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坂本龍一さん、どうして音楽家なのに脱原発なんですか?:後篇

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原発問題にまつわる空気は、9.11後のアメリカに似ている


もんじゅ:「原発は必要だ」っていうのはいままであたりまえとされてきた枠組みですよね。それを変えようとする発言はすぐ批判されちゃうなぁって感じるんです。やっぱり抵抗があるというか。

坂本:うん。それはなにも日本に限らなくて、アメリカでもそうだと思うよ。9.11直後のアメリカはこの雰囲気に近かったなぁって思います。僕はニューヨークに住んでいるんだけど、あの事件のあとすごく恐い社会になったんですよね、何年間か。

もんじゅ:えっ、その雰囲気って何年間もつづいたんですか?

坂本:うん。9割以上のアメリカ人が愛国者になって、アメリカの憲法を上回るような「愛国法」なんかを認めてしまった。テロへの恐怖からすごくおそろしい社会になってしまって。

だけど、アメリカのいいところなのかな、ブッシュの二期目のあたりで、だいぶもとに戻った感があったよ。半数以上の人が「これはおかしい」と考えだして揺り戻しがきた。

9.11直後は、ジョン・レノンの「イマジン」さえ批判された


坂本:いまの日本は、その9.11直後のアメリカにちょっと近いのかもしれないね。いま話すと冗談みたいだけど、あのときはラジオでジョン・レノンの「イマジン」をかけてもバッシングをされたんだよ。

もんじゅ:えっ、「イマジン」で?!

坂本:「イマジン」の歌詞の中に、「国も宗教もないさ」っていう部分があるじゃない。

もんじゅ:それがひっかかっちゃうんですか。

坂本:そうそう。愛国ムードを逆なでするっていうことでダメだったんだよね。いわゆる自主規制というやつ。これって、原発安全神話にもすごく近いよね。そういう集団ヒステリーっていうのは、どこの国でも起こるんじゃないのかな。

もんじゅ:原発事故の直後も、ツイッターで「放射能がこわい」「どうなるんだろう」みたいなことをつぶやくと「現場でがんばっている人がいるのに」「不謹慎なこというんじゃない!」みたいな反論がすぐ返ってきたり、団結や「絆」を強調する雰囲気があった気がします。

坂本:うーん。でも、そういう人は割合的に多くないと思うよ。

もんじゅ:たしかに、やや極端な人だけが意見を主張している感はありました。のこりの8~9割の人は、不安はあるけれども黙っていたと思います。不安や疑問を口にすると反論されたり気まずくなる、というのもあったのかもしれないですね。

だけど、問題に感じていても遠慮してひっこめちゃう、波風を立てたくなくて黙っちゃう、ということが積み重なって、けっきょくあんな事故が起きたんじゃないのかな、とも思うんです。空気を読み過ぎちゃうっていうか。

代替案なんてなくても、「反対」「イヤだ」といっていい


坂本:いいたいことがいえない社会っていうのはよくないよね。テーマがなんであっても、人はいいたいことをいっていいはずなんだよ。

原発についてはさ、すぐ「代替案を示せ」っていわれちゃうじゃない。だけど「殺人はよくない」という意見に対して、もし反対する人がいるとしてね、そこで「人殺しがダメなら代替案を示せ」とはいわないわけでしょ。それとおなじだと思う。

もんじゅ:代替案をつくることと、自分の意見を表すことはまた別物ですよね。

坂本:専門家じゃない人間だって、代替案のない人間だって、「こわい」「不安だ」「こどもの将来はどうなるんだろう」とかいっていいんだよ。だって、それはそう思ってるんだから、そう思ってるってことを表現していい。

「代替案を示せ」っていわれちゃうとさ、こっちは素人だからなにも案を示す必要なんてないのに、一瞬、発言しちゃいけないような気にさせられちゃう。だからあれはなかなか攻撃的な言葉だと思う。僕は居直って、「代替案なしでしゃべって何が悪い!」って思いますけどね(笑)。

もんじゅ:ボクは「代替案出せ」ってあんまりいわれるので(笑)、勉強して再生可能エネルギーについての本を書きました(『もんじゅ君のみる!よむ!わかる!みんなの未来のエネルギー』・河出書房新社)。でも、ふつうの人が自分の意見を表明するのに、代替案までつくらなきゃいけないってことはないですよね。もしそれができれば、すごいことですけど。

坂本:エネルギー政策の代替案をつくるっていうのは、本来、専門家の仕事なんだから。それを大阪の橋下市長は、新聞がその専門家だと思っちゃったのか「脱原発するっていうなら朝日か毎日あたりが原発ゼロの具体的行程表をつくれ!」なんて命令口調でいってましたけどね。あれはちょっと、「大丈夫かな、この人」と思っちゃいましたね。
橋下徹氏Twitterでの発言

危険が迫れば、避難するのはあたりまえ


坂本:あとやっぱり、放射能って目に見えないから「安全だ」なんていう人も出てくるわけだけど、もしこれが山火事だったら、誰が見てもこわいし熱いからとりあえず逃げるよね? 僕は原発事故だってそれと同じだと思う。ただ、目に見えないからわかりにくいだけ。見えないからこそ、数字とか想像力で補わなきゃいけないんだよね。そのうえで危ないと判断すれば、逃げるのも当然だよ。

もんじゅ:逃げるといえば、ある企業で、ひとつのチームがリーダーの判断で全員関西に避難したら、あとから社内で怒られちゃったっていう話を聞きました。事故直後に、情報のない中でとりあえず避難するっていうのは、合理的な選択だったと思うんだけど。

坂本:僕の知ってるフランスのある企業も、日本支社はやはり1週間すべて閉めて、従業員みんなを関西に逃して様子を見たんだって。ところがデパートはふつうに営業してたから、そのブランドのテナントだけ閉まってて、デパートからはクレームが来ちゃったみたい。そこの会長は苦笑してたけどね。危険が予想されたら逃げるのはあたりまえなんだから、それを批判するのは非常識だと思うよ。

とにかく若年層、無関心層が投票にいくことが重要


もんじゅ:ところで、16日は衆議院総選挙ですよね。思ったより早く来ちゃったな、という気がしています。テレビや新聞のニュースでは原発も選挙の争点として扱われているけれども、投票するときには、実際みなさんそこだけで決められる話じゃないだろうから…。

坂本:有権者の関心としては、経済がいちばんで、その次に年金などの自分の暮らしに関することがくるみたいだよね。その2つが30%ぐらいで、原発問題は10%前後みたいな感じかな。だから、自民党はあれだけ領土問題について熱心にやっているけど、有権者にとっては原発よりも優先度は低いみたい。

ただ、原発問題を気にしている人が若年層に多いとすると、無関心層が多い、相対的にあまり投票にいかなさそうな人が多いのかな、と思っちゃうんだけどね。けっきょく投票率が低ければ、組織票の高いところが勝つわけでしょ。

もんじゅ:これまで政治に関心のなかった人が、原発事故をきっかけに考えるようになった、という話もよく聞きます。そういう人は特定の政党を支持したりはしていないだろし。

坂本:うん。いま(12月6日時点)、国民の半分はどこに投票するか決めていないらしいから、この半分が投票にいけば空気は動くと思うんだけどね。もしこの半分が投票しないままなら、あとの50%はほぼ組織票なわけで、大勢は決まっちゃうというか、あぶない感じがするな。

だからやっぱり、投票にいってもらうっていうことがだいじですよね。

もんじゅ:そうですね。投票にいくってほんとにだいじ。日本の人口ピラミッドでみると、年配の方のほうが人数も多くて、投票にいく割合も高いわけで、たくさん票になるわけですよね。若い人はただでさえ人数が少なくて、投票率も低い。

坂本:それで、高齢者のほうが保守的なイメージがあるんだけど、あれはなんでかなーって不思議だよね。70代、80代の方って、戦争の悲惨さとかを記憶しているはずなのに、なんで右傾化するんだろう? 「もう戦争はこりごりだ」って思ってた人達のはずなのにね。「やられたら今度は勝つぞ!」みたいに思ってるのかな……、どうなんだろ。僕のまわりにはあまりそういう人がいないので、ぜんぜんわからないんですよね。

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