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「女性を紹介してほしい」再婚を望んだ“東電賠償係”はなぜ詐欺師に狙われ、会社をクビになったのか?《福島原発“10兆円賠償”の暗部》 『売春島』高木瑞穂氏の新刊を「文春オンラインTV」が徹底解剖 - 高木 瑞穂

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 9兆7000億円――。この金額は、東京電力が今年1月22日までに、福島第一原発事故で避難したり風評被害を受けたりした個人や法人に支払ってきた賠償金の総額だ。

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 東日本大震災から10年。ベストセラー『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』の著者、高木瑞穂氏が新刊文庫『東日本大震災 東京電力「黒い賠償」の真実』(彩図社)で描いたのは、その賠償金の詐欺事件に関与したとされて立件された1人の東電職員の姿だ。

 本書で描かれた賠償金の杜撰な支払い現場の実態、そこに目を付けた詐欺師たちの手口は、コロナ禍の「持続化給付金」詐欺事件にも通じる。「文春オンラインTV」では高木氏にインタビューし、事件の実態について語ってもらった。


東京電力の福島原子力補償相談室補償運営センターで賠償請求の確認業務を行う職員ら(2011年12月、東京・江東区) ©時事通信社

◆◆◆

「ヤクザまがいの人がロジックを作って…」はコロナ給付金と同じ

――そもそもの話ですが、福島第一原発事故の賠償制度について教えてください。

高木 原発事故で甚大な経済的打撃を受けた住民や事業者の救済措置として、2011年9月から始まったものです。東京電力によれば、2021年1月22日までで賠償金請求は延べ295万件、約9兆7000億円が被害者に支払われています。その財源は、我々が払った電気料金や税金が充てられています。

――約10兆とはすごい金額です。この賠償金が税金や電気代だったことを知らない方も多いかもしれません。

高木 震災後に電気料金が微妙に上がっているのは一部の人は感づいていると思うんですけど、多くは電気料金ですね。

――新型コロナウイルスの給付金をめぐる詐欺事件も続いていますから、今にも通じる問題ですね。

高木 コロナの持続化給付金詐欺では、ヤクザが暗躍しているとの報道があると思うんですが、東電の賠償も一緒。ヤクザまがいの人たちがロジックを作って主導したという面があって、その実態を東電職員だった岩崎さん(仮名)の仕事ぶりから暴いている本です。

「嘘ばっかり言いやがって」とツバを吐かれた

――岩崎さんは元々、東京・調布の営業センターで料金徴収の事務を担っていた中堅社員でしたね。

高木 そうですね。高卒で東電に入社して、最初は料金徴収係からスタートした人です。震災の後に同僚と東北を旅して、「東電のせいで大変なことが起きている」と身をもって知って、自ら志願して賠償係になりました。さらに仕事が認められて賠償詐欺を暴くことを担当する部署に異動しました。

 ところがその後、賠償詐欺の共犯を疑われて書類送検され、最終的には東電をクビになってしまいます。

――もともと、岩崎さんは詐欺を暴く側だったのですね。

高木 岩崎さんはまだ賠償詐欺という概念すらなかった時に、警察と協力して、最初の賠償詐欺事件を暴いているんですよ。そんな方がなぜ共犯を疑われて、東電をクビになったのか。そこが一番描きたかったことですね。

――震災が起きた直後、岩崎さんをはじめ東電社員はどんな状況に置かれたんですか?

高木 震災が起こって電気が不通になった当初は、岩崎さんがTEPCOのマークが入った作業着姿で復旧作業をしていると、「頑張って」などと励ましの声が多かったそうなんです。

 でも、原発事故が起こって、それが東電のせいだと分かると、一気に手のひらを返して罵倒される。「嘘ばっかり言いやがって」とか「お前らに払う金はない」とか、ツバを吐かれたりとか、時には生卵を投げられたこともあった。社屋に「東電死ね」という落書きをされたり。今まで誇っていたTEPCOのマークを隠すため、制服は作業現場で着替えるような状態だったそうです。

「ノルマ」をこなすために審査がザルに

――検針員に対しても風当たりが強かったということですね。岩崎さんは賠償係で、どんな仕事をされていたんですか?

高木 賠償金の1次審査は派遣社員、2次審査は社員がやっていたんで、岩崎さんは2次審査で書類に漏れがないかチェックして、上に報告する役目をしていました。東電が「迅速な支払い」を掲げる中、岩崎さんらによる2次審査がおわると、GMがチェックしてハンコを押してもらって被災者に支払われるという流れです。

――「迅速な支払い」のため、支払う側にノルマがあったそうですね。

高木 日に書類を10本通しなさい、20本通しなさいというノルマがあって、それをこなすために徐々に審査がザルになっていったそうです。本書に詳しく書きましたが、その結果、詐欺師が横行するようになっていった、という流れですね。

「どうせ俺の金じゃないし」というノリで払ってた

――これまで約9兆7000億円の賠償金が支払われたとのことですが、詐欺師にはいくら流れたのでしょうか?

高木 報道レベルでザッと概算しても、数百億円規模が詐欺師に流れているんじゃないかと思います。

――怪しいなと思いながらも請求を通してしまったケースもあった?

高木 たくさんあるんですよ。例えば、潮干狩り会場のキッチンカーで月500万円というあり得ない売り上げを手書きの日報で計上してきたケースは、岩崎さんも怪しいと思いつつも払った。とにかく上が「払える方法を考えろ」という方針だったので、通すしかなかったと。

 あと、地方新聞社が押し紙を売り上げに計上して請求してきたり、大手観光グループが山梨の施設まで申請してきたり……。山梨のケースでは、東電の山梨支店長付きの社員から「支店の一番の上客だから」と直々に電話があって、無理やり払うロジックを会計士とともに考えて、トップダウンで支払ったという事例もあったそうです。

 結局、東電は当時、他人のお金を払っている感覚なんです。「原子力賠償機構」という組織から東電がお金を借りて、そのお金を賠償金にあてている。返却義務はあるにせよ、原子力賠償機構の原資は、僕らの払った税金や電気料金。岩崎さんによれば「どうせ俺の金じゃないし」というノリで払っていたようですね。

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