記事

インターネット企業がメーカーになる時代

画像を見る

豪州メルボルンに本拠を置き、ユニークなiPadケースを販売している「Studio Proper」の短い歴史は、今後のモノづくりの変化を示唆している。

巨大メーカーが巨大な生産ラインと巨大な流通網で市場を独占し、栄華を誇っていた時代はそろそろ終わるのかもしれない。

まずは彼らの生い立ちから、現在までを紹介しよう。

「1つのケースで無限の可能性」

画像を見る

上はStudio Properの最初の製品となった、iPad1用防護ケース「The Wallee」、価格は39.95ドル(以下、金額表記はすべて米ドル)である。

この商品の宣伝コピーは「One Case. Infinite Possibilities(1つのケースで無限の可能性)」。次の例のように、他の商品と組み合わせることで、iPadの使い方の可能性が広がるという意味である。

単なるiPadケースではなく、自分のライフスタイルに合わせて、他の製品とジョイントさせて使える点が面白い。

画像を見る

以下に紹介する「Pivot」(59.95ドル)と呼ばれるスタンドは、「iMacスタイルのiPad用スタンド」と説明されている。

YouTube動画を見ていただくとわかり易いが、このスタンドをStudio ProperのiPadケースにジョイントすると、iPadの画面の角度と向きをスムーズに変更できるようになり、iMacのように使うことができるようになる。

画像を見る

「iPadを手に取ったとき、ちょっと重いと感じた」が創業のきっかけ

画像を見る

The Walleeのデザインを考案したAlan Tamir氏(上写真、以下タミール氏)は、iPadが発売されて間もない時期に、ニューヨークを旅行し、現地の人々のiPadに対する熱狂ぶりを直に目にした。

自らもiPadを購入し、ニューヨークのカフェで製品を手にしてみて感じたのは「ちょっと重く、置く位置によっては使いにくい」だった。この第一印象が「iPadをベースにした製品を開発しよう」というビジネスのアイデアへと直結する。

当時のタミール氏はウェブの開発を専門としていた。「The Wallee」の機能に何を盛り込むべきか明確なアイデアは持っていたが、モノ作りの経験は皆無。そこで帰国後、工業デザイナーに相談し、二人で製品のデザインを洗練させていった。

iPadをベースとした製品の開発を目指しているのは自分たちだけではない。ぐずぐずしていたら先を越されてしまう」という認識があったので、二人は製品のリリースをできるだけ急ぐことにした。

製品の製造を依頼するために、タミール氏は中国に飛んで製造メーカーを探した。中国語も製造関係の専門用語も知らないので苦労はしたが、希望に合ったメーカーをどうにか見つけることに成功する。

そして、2010年7月に最初の製品が出来上がった。タミール氏がニューヨークのカフェでiPadを手にアイデアを思いついてから、わずか1ヶ月半後のことである。スタートアップならではのスピード感だ。

サイトをロンチして2週間後に、TechCrunchが「Wallee: The Real Apple TV」というタイトルで記事にしてくれたのは幸いだった。これをきっかけに、iPadを壁掛けにしたいという人たちから注文が殺到する。

「サービス」「イノベーション」「品質」の三本柱で市場シェアを守る覚悟

特許の取得には巨額の費用がかかるという理由から、タミール氏らは、The Walleeの特許を取得するのをあきらめ、代わりに、誰よりも優れた製品を誰よりも早く発表するという戦略を選んだ。

「現代では、何でもかんでもコピーされる可能性がある。特許を取っても本当に権利が守られるという保証はない。自分の製品をコピーされないように守る唯一の手段は、『サービス』『イノベーション』『品質』に力を入れることだ」と、タミール氏らは考えている。

また、製品を出荷してから顧客からのフィードバックによって、自分たちが送り出した製品について学んだことが非常に多いと語っている。

写真共有サイトのFlickrに、The Walleeを購入した顧客が同製品をどのように使っているかを示すページが作られている。歯科医院や展示会、キッチンなど、The Walleeは様々な場所で活躍している。

画像を見る

「The Wallee」から「Studio Proper」へと

The Walleeを発表して2年後の今、タミール氏のサイトは「thewallee.com」から「studio.proper.com」へと引越し、スタッフと同時に、製品のラインナップも増え、iPhoneやGalaxy、Nexsus用のアクセサリーも発表している。

豪州で誕生した初めてのハイテク機器用アクセサリーのデザイン・スタジオとして、各方面から注目を集めている同社は、今後、日本でも、名前を見聞きする機会が増えるだろう。

画像を見る

インターネット企業がメーカーになる時代

このブログで以前に、iPadに本に近い感触を与える防護ケースを作って成功した米国サンフランシスコの「DODOcaseの事例」を紹介した。

同じiPadにインスピレーションを得て製品を開発しても、DODOcaseとStudio Properでは、製品のコンセプトも開発の過程も全く異なるのが興味深い。

しかし注目したいのは、どちらのブランドもモノづくりとは無縁のエンジニアやデザイナーが起こしたということ。彼らは生産工学の専門というわけではないし、工場とのパイプを持っているわけでもない。
彼らが起こした小さな会社の強みは、スピードと発想力、そしてオンラインビジネスへの理解だけだ。

数年前まで、製品の生産ラインと言えば資本がものをいう世界で、個人や中小企業が手を出せる領域ではなかった。しかし今はどうだろうか?不景気ということもあるのだろう、個人でも相手にしてくれる工場が多く現れてきた。彼らは小ロットの生産でも対応してくれる。

アイデアをすぐに形にして、オンラインで販売する。売れなかったらすぐに辞める。売れたらすぐに成長させる。こういったアジャイル的手法が、生産ラインも巻き込んで取り組める時代になってきた。

日本にもそのような事例がないか探してみたところ、こんなものを発見した。

画像を見る

ママンカ市場」は日本のウェブプロダクション「スマートデザインアソシエーション」が立ち上げたお店で、農家と組んでいちごアイスクリームを販売している。

このように、日本でもモノづくりの新しい流れが生まれてきている。
新たな「モノづくり大国 NIPPON」を支えるのは、旧世代の巨大メーカーではなく、意外にもリスクを恐れずチャレンジするネット系企業なのかもしれない。

あわせて読みたい

「スタートアップ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    格安スマホ業界にまで波及した価格破壊

    自由人

    06月19日 08:14

  2. 2

    河井克行氏に「実刑判決(懲役3年)」の衝撃。もらう側の罪は?そして自民党の責任は

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月19日 08:26

  3. 3

    山尾議員 突然の政界引退に疑問続出「説明責任果たしてない」

    女性自身

    06月18日 22:10

  4. 4

    “酒類の提供19時まで”の制限に議員から厳しい声「居酒屋やバーにとっては休業要請」

    BLOGOS しらべる部

    06月18日 19:42

  5. 5

    スシロー、くら寿司、はま寿司の海外戦略 "日本食ブーム"の海外市場が秘める可能性

    三輪大輔

    06月18日 10:38

  6. 6

    なぜクマが大量出没するようになったのか? 「エサ不足」ではない本当の理由

    文春オンライン

    06月18日 14:37

  7. 7

    少子化高齢化問題に悩む中国 「日本の経験を中国に伝えるのは意義がある」舛添要一氏

    舛添要一

    06月19日 10:36

  8. 8

    ワクチン供与と、国際的な情報戦と韓国外交の茶番劇

    佐藤正久

    06月18日 08:21

  9. 9

    山尾志桜里議員引退へ。悪い意味での「職業政治家」ばかりの永田町の景色は変わるのか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月18日 10:10

  10. 10

    私が日本の経済財政再建のヒントはルワンダの過去にあると思う理由

    宇佐美典也

    06月18日 12:00

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。