記事

【福島第1原発事故から10年】飯舘村:「地域喪失」からの開墾(下) - 寺島英弥

1/2

菅野義人さん(左端)、啓一さん(中央)を中心に、農地の放射線測定の方法を学ぶ(2014年、筆者撮影)

“復興のシンボル”として「箱もの」が急ピッチで造られてきた。その国主導のスピード感は、皮肉にも住民から話し合いの時間と忍耐を奪っていった。そして、ようやく探り当てた新たな原点――。                   

 区長を引き受けてほしいと話があったのは、義人さんが帰還して翌18年。2人暮らしの妻久子さんが避難中に脳出血で倒れ、その後も妻を支えながらの開墾生活となり、「しばらく公務優先とはいかない。できれば勘弁してほしい」と辞退した。が、2年しか猶予を得られずに選ばれ、重い役職とともに地域の現実に関わることになった。

「国依存」への村政変質

 自身は43歳から副区長を経験した。20代で農協畜産部会の三役に推され、「若いやつにやらせよう」と人を育てる気概が地域にあったという。「復興を担うのは若い世代だ。彼らが発言し、意見を表明する場を、年長者は準備しなくてはならない」と考えてきた。ところが最近の総会では、役員になってほしい一世代下の出席者から「移住先の町内会でも『役員をやって』と言われている。比曽と両方はできない」と断られた。

 行政区の役員にもなり手がおらず、総会では、話し合いや提案、意見の持ち寄りではなく、「いきなり無記名の投票になった。決まったら文句を言うな、と。いまの立場がどんなであれ、いま、比曽のために『自分ができること』を話してほしいのに」。

 行政区長には、村役場からの要請や指示、事務連絡、住民の調査、期限を切って回答を求める文書が山のように来るという。その1つが「地区別計画」だ。来年度がスタートの飯舘村第6次総合振興計画の中で、行政区ごとの活動方針、農地・山林の活用、伝統芸能、交流、健康づくり――などの計画を、それぞれの行政区につくらせる内容だ。

「この10年の飯舘村は、国の復興予算と大型のハード事業に依存して、原発事故前の『地域から手づくりする』村づくりの原点を忘れてきた」と、原発事故を挟んで13年まで16年間、村議も務めた義人さんは言う。

 村の一般会計予算は、「ヨイシゴト」を語呂にした平成22年度の41億4510万円から、令和元年度の143億2000万円に膨張した。その間、幼稚園・小中学校とスポーツ施設整備に約50億円、新公民館に約11億円、道の駅に約14億円など、「復興のシンボル」と銘打たれた「箱もの」が造られ、復興大臣らを招いて華やかな祝賀イベントが催された。

「国依存」への変質を語るのが、原発事故後の10年間、従来の総合計画に代わる「いいたて までいな復興計画」策定の推移だ。避難中の村民の生活と帰還の支援を模索した「までいな復興計画」初版(11年12月)では、委員のうち村民が10人、村議4人、村職員が事務局を含め9人。外部が福島大学や県、国、研究機関の7人と、村の当事者が主体だった。ところが、第5版策定の第1回会議(14年7月)では、村民は5人、村議2人に減り、委員長の赤坂憲雄氏(東日本大震災復興構想会議委員)以下、村外の有識者は17人、事務局に三菱総合研究所の6人が入り、村民はわずか5人、村議2人。いつの間にか道の駅など「村内復興拠点エリア」の箱もの群が復興計画の目玉になっていた。

行政区の戸惑い

「村の中で時間を掛けて議論をしていたら、国の事業に乗り遅れてしまう」。当時、村の財政担当者が、疑問を呈した義人さんにこう語ったそうだ。 

 筆者のブログ『余震の中で新聞を作る』(13年12月4日)は、村内で「ワークショップ」という意見聴取会が地区ごとに催されて住民が集められ、国の予算で東京の大手コンサルタント会社が運営していたことを、義人さんの次の言葉とともに記している。

〈「ワークショップでは、『なんで今ごろ?』『先の見通しがあるのか?』『アリバイづくりではないのか?』といった声が出ている。もっと早く、避難して間もない時期から、村の主導で始めていれば。国の除染への地元側の意見を吸い上げたり、戻ろうとする時にこういう地域にしよう――と村の計画に位置づけるものであったりすれば、みんなが帰村への目標を共有できただろう〉

 同じ旧比曽村だった隣接の長泥地区は、現在も帰還困難区域であり=2020年3月11日の『丸9年の「3.11」――変貌する古里「飯舘村長泥」のいま』参照、その隣の蕨平(わらびだいら)地区の帰還世帯は数戸。「復興計画から地域が取り残され、その再生に村の支援はなく、帰還者は少なく、いきなり『地区計画』を作れと言われても、どうしていいか分からないのが多くの行政区の実情ではないか」と義人さんは言う。

花のハウス栽培を再開させた菅野啓一さん(2018年、筆者撮影)

 そこから近い比曽の小盆地の裾で、地域づくりの長年の盟友、菅野啓一さん(66)が花栽培をしている。原発事故前から稲作とハウスの花づくりを手掛け、コメは断念したが、ハウスを再建して18年からトルコキキョウ、カスミソウなどを出荷してきた。

 帰還後、村から農業委員会の会長を委嘱された。除染後も広大な耕作放棄地となりかねない未帰還者の農地の維持・活用が難題となっており、昨年、希望者に農地を集約できるかどうか、村民全戸の意向調査をした。「分かったことは、農業再開の意思がなく『貸したい』という人が大半で、『借りたい』人がほとんどいないという現状だ」。

あわせて読みたい

「原発」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    張本勲氏のサンデーモーニング卒業「喝!」を入れ続けたハリーにあっぱれ!

    中川 淳一郎

    12月06日 10:40

  2. 2

    10万円のウイスキーは1万円のワインより実は割安

    内藤忍

    12月05日 11:16

  3. 3

    ひろゆき氏「絶対失敗しかない」石原伸晃氏の参与任命は“岸田政権の罠”と大胆推測

    ABEMA TIMES

    12月05日 16:59

  4. 4

    世界から人権侵害の一環として捉えられた彭帥問題 北京五輪への影響を中国は苦慮

    舛添要一

    12月06日 09:43

  5. 5

    「街の書店が消えてゆく」…書店をめぐる状況は今、とても深刻だ

    篠田博之

    12月06日 09:54

  6. 6

    「オミクロン株」を語るのは時期尚早 医者の矛盾した発言に違和感

    自由人

    12月06日 09:32

  7. 7

    群馬・太田市の工場でクラスター発生 従業員計42人が感染

    ABEMA TIMES

    12月05日 16:50

  8. 8

    落選の石原伸晃氏、内閣官房参与就任の問題点。参与も国会チェックの範疇に入れるべき

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    12月05日 09:49

  9. 9

    『テレビ千鳥』料理企画に仕掛けた“美味しさで包んだ悪意”

    いいんちょ

    12月06日 10:02

  10. 10

    石川遼 “水差し謝罪会見” に男子ゴルフ界の大スポンサーが激白「お詫びは一切ない」

    SmartFLASH

    12月06日 11:47

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。