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3ヶ月の休園、1400頭のエサ代で大ピンチ…“パンダの楽園”はコロナ禍をどう乗り越えるのか - 二木 繁美

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 ジャイアントパンダの飼育数日本一で知られる、和歌山のテーマパーク・アドベンチャーワールド。コロナ禍では2020年2月から約3か月間の休園を余儀なくされたが、その危機を救ったのがファンの声に後押しされたクラウドファンディングだった。

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 クラウドファンディングでは、目標の500万円を大きく超えた7000万円以上の寄付が集まるなど、熱心なファンが多い同パーク。積極的な情報発信によるファンの作り方を、運営会社である株式会社アワーズの広報課 松本実夏さんに聞いた。

今回話を聞かせてくれた、株式会社アワーズの広報課の松本実夏さん(筆者撮影)

ファンからの声から生まれた、クラウドファンディング

「アドベンチャーワールド」の開園は1978年4月。約80万平方メートルの広大な敷地には、遊園地エリアやサファリもあり、約140種類1400頭の動物が暮らす。

 1994年からは、中国成都ジャイアントパンダ繁育研究基地の日本支部として、中国からジャイアントパンダ(以下パンダ)を借り受け、日中共同で自然繁殖の研究を開始。同パークで生まれた11頭のパンダを中国へ送り出すとともに、2020年11月には新たにメスの赤ちゃんが誕生。現在は国内最多の7頭が暮らしている。

 今回のコロナ禍では、新型コロナウイルスの大規模感染予防のため、2020年2月29日から臨時休園を余儀なくされた。さらに、政府からの大規模イベント自粛延長の要請を受けて休園を延長。休園期間は約2か月に及んだ。

 休園している間も、施設の維持費や動物たちのエサ代などの費用はかかる。大半のスタッフはテレワークや特別休業体制となったが、動物たちが清潔で快適な環境で過ごせるよう、飼育スタッフたちは感染症対策をして毎日交代で出勤。パンダのエサ代だけでも、1頭1日約1万3,000円。同園には1,400頭もの動物がいる。開園以来の大ピンチだった。

 休園中にはパークの様子を心配したゲストから、励ましのメッセージや手紙がたくさん届いた。その中に『支援させてもらえませんか?』や『寄付をさせてください』というものが多くあった。ゲストからの温かい声を受け、寄付の窓口を作るために、同園初となるクラウドファンディングに挑戦することにした。

 初めてのクラウドファンディング、不安もあったが、せっかく寄付を申し出てくれたゲストの思いに応えたかった。目標は500万円に設定。これは、6頭のパンダファミリー(当時)の食事代約2か月分に相当する。

 告知は、公式ホームページやSNS、プレスリリースなどを使って発信。情報はTwitterやネットニュースを通じて、あっという間に拡散した。パークを思うゲストの思いは熱く、わずか開始20分で目標の500万円を達成。さらに、無期限の入園パスポートをリターンとした、1口50万円(限定10口)の支援もすぐに完売した。

 達成後に設定した、ネクストゴールの5000万円もわずか8日で達成。寄付は3000円から受け付けたが、中には100万円を寄付した者もいたのだという。最終的には3271名から、7000万円以上の寄付が集まった。「金額の多い少ないではなく、ご支援くださったみなさんに感謝したい思いです」と松本さん。まさかこんなにも多くの金額が集まるとは。予想をはるかに超えたうれしい誤算となった。

熱狂的なファンを生む理由

 なぜこれほどまでに熱狂的に支持されるのか。同パークにはパンダに会うために、全国からパンダファンがやってくる。筆者も白浜駅でタクシーに乗った際、運転手に「お客さん、パンダの人?」と声をかけられた。運転手によると、毎月、大阪や東京、神奈川などから通ってくる、固定のパンダファンがいるのだ。

 パークの魅力の一つとして、パンダとの距離の近さがある。ブリーディングセンターの屋外部分や、希少動物繁殖センター「PANDA LOVE」では、目の前をガラスで遮られることなく、自然な状態でパンダと対面できる。特に「PANDA LOVE」においては、パンダの寝息も聞こえてきそうな距離感の近さに、感激するゲストも多いのだという。

 ガラスがないスペースでは、パンダの写真も撮りやすい。反射や写り込みを気にすることもなく、緑の芝生などを背景に、生き生きとしたパンダの姿を撮影することができる。それらは、個人のSNSを介して、どんどん拡散していく。

 飼育しているパンダの数の多さも魅力だ。それぞれにファンがおり、お目当てのパンダに会いに全国からファンがやってくる。

 やはりパンダの人気は、根強いものがある。しかし、アドベンチャーワールドがここまで熱狂的に愛される理由は、どうやらパンダだけではないようだ。

YouTube、Twitter…SNS別の戦略

 同パークは、トリップアドバイザーの「旅好きが選ぶ!日本人に人気の動物園・水族館ランキング2020」でも、3位を獲得。実際に訪れたゲストの満足度も高い。ユーザーの口コミには「パンダがたくさん見られる」はもちろん、「広くてゆっくり楽しめる」、「何度通っても楽しい」、「入場料が高めでも納得!」などがあり、パーク全体でゲストの満足度を押し上げている。

 中には「公式Twitterを見て、どうしても行きたくなって来園した」というコメントも。SNSからも、新たなファンを獲得しているのだ。同パークでは公式ホームページのほかに、YouTubeやTwitter、Facebook、InstagramなどのSNSを運営。パンダ人気だけに頼らず、様々な動物に焦点が当たるようにするという運営方針のもと、動物たちやパークの魅力を発信している。

 投稿の切り口も、SNSの特性ごとに変える。2020年11月に生まれたジェンツーペンギンの赤ちゃんは、Twitterにはぎこちない動きがかわいい動画を、Instagramには、ふわふわの毛を捉えたベストショットを投稿。

 同じく11月に親子の公開を開始したアミメキリンは、Twitterで元気に走り回る様子や、授乳シーンなどの親子のふれあい動画を発信。一方、Instagramには、写真ならではの、そっくりの親子の模様が並んだ様子を投稿している。

 このようにYouTubeやTwitter、Facebookには動画を、Instagramは写真をメインに発信。切り口を変えながら、同じ動物を複数のSNSにリンクさせることで、ユーザーに全てを見て楽しんでもらえるように工夫しているのだ。

 約140種もの動物たちが暮らすパークでは、繁殖にも力を入れており、シーズンには続々とかわいい赤ちゃんが誕生する。SNSでしか見られない、スペシャルな写真や動画は、ユーザーにとっても魅力的。一気にフォロワーが増加するのだという。

 YouTube以外のSNSは基本、毎日投稿。継続した発信でも、フォロワーを増やしている。更新を続けるコツは、スタッフ自身も楽しみながら行うこと。撮影と編集は、広報のスタッフが行うが、アイデアは現場に聞き込みをして得る事が多い。広報スタッフ自身が撮影を通して、改めてパークの魅力を再発見することもあるのだ。

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