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池上彰氏「トランプは過去の人ではない」 再び影響力持つ可能性も

トランプ氏は大統領の座から降りたが、いまだに影響を与える(写真/AFP=時事)

 アメリカの経済対策やコロナ対策などをめぐっては、日本ではトランプ前大統領の名前を聞く機会が少しずつ減り、「バイデン大統領」を主語とする報道が増えてきた。しかし、「トランプ氏の政治への影響力は依然として大きく、特に共和党に対しては非常に強い力を持っている」と指摘するのは、『池上彰の世界の見方 アメリカ2』の著書があるジャーナリストの池上彰氏だ。池上氏が「トランプ氏の今後」について解説する。

【写真】濃いグレー気味のブラウンのスーツ姿で指をさす池上彰氏

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 今年1月6日のアメリカ・ワシントンで起こった大事件を覚えていますか? トランプ支持者が議会まで行進、一部が議会に乱入し、警備の警官が発砲。トランプ支持者4人が死亡し、警備の警官もひとり亡くなった悲惨な事件でした。その後、当日警備に当たった警察官2人が自殺しています。警察官にとってもショックだった出来事でした。

 アメリカの大統領選挙は複雑です。11月の選挙で選ばれるのは大統領選挙人で、この人たちが投じた票が1月6日に連邦議会で開けられることになっていました。本来、形式的な開票作業が行われるだけのはずだったのですが、トランプ大統領(当時)が当日、ホワイトハウスの前に支持者を集め、「連邦議会に行進しよう」と呼びかけました。開票作業に圧力をかけようとしたのです。その結果として、あの暴挙が起こったのです。

 トランプ大統領は翌7日夜になってようやく、乱入した暴徒たちを批判し、速やかな政権移行を約束しました。その後、1月20日の大統領就任式典には出席せず、フロリダに移動しました。最近ではトランプ前大統領よりも、バイデン大統領についての報道が多くなったため、トランプ前大統領への関心も低くなったように感じます。

 さて、トランプ前大統領は「過去の人」になったのでしょうか?

トランプ弾劾決議に賛成した共和党議員に抗議が殺到

 私はトランプ前大統領の政治への影響力は依然として大きく、特に共和党に対しては非常に強い力を持っていると考えています。

 共和党の中にも「トランプはひどすぎる」と考える人たちがいたことはご存じでしょう。上記の議会乱入事件をめぐり、乱入を扇動したとしてトランプ大統領への弾劾訴追する決議案が議会にかけられました。下院では賛成多数で可決されましたが、このとき共和党からも決議に賛成した議員が10名いたのです。しかし彼らは、今、大変な目に遭っています。

 例えばディック・チェイニー元副大統領の娘であるリズ・チェイニー下院議員は、下院のナンバー3の地位にある人物ですが、トランプ大統領の弾劾決議に賛成しました。そのため、この地位から退けという強い圧力にさらされました(2月3日、チェイニー議員の地位をはく奪しないことを下院共和党が可決)。

 それだけではありません。この10名には、地元の選挙区で「次の選挙では応援しない」「政治資金を出さない」などといった意見や抗議が殺到。脅迫もあったようです。

 こういった事態を見てしまうと、来年11月に改選を迎える上院議員はトランプのいうことを聞くようになります。

 次の選挙が4年後であるとか、もう引退を決めている上院議員はトランプを批判することができるけれども、それ以外の議員は批判できないでしょう。「サルは木から落ちてもサルだが、代議士は選挙で落ちればただの人だ」という言葉があります。「だから選挙で落ちるわけにはいかないのだ」という、政治家の心理を表しています。大野伴睦という政治家(故人)の言葉だとされていますが、アメリカの政治家にも落選を恐れる心理はあるのです。まして生命の危険を感じれば、なおさら批判できなくなります。

バイデン政権が史上最弱になる可能性も

 昨年の大統領選終盤、具体的な根拠を示さないのに郵便投票の中止を求めたトランプ大統領に対し、身内の共和党の重鎮議員からも批判の声があがりました。しかし、今は状況が違うようです。なお、郵便投票をめぐる混乱など、昨年の大統領選については『池上彰の世界の見方 アメリカ2』で詳しく書いたのでそちらをご覧ください。

 1月28日、共和党下院トップのマッカーシー院内総務がわざわざフロリダにトランプ前大統領を訪ね、来年の中間選挙の協力を求めたのです。トランプ前大統領の協力で議会の勢力が逆転したとなれば、彼の影響力は飛躍的に高まるでしょう。

 大統領選挙に敗れたとはいえ、トランプ前大統領の得票数は7400万票以上。現役の大統領(当時)としては過去最多です。黒人にもトランプ支持者はいます。例えば黒人でもビジネスパーソンであれば、減税政策をとったトランプ政権では恩恵にあずかりました。彼らは今も支持していることでしょう。来年の中間選挙で共和党が議会の主導権を握る可能性は小さくないのです。もし逆転すれば、バイデン大統領は史上最弱の大統領になる可能性があります。

 現在でも、バイデン大統領の支持率は57%。戦後歴代大統領の1期目の最初の調査における平均支持率が60%ですから、支持率は高くありません。ただし、民主党支持者の98%はバイデン大統領を支持しています。これに対し、共和党支持者では11%しかバイデン大統領を支持していません(2月6日付、日経新聞)。ここまでアメリカの分断は進んでしまったのです。これだけを見ても、バイデン大統領の政権運営はかなり難しいものになると考えられます。

 バイデン大統領は国際会議の演説で「アメリカは戻ってきた」と発言しています。もちろん、国際政治の舞台に戻ってきたという意味でしょう。しかし、来年の中間選挙などのアメリカ国内の政治状況によっては、トランプ前大統領の影響力が戻り、再び「トランプは戻ってきた」となる可能性も高いのです。

【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者などを経て1994年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年NHKを退職しフリージャーナリストに。現在、名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、関西学院大学、日本大学、順天堂大学、東京大学などでも教鞭を執る。

 主な著書に『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズ、『池上彰のまんがでわかる現代史』シリーズ、『伝える力』、『私たちはどう働くべきか』など。近著は『池上彰の世界の見方 アメリカ2』。

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