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政党広告は血税のメディアへの再分配

ラジオから政党広告が流れてくると、いつも思い出すことがある。
それは前回、2009年の総選挙でのこと。

当時、私は出版社で週刊誌の広告営業をしていたのだが、いよいよ総選挙となった途端、同僚が嬉しそうな顔をしている。というのも、この選挙は政権交代を賭けた大一番なので、必ず政党広告のオーダーがあるという読みがあったからだ。
雑誌広告の場合、月刊誌だとおおよその広告本数は発売日の2カ月、遅くても1月半ぐらいまでには決定していないといけない。ところが週刊誌だと発売2週間前までに本数をフィックスすればいい。したがって、突発的な広告出稿に雑誌媒体で対応できるのは、断然、週刊誌なのである(このケースは他に年度末の気余り予算がクライアントに生じた時などがある)。
ということで同僚は手ぐすねを引いて政党の広告出稿を待っていたのだが、思いがけないことが起きた。
なんと三つの政党からオーダーが来たのである。
もちろん代理店は異なる。そして、各代理店ができるだけ「前付(まえづけ)」を希望してきた。

ちなみに雑誌の広告というのは、より前の方がいいとされている。
広告オーダーの際に「前付編集対向」という条件がついていた場合、その意味は総ページ数の半分より前で、さらに編集ページの対向面に掲載して欲しいということ(なかには「前付30%以内」などという条件をつけるクライアントもいる)。

話を戻すと、しかし一冊の雑誌ですべての政党広告を前付するわけにはいかない。
レギュラーのクライアントだっているし、カラー広告というのはザラ紙の入る週刊誌の場合、きわめて場所が限られるからだ。
困った同僚は「とても前」「半分より前」「半分より後」と3つの掲載スペースを作った上で広告代理店の営業担当者を呼んで、くじ引きをしたのだった、、、、、

さて、では政党広告というのは広告営業担当者にとってなぜ嬉しいか。
それは定価で取引できるからだ。
当ブログでは時々書いていることだが、マス媒体の広告料金というのは下落の一途を辿っている。

誰も通らない裏道 「マスメディアこそが虚業だった」

かつては考えられないような殿様商売をしてきたマス媒体の広告も、いまやそういうわけにはいかない(もちろん本当に視聴率のいいテレビ番組、あるいは売れている雑誌は別だが)。

たとえば私の経験で言えば、当時、担当していた雑誌のカラー1ページの広告料金は180万円だったが、これを定価(実際は9掛け、8掛け)で買ってくれるクライアントは2000年代半ばにどんどん減っていった。

広告の場合、クライアントが広告代理店に支払う総額をグロス、そこから代理店のマージン(通常は2割)を引いたものをネットという。私の事例で「クライアントが半グロスなら出稿すると言ってます」と代理店が言ってきた場合、ネットだと72万円ということになる。
これがさらに下がっていき、、、

「グロス50万なら出稿するそうです」

なんていうことになる。さらに苦しくなると、、、

「30万なら、、、」
「それってグロス? ネット?」
「もちろんグロスです」
「なんとかネットにならない?」

などという会話なり、さらに、、、(とこれ以下のことは書きません)
と、まあそういう会話が日常茶飯なわけだが、これはテレビ、新聞、ラジオにしても事情は同じだ。

そういうなかにあって政党広告は定価で商売できるのだから、マスメディアにとってはまことにありがたく、「選挙バンザイ」と叫びたくなるほどだ(しかも今回は年末なのでさらにありがたいだろう)。

しかし、、、である。
私は営業マン時代から、実は内心この商慣習に疑問を感じていた。
なんとなれば、政党広告の原資は共産党を除けば、そのほとんどが政党助成金から拠出されているわけで、突き詰めればそれは税金である。
その税金が、メディアに対して実勢価格よりもはるかに高額な形で投入されているのだから、これは無駄遣い以外のなにものでもない。
マスメディアは子ども手当てをバラマキだというが、政党広告のように「市場」をまったく無視した価格の取引こそバラマキだろう。

また一方でこんな問題もある。
たとえば、山本太郎の「新党今はひとり」が雑誌に広告を出そうと考えたとする。
しかしまったくカネがない。そこで、「グロス30万円で〇〇誌に出稿したい」と広告代理店に相談したら、おそらく代理店は即座に「政党広告は定価でないと出稿できません」と断るはずだ。
なぜなら業界にとって政党広告(あるいは政府広告)ほど美味しいものはなく、ゆえに絶対に値崩れさせたくないからだ。したがって、この商慣習は業界横一線で守られることになる。

既存政党からすればこの商習慣は政党助成金があるから問題はない。しかも、新規のカネのない勢力の広告展開を防ぐことができるのならば、むしろ続けて欲しいだろう。

つまり、政党広告の定価取引という商慣習は、既存政党、業界の両者ともがWin-Winなのである。
だが、これは結果的に立候補者の平等性を著しく阻害することになるし、何よりも血税の垂れ流しだ。
しかも、それでいてカネのかからないネット利用は制限するというのだから、これはもうまともな民主主義国家のやることではない(ま、昔から日本は民主主義ではないのだが)。

私はこの選挙期間中のマスメディアの凄まじい偏向ぶりは(知人が朝日の世論調査を受けたらしいが、恐ろしく恣意的な質問のオンパレードだったそうだ)、見方を変えれば各政党の出稿量の差の反映なのではないかとも思う。
つまり、メディアはたくさん出稿してくれるクライアント政党のことは良く書き、少ない政党のことは悪く書く、さらにまったくない政党は無視。
もちろんそれを意図的にやっているとは思わないが、案外、自分たちも無意識のまま、そういう行動に走っている可能性はある。なぜなら、それががマスメディアの基本的習性だからだ。

最後にひとこと。
政党広告の中で群を抜いてムカツクのがアベシンゾーが「日本を取り戻す」とわめいている自民党のCMだ。なにしろ、日本が安心して暮らせないようになってしまったのは、この男の責任なのだから。以下、何回でも繰り返すが、アベの総理時代の共産党吉井議員(残念ながら引退)に対する答弁。

吉井英勝:冷却系が完全に沈黙した場合の復旧シナリオは考えてあるのか
安倍晋三:そうならないよう万全の態勢を整えているので復旧シナリオは考えていない
吉井英勝:冷却に失敗し各燃料棒が焼損した場合の復旧シナリオは考えてあるのか
安倍晋三:そうならないよう万全の態勢を整えているので復旧シナリオは考えていない
吉井英勝:原子炉が破壊し放射性物質が拡散した場合の被害予測や復旧シナリオは考えてあるのか
安倍晋三:そうならないよう万全の態勢を整えているので復旧シナリオは考えていない

安倍が自民党の総裁となり、再び総理大臣を目指すならば、なによりもこの答弁に対する責任をメディアは問わなければならないだろう。
ところがそれを指摘するメディアは皆無である。
その理由は、、、
自民党のマスメディアへの出稿量が多いからなのかもしれない。
ただしその原資は、繰り返しになるが血税である。

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