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珍論、奇論 ~ 米国の「財政の崖」は世界経済に悪影響を及ぼし、国産の「財政の崖」は日本経済を再建する

「米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和の実質的な強化に動いた。米経済を下支えするための政策努力を続けるというバーナンキ議長の判断を尊重したい。次の焦点は来年1月からの急激な財政引き締めを回避できるかどうかだ。与党・民主党と野党・共和党は一刻も早く、事態収拾の具体策で合意すべきである」(14日付 日本経済新聞社説 「米国は急激な財政引き締めの回避を急げ」)

日本経済新聞は、米国の「急激な財政引き締め」に強い警戒感を抱いているようだ。「大型減税の失効や歳出の強制削減が重なる『財政の崖』への懸念が、家計や企業の心理を悪化させているのは見過ごせない」からで、日本を代表する経済専門紙としては、当然の懸念である。

しかし、「急激な財政引き締めが始まれば、米国だけでなく世界の経済を危険にさらすことになる」と、米国における「急激な財政引き締め」に強い懸念を抱いている一方で、国内では消費増税という「財政引き締め」の旗振り役を演じているという矛盾した主張を平然と繰り広げられるところが「日本経済新聞流」。

米国の7-9月期の実質GDPは前期比年率で2.7%増。これに対して日本の7-9月期の実質GDPは前期比年率▲3.5%である。「『財政の崖』がなければ3%成長」 と言われる米国で、GDPの約5%に相当する5,000億$規模の「財政の崖」が、GDP1.4%押し下げるという悪影響を強く警戒する一方、景気の減速が鮮明になりつつある日本で、実質GDPの約2.5%に相当する13兆円規模の消費増税によって、実質GDPが0.6%程度押し下げられることには全く懸念を示さないというのは、経済専門紙として如何なものだろうか。

「大型減税の失効」と「消費増税」とは何が違うというのだろうか。「税負担の増加」という点では、マクロ的にさしたる違いはない。また、「歳出の強制削減」と「社会保障費の削減」も、「財政支出の削減」という点では同等であり、マクロ的な影響も大きな違いはない。重要なことは、「増税」も「歳出削減」も、マクロ的にみれば「民間の有効需要を奪う政策」という点で同質であるということ。

消費増税法案の成立に「不退転の決意」で臨んだ野田総理は、「日本経済にとって財政再建と成長は車の両輪だ」と、お得意の駅前演説フレーズを繰り返している。しかし、消費増税と経済成長は「車の両輪」ではなく「アクセルとブレーキ」である。景気の減速が鮮明になる中での消費増税は、「金の卵(税収)を生む鶏(成長)を殺す」「角(財政赤字)を矯めて牛(成長)を殺す」如き行為でしかない。

経済の専門家達は、「ワニの口(財政支出と税収の差)を閉じろ」と言うが、財政支出の削減によって上顎を下げたとしても、その副作用と増税による民間の有効需要の減少が生じる中、どのようにして下顎(税収)が上がってくるというのだろうか。むしろ、生活保護費等の負担増によって、上顎がさらに開いてしまうリスクすらある。単純に言えば、民間の有効需要を奪う政策では国の「ワニの口」を閉じることは出来ない。

米国では「家計や企業の心理を悪化させている」という点で「見過ごせない」と主張する「大型減税の失効や歳出の強制削減が重なる『財政の崖』への懸念」が、どうして日本では「将来の安心を生む」として「家計や企業の心理を好転させる」という主張に変ってしまうのだろうか。

「失業率目標」という新たな枠組みを持ち出して追加的金融緩和に踏み出したFRB。そのFRBのバーナンキ議長は、「『財政の崖』の影響は大きすぎる。FRBがすべてを相殺することは出来ない」と指摘している。このバーナンキ議長の警鐘を日本に置き換えると、さしずめ「『消費増税』の影響は大きすぎる。日銀が全てを相殺することは出来ない」といったところ。

こうしたFRB議長の警鐘を、「デフレ脱却」「円高是正」「経済成長」に対する責務を、「日銀法改正」「政策アコード」という言葉を振りかざして日銀に押付けることで経済再建を図ろうとする日本の政治家達は、どのように聞くのだろうか。

総選挙で、国内でも「次の焦点は2014年度からの急激な財政引き締めを回避できるかどうかだ」という議論が起きて来るような民意が示されるだろうか。世論調査で新政権に最も期待されているのは、「経済対策」である。

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