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第2回「ジャーナリズムX(エックス)アワード」公募開始記念対談:星川淳さん×鈴木耕さん「自由で公正な社会に向けて、健全なジャーナリズムを育てたい」

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政権によるマスメディアへの介入、メディアの側の忖度など、ジャーナリズムの危機が叫ばれて久しい 昨今。一方で、SNSの発達などにより、以前には考えられなかった新しい形で情報を発信する市民メディアの動きも活発になっています。
そんな中、「自由で公正な社会を創るジャーナリズムを応援する」ことを目指してスタートしたのが「ジャーナリズムX(エックス)アワード」。読み物や映像作品にとどまらない「ジャーナリズムの壁を突き破る創造的な取り組み」を表彰することで、健全なジャーナリズムの育成に寄与しようとするものです。
自由で公正な社会のために、今、ジャーナリズムに求められることは何か。日本のジャーナリズムが抱える問題とは? 第2回のアワード募集開始に合わせ、主催の「ジャーナリズム支援市民基金」代表幹事を務める作家の星川淳さんと、連載コラム「言葉の海へ」でおなじみの鈴木耕さんに語り合っていただきました。まずは意外にも初対面だというお二人の自己紹介を兼ねて、それぞれの「ジャーナリズム」との関わりから──。

■日本のジャーナリズムは「オウム事件」を機に変質した

星川 私はもともと主に環境問題や精神世界をテーマにした本の翻訳をしていて、ジャーナリズムとはそれほど縁がありませんでした。国際情勢や日本の政治に注目するようになったのは、2001年9月にアメリカで同時多発テロが起きてからです。ちょうどインターネットが発達してきていた時期で、海外の知人とやりとりをしたり、海外ニュースにアクセスしたりするうち、日本の報道ってどこかおかしいのでは、と疑問を持ち始めたのです。
 2003年には米軍が「大量破壊兵器の保持」を理由にイラクに侵攻しましたが、そのときも海外で報道されていることと日本のそれとではギャップがありすぎました。そこで、「真実が伝わっていないのではないか」という思いを共有する翻訳者仲間と、日本ではなかなか紹介されない海外メディアの記事を翻訳して発信する「TUP(Translators United for Peace /平和をめざす翻訳者たち)」というグループを立ち上げました。そうしたことをきっかけに、ジャーナリズム的なことにも少しずつ関わりを持つようになっていったのです。

鈴木 私は大学卒業後に出版社に就職して、初めは芸能雑誌の編集部にいたのですが、その後週刊誌に異動になって、いわばジャーナリズムの端っこに身を置くことになりました。当時、世界ではベルリンの壁崩壊、中国の天安門事件と大ニュースが続き、国内ではちょうど「おたかさんブーム」で社会党が躍進。さらに1995年には阪神・淡路大震災、オウム真理教事件と立て続けに大きな事件が起こりました。寝る間も惜しんでそれらを取材して回る日々でしたが、自分のやっていることが世の中とシンクロしていくというのを初めて経験して、とてもおもしろい経験でしたね。
 個人的には、1986年のチェルノブイリ原発事故も大きな衝撃でした。当時娘たちがまだ6歳と3歳で、僕自身というよりも子どもたちの身を非常に案じたんですね。この子たちを放射能から守らなければと、メディア報道や書籍で原発について調べるようになり、それが今日にまで続いています。

星川 私もチェルノブイリ事故には強い衝撃を受けましたね。当時は、“半農半著”の生活を求めて鹿児島県の屋久島に移住して4年目。ごみをできるだけ出さないようにしたりと、自分の周りをエコロジカルに整えて暮らしていくことに集中していたのですが、事故が起こったことで、それだけではだめだと痛感しました。地球全体が大変なことになってしまった今、社会全体にも目を向けなければ、自分の作った暮らしなんてたちまち終わってしまう、と感じて。
 それで、自分の暮らしをエコロジカルにするということと、原発反対の運動をはじめ社会を変えていく運動に関わることを両輪でやるようになったのです。

鈴木 もう一つ、強く印象に残っているのはやはりオウム真理教事件ですね。あの事件が、日本のジャーナリズムが変質する大きな契機になったと、私は今でも思っています。
 当時、私は週刊誌で編集長をしていたのですが、朝出社すると机の上に必ず何通か「怪文書」が山積みされている。インターネットなどない時代ですから、手紙や電話で「真犯人はあいつだ」「あそこに信者が隠れている」「あと数万人を殺害できるだけのサリンがある」「実はオウムは核武装している」とか、ありとあらゆるいい加減な情報がどっと来るんですね。
 当時ぼくらの雑誌は「裏のとれないネタは書かない」という抑制的な姿勢でいたのですが、そんなのおかまいなしに、怪情報でもバンバン書くスポーツ紙や週刊誌も多かった。普通だったらちゃんと「裏」を取らないと当事者から反論がくるからいい加減なことは書けませんが、オウムに関しては世の中がなんでもありという状況で、反論も来ないし何を言っても許されるという雰囲気がありました。
 ジャーナリズムもそれに乗っかって、面白そうなことなら真偽を確かめずに書き立てるというふうになってしまった。そのほうが売れるものだから、さらに加速する。「裏取り」というそれまでジャーナリズムにとって当たり前だったことが、あっというまに崩れてしまったのです。

鈴木耕さん。対談はオンラインで実施

●両論併記は「へたれ中立」だ

星川 そこから25年以上が経ちましたが、鈴木さんから見て今の日本のジャーナリズムの、どういうところがもっとも問題だと思われますか。

鈴木 いちばん気になっているのが「両論併記」です。私は今、新聞は3紙をとっていて、もう長いこと切り抜きを続けています。憲法、沖縄、原発と関心のあるテーマごとにファイルを作っていて、たとえば原発の切り抜き帳は46冊になりました。そうやって切り抜いて、赤線を引きながらじっくり読んでいると、よく見えてくるものがあるんです。その最たるものが「両論併記」なんですね。
 典型的なのが朝日新聞のオピニオン欄です。何のテーマでも一つの意見を掘り下げるのではなく、必ず賛否両論、あるいはA論とB論を並列する。いったいお前はどう思っているんだとイライラしますね。「右」からも「左」からもたたかれるのを怖がって、びくびくして腰が引けている。日本のメディアの抱えているもっとも悪い部分が出ていると思います。
 一方で産経新聞や読売新聞は政権べったりが見え見えですが、それはそれでいいんですよ。それぞれのメディアが自分たちの特徴をもっと出して、はっきりものを言うべきだと思います。ジャーナリズムというのは、世論のバランスを取ることではなく、やはり権力をチェックすることこそが一番の役割なのですから。

星川 朝日新聞は優等生すぎます。「へたれ中立」というやつでしょうね。
 今は、新聞だけではなくテレビメディアも、「左翼」などといわれるのを怖がっている感じがします。それで右側の人を引き込んでやっているうちに、自分たちもそこに巻き込まれているようなところがあるのではないでしょうか。

鈴木 テレビだと、影響力が強いのはやはりNHKですね。僕の地元などは特にそうで、NHKの夜のニュースで流れれば絶対にそれが正しいんだということになってしまう。

星川 NHKもかつてはそれなりにジャーナリズムとしての矜持をもっていたように思います。それが、1980年代後半くらいでしょうか、右派が力をもってきたのと同時にどんどん譲歩が進んでいって、2001年には「慰安婦」問題を扱った番組の改変問題(※)まで起こってしまった。あのあたりから政府に対して決定的に頭が上がらなくなっていった気がします。いい番組を作っている人はいるし、戦おうと思え ば戦えるはずなのですが。

※番組改変問題…NHKが2001年1月に放映した、旧日本軍「慰安婦」をテーマにした番組「問われる戦時性暴力」が、政治家らの圧力により直前に内容を改変された問題。こちらのインタビューなど参照

鈴木 今年2月に森喜朗氏の問題発言があったときも、はっきり「女性差別発言」といえばいいのに、NHKをはじめメディアの多くは「女性蔑視ともとられかねない発言」とか、奥歯に物の挟まったような表現でごまかしました。あと「与党も悪いが、野党もだめ」「野党は批判ばかり」みたいな、野党がどういう政策、対案を出しているか調べもしないで、知ったふうなことを言うTVコメンテーターなども腹立たしいです。
 もうずいぶん前の話ですが、1958年に国会で警察官職務執行法という法律の改悪案が審議されたとき、『週刊明星』という雑誌が「デートも邪魔する警職法」という特集を組んだんです。それをきっかけに世論が動き、「デートもできない警職法」というキャッチコピーで反対運動が盛り上がって、最終的に法案は廃案に追い込まれました。そういう「言葉の力」を、今のメディアは失ってしまっているような気がします。

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