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「人工呼吸器の対応は、これ以上は不可能です」第3波の重症者病棟が直面していた“過酷な現実”

「あなたは人工呼吸器を希望しますか?」

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 突然そのように尋ねられる事態を、国民はどこまで想定していただろうか。

 コロナ感染拡大第3波において、「マンパワーのキャパシティーに加え、重症者患者の病床の稼働率も100パーセントを超えていた」と埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授の岡秀昭教授は述べる。

「うちでは今、医療スタッフや医療機器のキャパシティーがなく、人工呼吸器の対応は、これ以上は不可能です。それでも大丈夫ですか?」

 患者の受け入れの際に、事前にこのような質問をせざるを得ない事態にも直面した。重症者の受け入れに、重症者用のICUベッドが足りず、理想的な環境ではないにしても1人でも受け入れたいと思って中等症者用のベッドも使用したが、もうどうしてもこれ以上は受け入れられない時期があったという。


重症者の治療にあたる医療従事者

現場の医師にのしかかる“精神的な疲弊”

 だが、医療従事者の多くは、人の命を助けたくてこの道を選んでいる人が大半なため、患者の受け入れを断らざるを得ない状況に直面した時の心理的な負担は非常に大きかった。だからといって、年齢制限など画一的な基準による選別をすることもまた、命を救いたいという思いを抱える現場の医師にとって精神的な疲弊になるという。

「その場で慌てて判断し、結果的に望まない治療を受ける、あるいは望んだ治療が受けられないというのは、患者側、医療側の双方にとって不幸なことです」

 急場の選択も、画一的な選別も、どちらも望ましい姿でないとすれば、どうすればいいのだろうか。そもそもこのような命をめぐる問いに直面しなければいけないこと自体が、何よりの問題である。それを避けるためには患者数を増やさないこと、さらには人工呼吸器や病床など医療資源をしっかりと確保しておくことが重要である。そのことを前提として、岡教授はこう話す。

「難しいところですが、ちゃんと話し合いのプロセスを経て、患者さんやご家族が納得のうえで決断されることが重要です。どのような病気であっても、患者さんやご家族が納得のうえで決断されたならば、それがもし残念な結果になってしまっても、人生の最期の時間をかけてでも受け入れていただけるのではないかと思います」

 命についての重要な判断なので、話し合いは何度も重ねられる。しかも一度決めたら終わりではなく、判断は変わることもあることも含めて、一緒に考えていくべきだという。

 岡教授は、このような考えはACP(アドバンス・ケア・プランニング)と呼ばれる、終末期の治療・療養について、患者・その家族と医療従事者が事前に話し合って合意を形成するプロセスにつながると述べる。

“その時”が来たらどうするか?

「ACPにおいて私たちは、治療を行った場合にどれぐらいの確率で救命できるのか、治療後に社会復帰できる見込みがどの程度かということまで説明します。特に高齢者で複数の合併症をお持ちの方は、回復の過程で亡くなってしまうことも少なくありません。これらを全て説明した上で、治療を受ける意思があるか、家族が支えていく覚悟があるかどうかを、患者さんやご家族と話し合っていきます」

 一方で、コロナのような感染症でACPを持ち出すことは、限られた医療資源の配分の言い訳に使われると危惧する声もある。さらに、通常は延命を希望しない人でも、「コロナだけでは死にたくない」という高齢者もいる。一般的な終末期のACPとコロナとは、同一にできない点もあろう。

 ただ少なくとも、終末期であろうと感染症であろうと、万が一の場合に自分はどうしたいかを考えることは、主体的に人生を生きるための一助になる。

 岡教授は言う。

「重要なのは、自分に“その時”が来た場合にどうするのか、日頃から熟慮しておくことです」

◆ ◆ ◆

 河合香織氏による岡秀昭・埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授へのインタビューは、「文藝春秋」3月号および「文藝春秋digital」掲載の「絶望の『重症者病棟』から」をご覧下さい。

(河合 香織/文藝春秋 2021年3月号)

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