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懲戒「品位」規定の不安定感

 弁護士法56条1項が、職務の内外を問わずに懲戒事由として掲げている「品位を失うべき非行」をめぐる疑問は、弁護士の中に根深く、また、その解消という意味では、ほとんど進展のないテーマとして存在してきたといえます。

 その疑問とは要するに「品位」とは何を基準にしているのかが不明確であるということに対するものです。それが不明確であるがゆえに、「品位」ということをもってして、弁護士会が懲戒対象としなければならないことなのかという程度の問題としても疑問も生むことになっています。

 一般的に同法の趣旨を理解していても、「品位」とともに掲げられている「所属弁護士会の秩序または信用を害」するという、解釈次第ではいくらでも拡大できそうな規定で不利益処分が課されかねないという、不安定感への不安ともいえます。

 結果として、弁護士会員が具体的にとれる手段としては、毎月発行されている機関誌「自由と正義」巻末の懲戒処分公告や、「弁護士業務ハンドブック」などが列挙する「非行」の具体例を参考にするしかありませんが、それでも首をかしげる会員の声は絶えません。

 いうまでもなく、疑問の余地がない完全にアウトととれる事例もあるわけですが、それでも一面、この不安定な「品位」規定がずっとそのまま維持されていることは、ある意味、奇妙な感じもします。

 この「品位」については、同様に問題とされる弁護士の業務広告に関連して以前、取り上げたことがありました。その運用指針を見る限り、その「品位」の基準は全面的に「国民」にゆだねられているのが分かります。有り体にいえば、「国民」が「品位」の面で「ふさわしくない」と感じることが基準ということです。つまり、形としては、「国民」がその意味で、まゆをしかめるような行為を、ある意味、弁護士界側が忖度して禁止しているということになります。

 それは言い換えると、そもそも「国民からみてふさわしくない」というのは、国民のなかにある弁護士イメージを基準にすることです。社会的な弁護士のイメージがどんどん下がれば、社会常識として弁護士に必ずしも特別な「品位」を求めず、あるいは「弁護士だってビジネス」「弁護士なんてそんなもの」という割り切った見方が広がり、世間にあふれてしまえば、それでも「ふさわしくない」という評価になるとは限らないということです(「国民に任せた『品位』の基準」)。

 懲戒に関しては、強固な自治が付与されていることとパラレルに、特にその厳格さが強調される面がありますし、秩序・信用棄損ということでいえば、被害当事者的な目線もいわれますが、それでも「品位」が保たれることの意味は、利用者市民の利益、安全・安心の確保であるとすれば、前記業務広告規制の事情と切り離してみることもできません。

 少なくとも弁護士に求められる、何か特別な「品位」というものへの認識が、弁護士会にあるとしても、それが不明確である以上、社会的な評価の変化によっては、逆に前記程度の問題として、わざわざ強制加入の弁護士会が、その抽象的な「品位」の名の下に会員に不利益処分を課すほどのことなのか、恣意的な判断ではないかという会員との感覚的齟齬は延々と消えないように思えます。(「『目立ちすぎた』大渕愛子、不当報酬受領で『重すぎる処分』の怪…弁護士会を逆なでか」〈Business Journal〉 「橋下知事『弁護士会の品位の基準、僕とは違う』」〈朝日新聞デジタル〉)

 最近民事訴訟の依頼者と着手金の返還を巡ってトラブルになり、ツイッターに「弁護士費用を踏み倒すやつはタヒ(死)ね」「金払わない依頼者に殺された弁護士は数知れず」などと投稿した弁護士が、所属する大阪弁護士会から懲戒処分(戒告)を受けたとする報道(讀賣新聞オンライン)が、ネット界隈の弁護士の間で話題となっています。

 「死ね」という表現自体は、一般の感覚として不適切であるはずだし、大方の弁護士もそれは認めつつ、会の処分となると弁護士間でも実は意見が分かれています。それはこれが依頼者個人を特定したツイートではなかったことと、さらに弁護士として切実な問題となっている弁護士費用の未払いという件に絡んでいることが関係しています。

 表現の不適切さでアウトもやむなしと片付けている人がいる一方で、これを弁護士の愚痴ととり、業務に関する愚痴のツイートも「品位」にひっかかり、弁護士会の対象になるのか、という疑問を含め、前記程度の問題としての疑問視する見方や、前例として危険視する見方が出されているのです。これは国民の感覚からすると、一発アウトでよしとなるのか、あるいはSNS利用者の感覚からすれば、この程度のツイートで不利益処分とするのは行き過ぎなのか、はたまたそれでも普通とは別に弁護士だけは特別にアウトとみるのか、その辺も正直よく分かりません。

 ただ、この状況には、やはり「品位」規定の不安定感が背後につきまとっていることだけは、間違いないように思うのです。


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