに、二小と二中は夜ノ森地区にありましたから、既に校舎が解体されて学校そのものがありません。2022年度からは富岡町小中学校三春校も閉校し、小学校1校、中学校1校で再スタートする予定です。今の一小、一中という校名は無くなります」

 原発事故は伝統ある地域の学校までも奪う。中学校に隣接していた第一小学校は環境省によって既に解体され、さら地になっている。少し離れた場所にある県立富岡高校は2017年3月末から休校。校舎には「復校 富高」の文字があった。校舎近くの林で手元の線量計は0・6μSv/hを上回った。避難指示が解除されたからといって放射能汚染が解消するはずもない。

 「聖火リレーを本当にやるのか、私たちにもまだ分かりませんが…。まあ、お国の事業なのでね」

 町民不在の成果リレーまで12日。駅前のホテルは町役場からの要請で昨年は豚汁を振る舞う予定だったが、今年は感染症拡大防止の観点からやらないという。

(了)

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