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新型コロナ対応は「病院の分断から分担へ」 求められる医療体制の再構築

共同通信社

緊急事態宣言の二度目の延長は既定路線になった。新型コロナウイルス第三波で、日本の医療体制は確かに崩壊した。ここで医療崩壊とは何かという定義を語るのは、無駄である。主に重症者を受け入れていた病院で「通常」の医療が提供できなくなったのは、紛れもない事実であり、多くの医師が声を上げているからだ。その一方で、いまだに欠けている議論がある。新型コロナウイルスの特性に対応できる医療体制とは何かという議論だ。

「分断から分担へ」医療体制を議論するチャンスは今だ

最初にキーワードを提示しておきたい。「病院の分断から分担へ」。医療体制を議論できる最後のチャンスは今だ。私は年明け1月〜2月にかけてニューズウィーク日本版の「ルポ新型コロナ 医療非崩壊」という企画で、集中的に医療機関を取材していた。

それも、重症患者を受け入れて満床が続くICU(集中治療室)を抱える大学病院、救急搬送を絶対に断れない地域の基幹病院(当然、新型コロナ患者も受け入れている)、多くの高齢患者を診察する在宅診療を専門とする医師、街のクリニックや院内クラスターが発生した現場に入って支援を続ける看護師——と多様な現場を取材した。

詳細はルポに譲るとして、そこであらためて見えてきたことがある。日本における医療崩壊とは、通常の医療体制の崩壊であること。しかし、現場では工夫をこらして通常とは異なる医療体制を整えて、新型コロナに対応してきたところがあるという事実だ。成功経験にはしばしば共通項が見られた。それは第一に準備であり、第二に知見をシェアしあうことであり、第三に積み上がった現場知をみんなで実践することだった。

徹底したゾーニングでメガクラスター対応した国保旭中央病院

千葉県に国保旭中央病院という病院がある。2020年3月に、障害者施設で起きたメガクラスターに対応した病院だ。感染者は施設の利用者、職員をあわせて最大で121人にまで膨らんだ。ここは千葉県東部から茨城県南東部まで医療圏域内に計100万人が住む地域の拠点病院である。クラスター対応時には、施設全域を病院化し、徹底したゾーニングで感染を封じ込めると同時に、病状が悪化した段階で知的障害がある患者も受け入れた。

この病院の準備は徹底していた。救急搬送される初療室から「結核の患者が、骨折で搬送されてくる」ことを想定した陰圧室を用意し、感染症患者が入院する病棟にはナースステーションと別に、医療者も感染する危険性に備えてサブステーションを作っていた。

無論、だからといってすべてがうまくいったわけではない。初めての現場での想定外も起きてはいたが、傷は最小限に抑えて知見を蓄えた。

「いざとなれば受け入れる」地域の医療体制を支えた病院間の連携

そして、彼らは地域に知見をシェアする。それは、第一波の時点で「通常」の医療体制、一部の病院だけで新型コロナ患者を診察するという体制ではおよそクラスターに対応できず、地域全体で診察することの重要性を痛感したからに他ならない。

仔細な資料を作り、地元医師会と連携してZoomでの勉強会を重ねて、最新の知見や治療方針を伝える教えると同時に、病床確保に向けても動き出した。ネット上の勉強会だけではまだ不十分で、感染症を担当する医師と感染管理認定看護師が要望に応じて、実際に病院を訪問し、彼らの不安な声に耳を傾け、質問に答える機会を持った。

そこで感染者受け入れのゾーニングについてチェックし、「いざとなれば旭中央で受け入れるので、何かあれば遠慮なく連絡してほしい」と関係を築く。そこまでやって初めて「では、うちも病床を確保します」という病院が増えてくる。第三波では消化器内科や小児科を専門とする医師が、新型コロナ患者の中等症まで診療し、地域の医療体制を支えている。

彼らは実際に受け入れることで、旭中央がためた現場知を実践し、自分たちのものとしている。

災害時と同じチーム編成で対応した名古屋大付属病院

名古屋大学医学部附属病院では、新型コロナ禍を「災害医療」と位置づけ、ICUの専門医の下に、眼科医や精神科医まで含めたチームを編成再編し、重症患者の治療にあたっている。これは災害医療でいうところの二層式モデルの院内版だ。

人工呼吸器の装着に慣れているのは場数を踏んでいる専門医で、専門技術が求められる場面は確かにある 。だが、専門医の、指示があれば多くの医師ができる仕事もまた現場にはある。サポートがあるだけで、専門医も楽になり、休暇も問題なく取れるようになるところがポイントだ。

現場では小さな実践が積み重なっていた。私は最初に、キーワードは「分断から分担へ」と書いた。今の議論の問題点は「新型コロナを診察する病院」と「診察しない病院」の分断を促すことにある。「民間病院の受け入れが少ない。政府がもっとお金を出せばいい」という声がネット上には多くある。それは一面では正しい。

コロナ患者を受け入れることで損をするような仕組みは、まずもって不要だ。だが、お金を出せば問題が解決するということはない。ここで大事になってくるのは、バックアップの確約だ。まだ人的に余裕がある大病院が、普段から知見をシェアし、「いざとなった時」のバックアップまで約束することで、体制構築は進むだろう。

「受け入れ拒否」にも事情がある 地域にあわせたビジョンを

取材の中でこんな声を聞いた。

「大病院から中規模の病院へと、今までなら受け入れてくれていた転院が難しくなるかもしれません。それは、これまで新型コロナ患者を受け入れなかった中規模の病院でも、コロナ患者の受け入れ準備を進めているからです。新型コロナ用の病床を確保する代わりに、他の病床は減らすので、転院の受け入れはできなくなるということですが、本当にこれが最適なんでしょうかね。受け入れを拒んでいた病院にはそれなりに事情があります。だったら、新型コロナは大病院と他の病院でカバーするので、この病院はコロナ以外の病気や怪我を積極的に転院で受け入れますとしたほうが、医療体制にはプラスです」

現場を取材していて思う。より強化が必要なのは、地域の実情にあったコロナ対応の医療体制のビジョンと、再構築が前向きに進むようなインセンティブを打ち出すことではないか、と。

地域に重症患者を診る病院、軽症と中等症、そして回復期の患者を受け入れる病院、自宅療養患者を観察する医師、これと同時に「コロナ患者を受け入れない」と決めた医療機関があってもいい。受け入れない病院には、受け入れない病院の役割がある。役割を分担することで最適解を見つける必要があるだろう。

新型コロナ第三波収束が見えてきつつある。懸念は感染者数の下げ止まりや、変異株だけではない。今だからこそ、次を見据えた医療体制構築の議論が必要だ。そう思っているのは、私だけではない。少なくない現場で奮闘する医療従事者からも同じ声を聞いたのだから。

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