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天賦有休論か社賦有休論か

日本では総選挙が今週末にという話で、実際話を聞いたときはタイミングが意外でちょっと驚いた。まあこの点は意表をついた民主党の得点であろうが、いずれにしても政権の成績としては首を傾げるところ。自民圧勝が予想されるのも詮無きことかな、と思う。ところで自民党といえばネットでは良くも悪くも憲法改正案と、それに付随した片山さつき議員の天賦人権論否定発言が話題になっている。

天賦人権説(あるいは自然権)の否定は何が問題なのか?

が、天賦人権論肯定派の記事ではあるが、よくまとまっている。L.starはこの件についてはヨーロッパかぶれとの誹りをうけるのかもしれないが普通に天賦人権論支持派であり、人権についてはそもそも「原則論として、ある」が基本であり、その上で「やむを得ない場合においてのみ制限が許される」べき、という認識を持っている。まあ日本国憲法もしかりだが、たいていの憲法はその認識を踏襲している。

まあ自民党の改正案が、まだ全部に目を通していないが、これが果たして本当に奴隷労働だの徴兵制だのにつながる動きかというとまあそんなのは穿ち過ぎだろうと思うが、それでもなんというか理念に対する後退、現実に対する妥協を感じざるを得ない。

この違和感を説明するのに、それと同じ気持ち悪さを最近感じた以下の記事を上げたい。

一般職が有休を取りすぎて困る! 何とか阻止できないか

有給休暇の話は以前にも

ロスジェネ世代がロストした最も大切だったもの

でやったことがある。この時は稼働率を使って有休の本来の意義を考察したが、また別の視点があるようにも思われる。先の記事の論点をまとめると、 有給休暇を取るのは労働者の生得の権利なのか、はたまた業績が伴う場合にのみ許される限定された権利なのかというところに行き着くだろう。つまりこれを天賦人権論と国賦人権論になぞらえるならば、天賦有休論か社賦有休論か、ということになるだろう。

天賦有休論では、有給休暇は労働者に生得的に与えられる権利である。したがって会社がこれを制限することはできないし、あくまで公共の福祉に反する場合に「お願い」をすることが出来るだけである。労働三法なんかを見るに、日本は法体系としては天賦有休論である。ヨーロッパでは法体系だけでなく普通に天賦有休論がまかり通っており、誰かが休むことによって問題が発生してもそれはしょうがないことであり、当然それを最小限に留める努力はするにしても、有給休暇を取らせないようなことはないし、例えば部下に消化させていないのはそれは悪いことだ、という意識がある。

社賦有休論は、それとは逆に、有給休暇は会社が労働者に与えるものであり、会社あるいは会社に関係する共同体の利害に反しない限り取ることが労働者に許されている、というものだ。先ほどの記事の質問者をはじめとして、日本では法体系が天賦有休論であるにもかかわらず、実態として社賦有休論が優勢である。ただ、その優勢も年代が変わることに薄れてきていて、世代間対立の原因の一つにもなっている。

この「理想論としての天賦有休論を抱えつつも現実は社賦有休論」という一つのモデルを見ると、私が感じた、先程の自民党の改正案の意図が見えてくる。改正案は結局のところ現実主義への修正、もっというと高い理想を捨てて現状を追認する意図に近いのではないだろうか。要するに自民党は日本の良きにつけわるきにつけ本質的な部分を変えたくないし、むしろ過去を再確認することでうまくいくと信じているのだろう、というところまで見えてくる。

もちろん、変えることが良いのか悪いのか、というのはまた別の話で、しかも簡単に結論が出るものでもない。ただ投票をするときにはひとつの目安になるのではないかと思う。自民党はまあ昔から保守政党なわけだが、今回の改正案もわかりやすい保守回帰である。だから、それが良いと思う人は、積極的に自民党に投票すべきだろう。

なお個人的には、法体系が描く理想論としての天賦有休論の実現のために骨折ってくれる正当に投票したほうがいいな、と思っているし、また憲法についてもそんな現実への迎合ではなくちょっとばかり無理なぐらいの理想論が乗っているぐらいがちょうどいいと考えている。しかし果たして日本に帰って投票するとき、そんな選択への投票はできるのだろうか、と今回の顔ぶれを見る限り疑問しか湧いてこないのは遺憾の極みではある。

なお、こういうことを言うと意識の高い系の人が「頑張らなければ褒美がもらえないのは当然のことだ」という反論をしてくるのが目に浮かぶが、それは違う。天賦有休論に基づいて休みを謳歌し、家族とのつながりをも手に入れられる人が休みを返上して自発的にハードワークをするのは、それはノーブレス・オブリージュだ。一方、社賦有休論に基づいて、会社から休暇を許可されずその結果ハードワークをさせられるのは、ただの奴隷労働だ。

この2つは明確に分けて論じなければならない。混ぜて議論をすると、たいてい話は欧米のエグゼクティブはびっくりするほど長時間労働するのだから、日本人の工場の単純労働者も長時間労働で頑張るべきだ、みたいなクソミソ一緒であさっての方向に向く。自発的ハードワークをしなさい、というのはこのブログのテーマの一つであり、これからも繰り返し語って行きたいと思っているが、それは人に奴隷労働を強いる形になってはいけない、というのも常に注意している。難しい話ではあるが。

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