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  • 今野晴貴

各党マニフェスト分析:ブラック企業をなくす政治家は誰か?

・雇用政策の内容
今回のマニフェストを見ると、言葉が躍っている。社民党・共産党以外の主要政党も、非正規雇用の待遇改善や就労支援、セーフティーネットといった、数年前までは考えられなかった政策を打ち出している。
特に目を引くのは、「均等待遇」(民主、社民、共産)や「同一(価値)労働・同一賃金」(自民、維新、みんな、社民、共産)である。
均等待遇も、同一(価値)労働・同一賃金も、社共を除く保守政党にとっては、「タブー」であったからだ。

また、トライアル雇用(自民、みんな、社民)や就労支援の拡充といったところも、今回の主要政党のマニフェストの特徴である。  いわば、09年ではじめて自民・民主が登場させた「新しい政策群」の用語が各党のマニフェストの中で踊っているのである。一見するとこれは「進歩」にも見える。しかし、その内実は非常に情けない。

・用語の間違い
まず、悲惨なことに各党に用語の間違いが多々見られる。
例えば、自民党の「同一価値労働・同一賃金を前提に均衡待遇を目指す」というのは論理矛盾である。同一価値労働・同一賃金の前提は、「同一労働・同一賃金」であり、ここは「均等待遇」なのである。

「均衡待遇」というのは、そもそもこうした同一労働・同一賃金や同一価値労働同一賃金になじまない日本型を「正当化」するために構築された行政用語であり、両者は絶対に交わらないはずなのだ。

つまり、論理的にはこうだ。「日本では同一価値労働・同一賃金は無理なので、均衡処遇を目指しましょう」。自民の中では、この相対立する概念が、一体となっている。混乱というほかない。

また、みんなの「同一能力・同一労働・同一待遇(賃金等)の原則を徹底」というくだりにも、同様の混乱が生じている。ここでは「能力」と「同一労働・同一待遇」が同じものとされている。本来、同一労働・同一賃金、としていないところがたくみだが、本来ありえない用語をだして、議論を混乱させている。

本来「能力」と「同一労働・同一賃金」はまったく相容れないのである。同一の「労働」によって待遇を比較することと、「能力」で比較することは、まったく異なるからである。通常、「能力」で比較する場合には、そこに「正社員」という雇用形態(義務を負う姿勢)や、生活態度、性別、サービス残業への従順度などがすべて含まれる。

こうした恣意的な評価基準と対立する概念こそが、同一労働・同一賃金概念なのだ。ようするに、「日本で同一労働・同一賃金はむりだから、能力で均衡を実現しよう」というのが、これまでの政策論の結論だったわけである。

・非正規の日本化とブラック化
さて、この二つの事例から、いかに議論が混乱し、これまでの研究・政策実践を無視してきたかがお分かりいただけただろう。だが、これは偶然なのだろうか?  この間の労働相談の流れからは、実は、非正規雇用の「同一義務化」が進んでいることがわかる。

これまで非正規雇用はパートや学生など、いわばフルタイムで働くことが難しいところで広がってきた。ところが、この間非正規雇用は若者にまで広がり、ついには大学新卒者も、派遣や契約社員として「就職」することがめずらしくないところまできた。

そこで、問題は、彼らが正社員と「同じだけ働かせる」ということを企業がやり始めているということである。

私たちへの相談では、非正規雇用なのにサービス残業を強要される、長時間労働で鬱病にかかってしまった、などが寄せられている。これら長時間労働や過剰な命令は、日本型正社員に特徴的なもので、彼らは仕事に基づく賃金ではなく、そうした全生活を賭した、「生活態度としての能力」によって評価されてきた。

しかるに、今回のマニフェストでは、意図的にこうした「能力」と「同一労働・同一賃金」概念の混同が行われているのではないか。同一労働・同一賃金とは、「正社員並みにはたらく非正規に対して、正社員と違い処遇を与える」と。

こうなると、これはもはや本来の政策用語ではない、「同一」の内容自体を日本的に変質して導入しているのだ。

そして、その帰結はブラック化の促進である。日本型雇用の過剰な命令がブラック企業の「やりたい放題」を生んでいる現状で、この「やりたい放題」を批判する同一労働・同一賃金という政策タームを、むしろ「やりたい放題の均等」に読み替えてしまっているのである。

こうした傾向は、おそらく「意図的」なものではない。彼らが政策について不勉強であるために、よくわからないままに用語を「応用」してしまった結果、日本型の弊害や特殊性を無視してしまっているのだろう。これは、裏を返せば、彼ら政治家が、日本型雇用の特殊性や問題点、そしてブラック企業問題について、まったくの無知であることを示している。

・就労促進とブラック化
次に、もう一つの特徴だった就労支援はどうか。ここで象徴的なのはトライアル雇用である。

トライアル雇用も、長時間労働や「生活態度としての能力」が規制されない中では、ただサービス残業競争の促進となりかねない。

安易な導入は、実はブラック企業の追い風となってしまうのである。

正社員化、トライアル化、非正規との同一能力評価、これらはすべて、ブラック企業が無制限に若者を働かせ、鬱病と大量離職を蔓延させる「追い風」となっている。就労圧力をただ強めることは、「どんな企業でもいいから働け」「どんな条件でも引き受けろ」といっているのに等しいのである。つまり、ブラック企業のことはまったく想定していない政策群であると断ぜざるを得ない

。  (こうしたブラック企業を支える政策の構図は近著『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)』に詳述した。)

・維新の政策は、同じ類型
さらには、維新の「最低賃金撤廃」も、実は同じ軸線上の問題である。なぜなら、「最低賃金撤廃」というのも、「どんな労働条件でも働け」というメッセージがこめられているからである。特にこれは、生活保護受給者がターゲットとされたものだろうか、当然すべての若者に影響が波及する。

ブラック企業はこの政策とメッセージに追い風を受け、ますます安く過酷な労働を強いることになるだろう。

ちなみに、もし最低賃金が撤廃されたらどうなる。
第一に、無限の残業が強要される。今でも固定残業代などの制度によって、基本給に残業を含ませる制度が横行しているが、ここには最低賃金の壁がある。例えば、賃金を20万円の「基本給」に収める場合には、働かせることができる上限は「最低賃金×労働時間」が20万円に収まる範囲までである。

しかし、これが撤廃されれば、基本給を20万円として、あとは無限に働かせる。超過した部分は「時給を下げて調整」とすればよい。これは実は、偽装店長裁判で、マクドナルドがとった方法であり、かなり現実的に使われる可能性が高い。

  第二に、そこらじゅうにスラムが形成され、「宿付」の労働が増加するだろう。最低賃金以下では、当然自分で家を借りて生活できないような労働が蔓延する。そこで、「やくざ」稼業が住居と仕事をあっせんするのである。これは戦前に多く見られて形態であり、現在でもアングラに存在している。

さらには、おれおれ詐欺などの犯罪行為が増加することも予想される。雇用労働があまりに劣化すれば、犯罪に走らざるを得ないものが大量に出る。維新の政策では、生保も縮小されるのだから、やくざにとってはまことにありがたい政策である。次々に犯罪の協力者が協力される。

いずれにしても、最低賃金の撤廃は、「どんな仕事でも働け」というメッセージの延長に出されており、実は、これは他の主要政党が出しているメッセージと同根なのである。「よりひどい」維新ばかりがやり玉に挙がっているが、同じ構造をもつ、「ブラック化促進政策」の構造そのものに焦点を当て、批判することが求められている。

・本当に必要な政策は何か:政治家を選ぶ基準
最後に、では、どんな政策が必要であり、「ブラック企業をなくす政治家」を選ぶ基準は何かを提示したい。

私たちが選ぶべき政治家は、長時間労働規制を正面から唱える政治家である。残業代の割増ではだめだ。根本的に、働かせすぎを批判し、根絶しようとする政治家は、信用できる。

均衡とか均等とか、残業代とか、問題を「金」に還元しようとする政治家は、結局のところ「働かせすぎ」というブラック企業の問題を理解していない。それどころか、よかれと思って「正社員化」などといっている政治家は、「正社員」の中身にまったく興味を持っていないのである。

だから、正社員の中身に言及する政治家。すなわち、労働時間規制を主張する政治家こそが、ブラック企業問題の本質を知り、これを是正しようとしている政治家なのである。

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今野 晴貴
文藝春秋
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