前刀禎明氏(リアルディア代表取締役社長)は、ソニー、ディズニー、AOL、アップルを経て、セルフ・イノベーション(自己革新)を続けている。超高齢社会に突入し、国内人口に対する高齢者の割合が世界一位の日本では、「人生100年時代」の到来が語られ、定年退職後の生き方や働き方が中高年世代にとって不可避なテーマになりつつある。2025年に、75歳以上が国民の4人に1人となるが、何歳になっても自己革新は可能なのか。それによってどのように人生が変化するのか、話を伺った。
取材・文/木村光一 撮影/丸山 剛史
過去も現在も未来も、すべて「自分」を基点としている
みんなの介護 近年、平均寿命が延びたことにより、人生100年時代に突入したと言われています。しかし一方で、日本人の多くがセカンド・サードキャリアを築けなくなっていることが問題視されていますが、前刀さんはどう考えていますか。
前刀 定年退職後に一定期間、再雇用してくれる企業もありますが、年俸は3分の1以下になってしまいます。また、役職定年という制度では、それまでの上司と部下の立場が逆転して現場がぎくしゃくしてしまうなどのトラブルも生じているそうです。いずれも、長く働いてきた人にとっては尊厳を傷つけられる仕組みで、それ自体にも問題はあります。しかし、会社が生涯面倒を見てくれないことは自明の理。本当はそうなる前に、自らの意思によって新しいことにチャレンジしなければいけないんです。
長く生きていればいろいろなことが起こります。僕は、基本的に起きてしまったことはすべて自分の責任だと考えるようにしています。決して環境や他人のせいにはしない。コロナ禍の現状についても同様です。そう考えると、「現在」は「過去」の自分がしてきたことの結果ということになる。視点を変えれば、これから先に起きることも自分でどうにかできる。自分の人生は環境にも他人にも縛られない。「未来」はすべて自分次第になるんです。
そもそも、人生は何が起きるかわからないから楽しい。だからこそ、明日の自分には無限の可能性がある。そう思えるようになれば人生は楽しくなります。
「欲求→努力→喜び→欲求」という循環があれば人は成長しつづける
みんなの介護 何歳になってもセルフ・イノベーションは可能なのでしょうか。
前刀 可能です。というより、セルフ・イノベーションには終わりがない。死ぬまで人は変わり続けることができます。ただし、それには夢や、良い意味での「欲求」を持つことが大事で、その欲求を叶えるためには努力が必要です。と言いながら、僕は子どもの頃、「努力」という言葉が一番嫌いでした。親が旅行に行くと必ず「努力」の文字が入った置物をお土産に買ってくるのがすごく嫌で(笑)。泥臭い努力なんかより、才能だろうと考えていた時期もありましたが、今は努力というのは素晴らしい言葉だと思っています。
それがわかったのもさまざまな仕事の過程で「欲求→努力→喜び→欲求」というグロース・サイクル(Growth Cycle、成長の好循環)を体験したからでした。何も、大きな仕事でなくてもかまいません。ちょっとしたステップアップや、小さな成功体験の喜びが新たな欲求を生み、またその欲求を叶えるために努力して喜びを得るというサイクルが回り出せば必ず人は成長していく。このエンジンさえ心の中に持っていれば、何歳になってもセルフ・イノベーションは可能になります。
ウォルト・ディズニーもこんなことを言っています。「我々の最大の一番の資源は、子どもの心である」。実年齢ではなくて心の年齢。心の若さが鍵なんです。