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「脱原発」に不賛成なら「非国民」?

朝日新聞夕刊に長期連載中の「ニッポン人脈記」。
12月10日付けの「民主主義ここから」第13回は、「少しずつ社会を変える」との見出しで、反原発運動を取り上げていた。

その中の一節。

「脱原発」を訴える市民集会「さようなら原発10万人集会」。7月には主催者発表で約17万人が全国から集まり、会場となった東京・代々木公園を埋め尽くした。
作家の落合恵子(67)は「私たちは決してひるみません。野田政権に訊(き)きます。あなたたちが『国民』という時、一体誰を見ているのか。今日ここにいるのが『国民』であり、市民なのです」と訴え、大きな拍手を浴びた。

こうした主張、それを容認する感覚が、私がどうしても彼らに賛同できない部分だ。

反原発運動に参加する者こそが「国民」であり、それ以外の者は「国民」ではない。
将来の脱原発を志向するにしろ、安全性を確認した上での再稼働は認めてよいのではないかと考える者は「国民」ではない。

「国民」でなければ何なのか。「非国民」なのか。

ましてや、それでも原発を存続すべきだと考える者は、魑魅魍魎、妖怪変化のたぐいということになるのではないか。

「さようなら原発10万人集会」で検索してみると、主催者がまとめた発言録があった。
そこに収められた落合の発言の一部。

私たちの怒り、いま外は33℃といっていますが、冗談じゃありません、100℃超えています。私たちは、命への、暮らしへの、この重大なる犯罪と侵略行為の共犯者になることはできません。私たちは二度と加害者にも被害者にもなりません。そのことを約束するために今日ここへ集まっています。自らの存在にかけて、闘うことをやめません。原発はいりません、再稼働を許しません。原発輸出させません。すべての原発を廃炉にします。
私たちが守るのはたった一つ、命です。命であり、暮らしであり、田畑であり、海であり、空であり。原発はもとより、オスプレイも基地も全部反対です。私たちはすべての命を脅かすものとここで対峙していきましょう。子どもがいて、お年寄りがいて、人と人がつながっていて。あの日常を返せ!

「すべての命をおびやかすもの」に反対するのなら、自動車事故で毎年何千もの人が亡くなっているのだから、自動車の存在にも反対してはどうか。
今も裁判が続いている福知山線脱線事故のように、鉄道も多数の人命を奪うことがあるのだから、鉄道の廃止も主張してはいかがか。
旅客機が墜落すればオスプレイ以上の大惨事になるのだから、オスプレイだけでなく旅客機の全面禁止も訴えるべきではないか。

もちろん、原発事故は、これらとはまた別種の、より大きく長期にわたる被害をもたらす。使用済み燃料の問題もある。
だから、ゆくゆくは廃止すべきだろうと私も思う。
しかし、無理な節電も命を脅かす。
電力会社の経営難や倒産も、命を脅かす。
電気代値上げや電力供給の不安定化により国内企業の経済活動が低下すれば、それもまた命を脅かす。
無理をせず、既設の原発は活用しつつ漸減を図るという考えでは、「国民」とは認めてもらえないのだろうか。

私たちは性懲りもなく原発を推進する人たちに、本当の民主主義とは何なのか教えなければ。

私たちの声は、「大きな音」ではないのです。原発推進を、独裁を挫折させてやろうじゃないか。そして、こんなにつらい思いをしている子どもたちに、もう少しましな明日を残してから死んでいきましょう。もう一度約束です。再稼働反対、原発そのものに反対。すべてに反対することから命は再生していくこと。

自分たちの運動が「本当の民主主義」であり、現在の民主制により成立した野田政権は「独裁」なのだと。
資本主義の下での代議制はブルジョワ独裁であり、革命によるプロレタリア独裁こそが真に民主的であると説いたマルクス主義者と瓜二つだ。

「すべてに反対することから命は再生していく」って、あんたら、とにかく「○○反対」って言いたいだけじゃないの。
「運動」がしたいだけじゃないの。
同じ発言録で坂本龍一は、自分は42年前の18歳のときにも、日米安保改定反対でこの代々木公園にいたと語っている。

主催者による写真報告の記事を見ていると、こんなコメントがあった。

野田総理と原発反対官邸前抗議行動連合の皆さんとの話し合いが行われましたが、自分の立場、保身しか考えることのできない政治家ばかりに憤りを強く感じています。

先日、大津市のいじめ問題で教育長に対して報復を実行した19歳の少年がおりました。やった行為は間違っていますが、教育長を襲うことで、「いじめ」撲滅を訴えたものと思います。

同じ殺人未遂罪で罰を受けるのであれば教育長を襲って逮捕されるよりも・・・・・・

これは失言ですが、それぐらい真剣に考えていることを野田総理にわかったもらいたいです。

テロリストの思想である。

今回の脱原発運動は、組織された労働者や学生によるものではなく、広い階層にわたる普通の市民が自発的に参加しており、新しい直接民主主義の萌芽であるといったことがよく言われる。
私はそうした「運動」の現場はよく知らないが、たしかにそうした面はあるのだろう。
しかし、主催者側の本質は、必ずしもそうではないのではないか。

民主主義というのは国民の様々な主張や利害を汲み上げて調整するものであり、選挙で当選した者に白紙委任するものではないといった主張が朝日の紙面でよく見られる。私も基本的にはそう思う。
ならば、我らこそが民主主義であり他は民主主義ではないなどという主張は、およそ民主的とは言えないのではないか。
しかし、朝日がそうした視点から彼らを批判することはない。

今回の総選挙で即時脱原発を掲げる政党は劣勢だと聞く。
今後、即時脱原発に反対する者に「非国民」「亡国の徒」「売国奴」といった非難が浴びせられるようになったとしても、私は驚かない。
そして、さらに過激な事態が生じたとしても。

自らに正義があると信じ込んだ者どもがしでかすことほど恐ろしいものはない。

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