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東日本大震災で〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 「想定外」の災害にも“揺るがぬ”国をつくるには - 西岡研介 (ノンフィクションライター)

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1995年1月17日午後4時、神戸市灘区の「王子陸上競技場」に、2基のローターを備えた巨大なヘリが降下してくる姿を見て、当時、地元紙の記者だった私は刹那、わが街が「戦場」と化したかのような感覚に陥った。それは「チヌーク」の愛称で呼ばれる、陸上自衛隊の大型輸送ヘリCH-47Jだった。

もっとも、このヘリの愛称はもちろん、飛来した3機のチヌークが、千葉県・木更津駐屯地の「第1ヘリコプター団」所属で、姫路駐屯地から救助活動に向かう「第3特科連隊」の隊員193人を運んでいたことを知ったのは、しばらく後のことだった。

「競技場に着いたら、ほうぼうで煙が出ているはずだから、その方向に行け。救助を求められたら逐次、小隊に分かれ、機材と無線機を持って動け」

阪神・淡路大震災の発生から既に10時間近くが経過していたが、連隊に入る情報はあまりに少なく、連隊長は、こう指示するほかなかったという。

その5時間後の午後9時、同市東灘区で被災した男性(当時27歳)は、壊滅的な被害を受けた海上自衛隊阪神基地の沖合に浮かぶ、複数の艦艇が放つ光を目にし、「国は俺らを見捨ててなかったと、思わず涙が溢れた」と話す。

後日、男性は、これらの艦艇が、広島県の呉基地隊に所属する輸送艦と護衛艦で、呉から10時間かけて神戸に辿り着いたことを知ったというが、貝原俊民・兵庫県知事から呉総監部に災害派遣の要請があったのは、地震発生から約14時間後の17日午後7時50分。しかし、その時にはすでに、数隻の艦艇が神戸沖に到着していた。

実は呉基地隊の艦艇は、その日の午前9時40分には出港していた。阪神基地隊から地震発生の一報を受けた当時の加藤武彦・呉地方総監が、引責辞任を覚悟で「自主派遣」したものだった。

自衛隊の災害派遣には①都道府県知事などの「要請に基づく派遣」(自衛隊法83条2項)、②自衛隊の施設や部隊の近くで火災などの災害が発生した場合、部隊の長の判断で派遣できる「近傍派遣」(同3項)、③緊急に救助が必要と認められるのに、通信の途絶などで都道府県知事などと連絡が取れない場合には、要請がなくても部隊を派遣できる「自主派遣」(同2項但し書き)の3種類がある。しかし、「当時は自衛隊の独断行動を危険視する風潮が強く、要請に基づく派遣が基本だった」(防衛省OB)。

阪神・淡路大震災では、首相官邸など中央に情報が入らず、機能不全に陥り、自衛隊に対する派遣要請が大幅に遅れたことはよく知られている。陸上自衛隊への派遣要請は、発災から4時間以上経った午前10時、海上自衛隊への要請は前述の通り午後7時50分、航空自衛隊に至っては、翌18日の午後9時だった。

だが、被災地となった伊丹市に駐屯する陸上自衛隊中部方面総監部も、前述の呉地方総監部と同様に、発災直後から動き始めていた。午前6時には非常勤務態勢をとるとともに、第36普通科連隊254人を「近傍派遣」の名目で、阪急伊丹駅や西宮市民病院などに向かわせ、救出活動を開始していた。

しかし、発災から9日後の26日、記者会見に応じた松島悠佐・中部方面総監(当時56歳)は、マスコミから「出動が遅かった」との批判を浴び、悔し涙を流した。松島氏が述懐する。

「記者たちから『なぜ自主派遣しなかったのか』などと言われ、『現場の事情も、隊員たちの苦労も知らずによくも……』と悔しくてね。当時は、自衛隊の『自主派遣』など容認される世相ではなかった。だからこそ『近傍派遣』で部隊を出さざるを得なかった。

また当時の阪神地域は、九州や東北と違って、自衛隊に対する〝アレルギー〟が強く、防災訓練すら一緒にしないという土地柄だった。平素から県や市と緊密な連携をとり、協働訓練を重ねていれば、救えた命はもっとあった」

阪神の教訓生かし
「隔世の感」も

この時の反省から、政府はその後、災害対策基本法を改正。それに伴い、「防衛庁防災業務計画」も修正され、都道府県知事の要請を待たず、自衛隊が部隊を自主派遣できる基準を明確化した。さらに、災害派遣に従事する自衛隊員が救助活動を円滑に行えるよう、自衛隊法も改正された。


(出所)内閣府「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」を基にウェッジ作成
(注)1994年調査は「単一回答」、2018年は「複数回答可」にて実施 写真を拡大

それらの法整備が進む一方で、阪神・淡路大震災における自衛隊の災害派遣は、国民から高く評価された。内閣府が72年から3年ごとに行っている「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」では、「自衛隊に期待する役割」などについての問いに、震災前の94年では「災害派遣」が23.8%だったが、97年からはそれまでトップだった「国の安全の確保」を上回り続けている。

そして、阪神から16年後の2011年3月11日、東日本大震災が発生する。

被害が甚大だった東北各県知事からの自衛隊への災害派遣要請は概ね発災から1時間以内に行われ、なかでも宮城は16分後、岩手に至ってはわずか6分後での要請という迅速さだった。

実は宮城、岩手の両県と陸海空の自衛隊は、発災の3年前から大規模な津波災害を想定した訓練を実施し、その後も緊密な連携をとっていたという。

 「みちのくALERT(アラート)2008」と名付けられたこの訓練は、〈マグニチュード8.0の地震が宮城県沖で発生し、三陸沿岸に津波が襲来〉との想定で実施。両県と自衛隊だけでなく、三陸沿岸部の市町村、警察や消防、地元住民ら約1万8000人が参加するという大規模かつ実践的なものだった。

この訓練が奏功し、発災から4分後には、陸上自衛隊東北方面総監部から連絡員が宮城県庁へ派遣され、自衛艦隊司令官から出動可能な全艦艇に出港命令が発出。19分後には、航空自衛隊の三沢、百里、小松の各基地からF-15J戦闘機が被災地に向かって離陸した。

 これら迅速な初動対応と、自治体、警察、消防との連携で自衛隊は1万9286人を救出。これは全生存救出者の約7割に相当し、前出の松島氏にとっては「まさに隔世の感」だったという。

東日本大震災での自衛隊の活動については、他省庁もこう評価する。

「省庁間の協議により、被災地において不足した警察車両の燃料について、自衛隊から補給を受けたほか、被災地における部隊間の協議により、自衛隊の重機の支援を受けて、警察部隊が捜索活動を行うなど、様々なレベルでの連携を実現した」(警察庁)

「自衛隊には人命救助だけでなく、輸送機などによって消防車両や部隊を運ぶといった支援をしていただき、大変ありがたかった。東日本では自衛隊や警察といった各組織の特性について理解し、連携することが必要と改めて認識した」(泉口将人・総務省消防庁広域応援室広域応援調整係長)

しかし、東日本大震災以降も、16年に熊本地震、17年に九州北部豪雨と、毎年のように大規模な災害が日本列島を襲い、自衛隊の災害派遣も増加の一途を辿っていった。特に18年には大阪北部地震(6月)、西日本豪雨(7月)、そして北海道胆振東部地震(10月)と相次ぎ、「西日本豪雨の後に北海道に派遣された部隊もあった」(陸自幹部)。


(出所)防衛白書などを基にウェッジ作成 写真を拡大

その一方で、鳥インフルエンザや豚コレラでの殺処分、新型コロナウイルス感染症で逼迫した医療機関への看護官の派遣、さらには豪雪による立ち往生での出動など、自治体による自衛隊への派遣要請は今や、〝常態化〟している。が、防衛省幹部はこう懸念する。

 「国民に頼りにされているのはありがたいが、有事となれば、自衛隊は国土を守るために戦わなければならない。また首都直下や南海トラフ地震レベルの災害では、自衛隊自体の被災も免れず、とても東日本大震災で展開したような民生支援まで手が回らない」

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