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「『一生償う』を守らなければ不法行為の可能性も」弁護士が解説する交通事故・加害者と被害者の“その後” 有名経営者・辻敬太氏の事故は「法的に決着がついた話」なのか - 「文春オンライン」特集班

「『やっぱり教習所行こう』の投稿はすぐ消した」若手経営者・辻敬太氏が語った交通事故“被害者との諍い”の真実 から続く

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 2月中旬、とある10年前の交通事故をめぐってトラブルが起きた。2月4日にYahoo!ニュースで公開された記事「車に衝突され、意識不明の息子 9年半介護続ける両親の割り切れぬ思い【親なき後を生きる】」をめぐって被害者の認識と加害者の認識が対立。さらにはその加害者が今注目されている若手経営者・人材育成家の辻敬太氏(31)だと判明したのだ。


辻敬太氏(2019年1月31日 本人Instagramより)

 辻氏は経営コンサルティングや投資事業を手掛けるEARTHホールディングス株式会社の代表取締役社長。人材育成家として「じっくり聞いタロウ」(テレビ東京系)などに出演するほか、地元の関西では「辻敬太のハピジャパ」(KBS京都テレビ)でメインコメンテーターを務めている。「人生巻き込んだ者勝ち」(万来舎)などの著書もある。

 記事中で、交通事故により遷延性(せんえんせい)意識障害(いわゆる植物状態)となった当時18歳の青年Aさん(27)の両親は、「(辻氏は)見舞いに来るどころか、10年が経とうとする今も謝罪ひとつありません」と語っている。

 しかしそれに対し、辻氏が自身のYouTube上で反論。「事故を起こしたのは事実です」と認めたうえで、「法的には償いを終えています」「(謝っていないというのは)全くの事実無根」「今も謝罪の気持ちはもちろん、本人にも謝罪の気持ちは忘れていませんし、この10年間忘れたこともない」と主張したのだ。

食い違う双方の主張

「文春オンライン」取材班は双方を徹底取材。すると、Aさんの家族は「謝罪がないどころか、辻氏は喧嘩腰で高圧的な態度で電話をかけてきた」と嘆き、「インスタグラムのDMでは《マジで誰や 名前言え 目の前でどうどうと話しに来い 調べたろか》《なめられてますね僕も》など、息子の現在を気に掛ける様子は一切なかった」などの悲痛な声をあげた。

 一方、辻氏への取材からは「(被害者に対して)そりゃ申し訳ないと思ってます」、「(謝罪に行かなかった理由は)僕の中では僕のタイミングがある」、「(先方から送られていたのは)脅しのようなメッセージだった」など加害者としての言い分が明らかになった。

 交通事故の加害者と被害者、それぞれの立場から見える風景が食い違うのは仕方のないことなのだろうか。そして、以前は裁判が終われば加害者と被害者の接点はほとんどなかったが、SNSによって互いの存在が目に入ってしまうという現代特有のトラブルに対処法はあるのか。

 交通事故訴訟に詳しい高橋正人弁護士に話を聞いた。

「謝罪がないケースは非常に多い」

「第一に、こういった交通事故で加害者から被害者に対して謝罪がないケースは非常に多いです。むしろ、加害者が被害者に謝罪するケースはほとんどないと言っても過言ではないくらいの割合です。

 事故で被害者が亡くなったケースでは、加害者も罪の意識から謝罪に行く場合もありますが、刑事裁判が終わってしまえば、知らぬ存ぜぬと言わんばかりに謝罪に行かなくなることがよくあります。私自身もこういったケースを数多く見てきました」

 しかし辻氏は、刑事裁判の供述調書で「この裁判が終わった後も、一生にわたって、被害者の方とご家族に対して誠心誠意対応します」と述べている。

 それを受けて大阪地裁は、辻氏について「過失は比較的重大である上、その結果は極めて重大である」としながらも、「今後は、改めてお見舞いに行くなど、被害者及びご家族に対し、誠心誠意対応していく(中略)などと述べており、反省の態度を示している」と反省の態度を考慮して執行猶予を認めている。

 被害者家族は、その言葉が実行されていないことに長年憤っていた。

裁判で発した言葉の重さは?

 高橋弁護士によると、「刑として科されていなくても、法廷での加害者の言葉が実行されていなければ被害者は法的に訴え出ることができる可能性がある」という。

「加害者が法廷で『一生償う』と述べたにもかかわらずその言葉が実行されなかった場合、不法行為となる可能性があります。刑事訴訟の当事者は検察官と被告人ですが、現在の法律では『事故の被害者の権利が法的に保障される』とされています。なので加害者が法廷で供述したのに謝罪がなかった場合は、その事故の被害者としての権利が侵害されたとして不法行為に基づく損害賠償請求を起こすことができるのです」

 高橋弁護士は、「刑事裁判で被害者が権利を持つ」という考え方が定着してきた背景について、次のように解説する。

「実は、刑事裁判における被害者の立場についての考え方は、この30年間くらいで180度変わりました。1990年2月20日の最高裁判決では、刑事裁判における被害者は『司法手続き上の単なる取り調べの対象』、つまり証拠の1つに過ぎないとされていました。証拠ですから、もちろん法的に保護されることはありません。

 しかし、2004年に成立した『犯罪被害者等基本法』や、2005年に成立した『第一次犯罪被害者等基本計画』によって大きな変化が起きました。そこで『すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する』、つまり交通事故の被害者は刑事裁判においても、法的に保障された権利を持つと定められました。刑事裁判で宣誓されたことや科された刑が実行されない場合に、訴え出る資格を持つということです」

 今回の騒動の中で辻氏が一貫して主張しているのは「法的には罪を償っている」「決着している」ということだ。しかし高橋弁護士の説明によれば、裁判で誓った謝罪を実行に移して、Aさん側の尊厳を守る法的な義務をまだ負っているということなのだ。

「『どっちもどっち』ではないのです」

 しかし2011年の事故から10年間にわたって、辻氏はAさんの家を訪れることはなかった。辻氏は「謝罪は自分のタイミングでする」と主張しているが、その状況に耐えかねて、Aさんの両親は辻氏に何度も批判的なメッセージを送ることになった。その中には、攻撃的と取られかねない文面も存在する。その場合でも、被害者から辻氏への損害賠償請求は成立するのだろうか。

「確かに双方に過失がある場合は、お互いの過失が相殺されて賠償額が減る可能性があります。被害者といえど、法に触れる行為は控えるべきです。

 しかしながら、加害者の過失や不法行為の責任自体が減ったり無くなったりするわけではありません。感情のもつれから被害者側が攻撃的になってしまうケースも数多く見てきましたが、被害者が攻撃的なメッセージを送る背景には、加害者からの謝罪に納得していない場合がほとんどで、加害者側の落ち度のほうが上回るといえます。『自分のタイミング』という主張で被害者を10年間待たせるのは理由として通りません。被害者のタイミングで謝罪しなければならないのに本末転倒です。『どっちもどっち』ではないのです」(高橋弁護士)

SNSで加害者が視界に入ってきてしまう現代特有の困難

 今回の問題は、辻氏がSNSで華やかな生活を投稿し、被害者がそれを目にしてしまったことで感情のもつれが大きくなった経緯がある。誰もがSNSで発信する時代、加害者と被害者の生活圏が交錯するリスクは格段に上がっているのだ。

「SNSがトラブルの火種になるケースはとても多いです。加害者が知名度や影響力のある人物の場合、被害者は意図せず加害者を目にしてしまい、そのたびに事故の苦しみが蘇ることになります。さらに加害者が一般人であっても、『つい加害者のことを検索してしまう』と悩む被害者も多くいます。『不幸になるのなら見なければいい』というのは正論なのですが、憎んでいるものや嫌いなものに意識を引き寄せられるのは人間の性質なのかもしれません。きわめて現代的な課題ですが、これからSNSが元になるトラブルは増えていくでしょう。この問題の対処法はまだ存在しません」(同前)

 法的な責任に加え、法律の「その先」で起きる人間同士のトラブルは、どうすれば解決に向かうのだろうか。交通事故訴訟を長年あつかってきた経験から、高橋弁護士は次のように見解を語った。

「加害者は法的に罰せられたあとも、被害者の負った被害を誠心誠意填補することが大切です。若い被害者が寝たきりになった場合、賠償額の相場はだいたい2億円前後と言われています。死亡事故では7000万円ほどのケースが多いので、長年にわたって介護を続ける家族の負担はそれほど大きいということ。

 保険などを使ってその金額を支払い終えた後も、無理のない範囲で自分から被害者に償い金を直接送るのも謝罪の気持ちを表明する方法になるでしょう。

 刑事裁判で受ける刑罰とは、社会の秩序を乱したために国から受ける罰のこと。その罪を償った後も、加害者から被害者に対して誠心誠意向き合う気持ちを示すことが重要なのです」

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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