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もう一つの3・11

 東日本大震災から10年ということで、追悼のテレビ番組や、新聞の特集も出ていた。犠牲者はおよそ1万6千人と言われている。たしかに過酷な災害ではあった。涙を誘うような多くの悲劇も語られていた。でも私の中では、かすかに古い記憶が疼いていた。

 時間は昭和20年へと飛ぶ。だれの目にも、もう日本が戦争に勝てる見込みはなくなっていた。当時は滝野川区と呼ばれていた北区上中里の高台に出てみた私は、見渡すかぎりの下町の一帯が、猛火に包まれているのを見た。サイレンが鳴って空襲警報は解除になり、零時は過ぎて日付は11日になっていた。左から右へ、つまり西から東へ、かなり強い風が吹いていて、火災の煙は鋭い角度で右方に上がり、どこまで上がっても燃えるような炎の色をしていた。見たこともない巨大な火災が発生しているのがわかった。私は国民学校の6年生だった。

 この空襲では、東京は一晩で10万名を超す死者を出したと言われる。翌日に遅く配達された新聞には、下町で川に飛び込んで逃れた新聞記者の、生々しい体験記も掲載されていた。そして「生かせ一坪に5発の戦訓」という見出しがあったのも覚えている。記者は、集中した焼夷弾が落ちて来たら、逃げるしかないことを言外に知らせたかったのに違いない。

 自然災害と戦争の惨害と、どちらが怖いかという話を書くつもりで始めたのだが、終りまで来て、にわかに結論が書けなくなってしまった。戦うべき相手は何か、という話なら、議論の余地はないのだが。

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