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  • 2021年03月09日 09:26 (配信日時 03月09日 08:30)

バイデン政権の「対中国政策」、不満高める米国民 - 海野素央 (明治大学教授 心理学博士)

今回のテーマは、「バイデン政権の対中国政策と世論」です。バイデン政権の外交の要であるアントニー・ブリンケン国務長官は2021年3月3日、ワシントンで外交演説を行いました。その中で、ブリンケン氏は中国に対してどのようなシグナルを送ったのでしょうか。また、米国民は同国に対してどのような感情を抱いているのでしょうか。

本稿では、ブリンケン国務長官の中国に対する心情及び最新の世論調査結果について述べます。

(Rutmer Visser/gettyimages)

経済関係VS.人権問題

米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが実施した調査(21年2月1~7日実施)によれば、70%が「中国との経済関係が悪化しても、中国における人権を促進するべきである」と回答しました。

一方、26%が「人権問題に取り組まなくても、中国との経済関係強化を優先するべきである」と答えました。人権問題が経済関係を44ポイントも上回りました。米国民は中国に関して、経済関係よりも人権問題に価値を置いています。

興味深いことに、同調査で77%の保守派の共和党支持者と76%のリベラル派の民主党支持者が中国との経済関係よりも人権問題を重視していることが分かりました。両党の保守派とリベラル派の人権問題に対する関心は、わずか1ポイント差でした。同国の人権問題は、共和党保守派と民主党リベラル派が協力できる数少ない分野になります。

人権のブリンケン

にもかかわらず、ドナルド・トランプ前大統領は習近平国家主席に対して、人権問題で寛容な態度を示し通商問題で譲歩を引き出そうとしました。これに対して、バイデン政権は異なったアプローチをとっています。

ブリンケン氏は人権問題に対して信念と情熱を持っています。国務長官に就任したその日に、ビデオメッセージを発信してナチスによるホロコースト(大量虐殺)の生存者である義父を紹介しました。義父から人権問題に関して強い影響を受けたことは間違いありません。

ブリンケン国務長官は外交演説で中国との関係について、「そうするときは競争的、可能な場合は協力的、そうしなければならないときは敵対的になる」と述べました。

そのうえで、「新疆ウイルグ自治区で人権が侵害されたときや、香港で民主主義が踏みつぶされたとき、我々の価値観を擁護しなければならない。もしそうしなければ、これからも中国は罰をうけずに行動するだろう」と、警告を発しました。ブリンケン氏は中国の人権問題では「敵対的」になる必要があると捉え、人権問題を最重要視するというシグナルを送りました。

ただ、トランプ前大統領が追加関税を「てこ」にして、中国に米国産農産物の大量購入を迫ったのに対し、ブリンケン氏は人権問題でどのようにして同国の行動変容を促すのかはまだ見えてきていません。

反中国感情の急増 

ピュー・リサーチ・センターが中国に対する感情を「温度計」に喩えて質問をしたところ、「非常に冷たい」と「冷たい」の合計が67%に上りました。米国民の約7割が中国に対して否定的な見解を示した訳です。

ちなみに、18年の同調査では「非常に冷たい」と「冷たい」を合わせると46%でした。「中国発」の新型コロナの感染拡大の影響のためか、米国における反中国感情は21ポイントも増加しました。

特に共和党支持者では、89%が中国に対して否定的な見解を持っています。18年の調査結果と比較すると32ポイントも増えました。一方、民主党支持者は61%が中国に否定的な見解を抱いています。こちらも18年と比べると、23ポイント上昇しました。

加えて、習国家主席に対して82%が「信頼できない」と回答しました。19年は50%、20年は77%でしたので、習氏に関する不信感も増加しました。いずれしにしても共和・民主両党の支持者で反中国感情が急増しているということです。

バイデン大統領は2月24日ホワイトハウスで、半導体、レアアース、医薬品及び電気自動車のバッテリーを含めた4分野における調達の見直しを図り強化すると発表して、大統領令に署名しました。その際、バイデン氏は4分野に関して「外国に依存するべきではない。特に我々と利益や価値観を共有しない外国に依存するべきではない」と述べました。中国を念頭に入れた発言であることは確かです。

バイデン大統領は超党派の議員をホワイトハウスに招き、うえの4分野について会議を開きました。会議終了後に記者団に対して「ベストな会議であった」と、満足気な表情を浮かべながら語りました。ピュー・リサーチ・センターの世論調査結果から明らかなように、バイデン氏は中国問題では共和党から支持を取り付けるのは容易です。

バイデン外交の問題点

今回のピュー・リサーチ・センターの世論調査において、バイデン外交の問題点が浮き彫りになりました。67%が「同盟国との関係改善」に自信が持てると回答しました。続いて60%が「テロの脅威に対する対処」と「気候変動に対する対処」にそれぞれ期待が持てると答えました。

ところが、「中国に対する対処」に関して肯定的に回答した米国民は53%にとどまりました。バイデン氏の対中国外交の期待値はそれほど高くないことを示唆しています。人権問題で中国に行動変容を起こすのは至難の業であると捉えているのかもしれません。

率直に言ってしまえば、中国に対して人権最重視のメッセージのみでは行動変容を起こすことはほとんど不可能でしょう。そこでバイデン大統領とブリンケン国務長官が、同国に人権重視の行動をとらせようと制裁に踏み切り、日本に協力を求めたとしましょう。そのとき、日本が経済関係よりも人権問題を優先できるのかで、バイデン政権との信頼関係が決定するかもしれません。

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