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「一度原発で働いたヤツは、原発に帰ってくる」 作業員を離さない福島1Fの“うま味”とは 『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#14 - 鈴木 智彦

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「原発は儲かる。堅いシノギだな」 街の顔役だったヤクザが見せた“正体”とは から続く

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 2021年3月11日、東日本大震災から10年が経つ。しかし、同日に起こった東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故による影響は未だに尾を引き、住民が帰れない地域も残っている。廃炉への道のりも、まだゴールが見えない。

 原発事故当時、1Fでは何が起こっていたのか。原発とヤクザの問題をあぶりだした、鈴木智彦氏の潜入レポートを再公開する。

 30年近くヤクザを取材してきたジャーナリストの鈴木智彦氏は、あるとき原発と暴力団には接点があると知った。そして2011年3月11日、東日本大震災が発生し、鈴木氏は福島第一原発(1F)に潜入取材することを決めた。7月中旬、1Fに勤務した様子を『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)より、一部を転載する。(全3回の3回目/前編、中編より続く)

東電を本気で批判する作業員は少数

 ソープの他、毎日、誰かを誘って飲みに出た。相部屋で本音を聞き出すのは無理だし、酒が入れば自然と口が軽くなる。何人かに話を訊くうち、ようやく作業員の実像がみえてきた。彼らが日本のために尽力していることは事実である。が、これだけの事故が起きても、東電を本気で批判する作業員は少数だ。

「なんもかんも津波が悪い。あんなに大きな津波が来るなんて誰も思わないっぺ」

 上会社の責任者は、東電の言う“想定外”という言葉をそのまま繰り返した。

「原発は安全だ。事故は仕方がなかった」


©iStock.com

 もちろん、細かい部分での不満はたくさん訊いた。が、原発で飯を食っている人間にとって、東電は神様的存在であり、生活を支えてくれる恩人なのだ。3月のようにきわめて線量が高かった時分ならともかく、私が勤務した7月、8月に関していえば、作業員たちの多くはこれまでの人間関係のしがらみ、もしくは金のために現場に出ていたように思う。その点、普通の労働者と変わりはない。

「本当はもう辞めようと思ってたのよ。重機の免許もあるし、二種免も持ってるから、他の仕事に就こうと思ってた。でも社長から電話もらって、金もいいし、今更他の仕事さがすのもしんどいし」(40代の作業員)

 彼自身、被災者であり、津波で自宅を失った。20キロ圏内にある地元には帰れないため、とある仮設住宅に入居しているらしい。1Fで勤務しているため、自宅に戻る必要はないが、義援金をもらうため週に1度は仮設住宅に戻らねばならない。これまで国産の大衆車に乗っていた彼は、私が勤務した1カ月後、高級外車に乗り換えた。

「さすがにこんな車で仮設住宅に戻れねえかんな。車はしばらくここ(旅館)においとくわ」

「一度原発で働いたヤツはやっぱり原発に帰ってくる」

 彼のみならず、旅館の駐車場に停めてある作業員の車は、次第に高級車へと代わっていった。現場作業を終え、Jヴィレッジに戻った際、タイベックを脱ぎ捨てたあと、体育館でサーベイを受けるが、そこにあった貼り紙にも「3月に小名浜コールセンターにて、身体サーベイをされたおりにスクリーニングレベル超えで作業着と共に『車の鍵(メルセデスベンツ)』を回収された方を探しております。お心当たりのある方は、Jヴィレッジ総務班にお越し下さい」とあった。

「一度原発で働いたヤツは、なんだかんだいってもやっぱり原発に帰ってくるんだ。もう他では働けない。いまさら野丁場(のちょうば=一般的な建築現場)には戻れない」

 同じ現場に配属された下請けの親方の言葉は、原発作業員の心情を端的に表している。

コツさえつかめば耐えられる原発での作業

 相変わらず使えない作業員ではあっても、次第に体が慣れてくると、1Fでの作業はうまみが多いと感じるようになった。暑さもさほど辛くない。装備を着込み、全面マスクを装着して現場に出ると、作業に夢中になってしまい暑さを感じる余裕がないのだ。

 作業後、必ず汗だくになるので、想像以上の暑さであることは間違いないが、私のように不摂生な生活を送り、さほどタフではなく、肉体労働をほとんどしたことのない人間でもコツさえつかめば耐えられる。溶接を担当する作業員は、タイベックの上にもう1枚つなぎを着るのでしんどいだろうが、彼らも作業に没頭しているときはさほど暑さを感じないという。

 線量も想像以上に低いし、現場を出たくないという声を何度も聞いた。もちろん私は東芝系列の作業しか体験していないので、他の部署のことは分からない。

 1Fの復旧作業はあちこちから同時並行で進められていた。

 6つの原子炉は、1号機が米GE(ゼネラル・エレクトリック社)で、2・6号機がGE・東芝連合、3・5号機が東芝、4号機が日立製作所が主契約者である。暴走した1~4号機の炉心にはまだ手が付けられず、遮蔽された特別製トラックから遠隔操作ロボットを操り、専門部隊がメルトダウンした原子炉建屋の中の放射線量を調査・除染していた。汚泥や瓦礫を撤去し、道路などのインフラを整備したり、これ以上の放射性物質を拡散させないためのカバーを設置する準備も進んでいた(10月14日、1号機に設置)。絶え間なく冷却水を送り込み、汚染された水を浄化し、必要によっては敷地内のあちこちに設置されたタンクに移送する。私が就職した上会社は、この汚染水処理の一部を担当している。

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