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コロナ禍で「21世紀型教養の再構築」ねらう 京大オンライン公開講義シーズン2が配信中

新型コロナウイルスが日本に襲来して1年が経過した。2度目の緊急事態宣言を迎えた現在では、生活様式も変わり、各所でオンラインでの活動が定着し始めている。特に定着が進んでいるのがオンライン学習だ。内閣府が昨年6月に実施した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、大学、大学院生のオンライン講義受講率は95.4%に及んでいる。

そんな中、昨夏に開催され、総アクセス数が35万回と大きな反響を呼んだオンライン講義シリーズ「立ち止まって考える」のシーズン2が2月に始まった。前回の取材の内容を踏まえ、京都大学人社未来形発信ユニット長の出口康夫文学研究科教授にシーズン2開催の経緯と意義について伺った。

オンライン化で男性偏重の参加者に大きな変化が

「これまでの公開講座では届かなかった層にまで届いた」

出口教授が「立ち止まって考える」シーズン1で得た手応えだ。従来京都大学が開催していた公開講座や講演会の参加者の多くは定年退職後の男性だったのに対し、シーズン1の視聴者の6割以上は40歳以下。特に印象的だったのが子育て世代の視聴だったという。

出口教授は「SNS上の反響を見たところ、『子育て中でも、家庭の中で家事をしながらでも聞ける』と、非常に評価していただいている声が多数ありました」と語る

これまで公開講座は土日に開催していたが、子育てに土日はない。必然的に、子育て世代の参加は難しかった。オンライン化はその垣根を取り払った。

京都大学人社未来形発信ユニット長の出口康夫文学研究科教授

さらに、シーズン1の視聴者を分析すると、興味深いデータが得られたという。

「視聴者の男女比はほぼ1:1でした。学部によって違いはあるものの、日本の大学ではまだまだ男性が多数派です。人文系は女性が多いのが一般的ですが、京大の文学部生は男性が5割以上を占めています。そこには様々な社会的な制約や要因が働いていると思われますが、オンライン化によってそういった制約が取り除かれたことで、人文学ひいては大学における学びに対する姿勢には男女の差がないことが改めて示されたと思います 」

事実、文部科学省の令和2年度学校基本調査によれば、大学に在籍する女性の割合は45.5%、大学院の場合は32.6%と男性よりも少ないのが現状だ。シーズン1の視聴者データは、男性だけでなく、女性にも高等教育機関での学び直しのニーズが確実に存在していることを明らかにしたといえる。

知と現実を交差させ、「21世紀型教養の再構築」ねらう

京大ではシーズン1成功を受けて、直後からシーズン2の構想が練り始められた。シーズン2の開催時期は2月。大学入試シーズンだからこそ、大学に対する社会的関心が高まる時期でもある。今後、京大受験を視野に入れる高校生が講義を世界中から視聴できることも理想的だった。

今回は10名の講師がそれぞれ2回ずつ、科学哲学や美学などバラエティに富むテーマで講義を行う。さらに、シーズン2ではあえて講師陣を文学部に絞ったという。そのねらいは、「21世紀型教養の再構築」にある。

「20世紀までの教養はグレート・ブックスに象徴されます。古代のプラトンから始まりマルクスなども含む一連の書籍を文明のバックボーンと認定し、その伝統を次の世代に伝えることに主眼がおかれていました。21世紀型教養では、古典的な知の内容と現実に起こっていることを交差させ、両者のダイナミズムの中から新たな知を生み出すことを目指します」

先人たちの教えである古典は、現代の我々にとっても思考の手助けになり得る。これらの知識を生かすことで、現代の様々な問題の解決策を探っていくというわけだ。

21世紀型教養のもう一つの特徴は、知の伝達の双方向性だ。従来は講師から視聴者へ一方的に講義が行われていたが、YouTubeの講義では双方向かつリアルタイムでのやり取りができる。これにより、講師と視聴者が講義を共に創りあげていくようになる。

オンライン講義で「知識の身体化」が進んだ?

新型コロナウイルスは、日本中の大学に影響を与えた。京都をふくめた関西圏での感染者数が増加したこともあり、出口教授も以前よりコロナウイルスを身近に感じるようになったという。

「12月になってから我々の生活圏にも感染が広まってきたことが、ますます実感できるようになりました。 試験もオンラインのレポートとなり、大学のキャンパスにも学生は戻ってこず、学期末の風景も様変わりしました」

オンライン化に大きく舵を切った大学では、学生たちの学び方にも変化が生まれた。

「学年が終わり、大学では講義アンケートの分析が始まりました。これは昨年から実施してきたオンライン講義やハイブリッド型の講義など、新たな試みを評価する機会にもなるでしょう。中には『小レポートの提出の機会が増え、オンラインの方が勉強ができた』という声もあがっています」

出口教授はレポートの提出は学生にとって知識を身体化させる機会になったのではないかと考察する。

「レポートを提出するためには、人はまず講義を聞き、知識を自分の中に入れた上で、書くという能動的な行為を通じてそれを身体化させます。行為を介して知識をダイナミックに出し入れするのは、単に聞いているだけとは決定的に違う。レポートを書いたことは、何かを「した」記憶として身体に残る。それは自信につながるでしょう」

レポートを書いても時が経てば内容を忘れてしまうが、書いた事実は消えない。そして、書いたレポートはデータとして手元に残り続ける。そのデータを取り出すことで、その知識を再び「復元」することもできるだろう。

「僕の講義を受けて毎回小レポートを書いていた学生さんが、何十年後かに孫から哲学の質問を受け、クラウドから自分の書いたレポートをダウンロードして答えながら、自分でも思い出せることに感心する。そんな光景が見られるかもしれません。」

多くの学生で賑わった京大のキャンパスも、現在は人影まばらだという Getty Images

京大から、日本の人文知を世界へ

本講座には、シーズン2のスタート以外にも新たな取組が始まっている。シーズン1の英語字幕化による世界への発信だ。特に、出口教授はアジアを重視する。

「アジアはまだ激動期にあり、クーデターが起きたりもしています。その渦中にいる人々にも人文知を届けたい。パンデミックはもちろんですが、それ以外の様々な困難の中にいる人々にも講義を視聴していただいて、より良い未来を考えるきっかけにしてもらいたいと思っています」。配信は留学のきっかけにもなる。人文学での日本への留学という未来も魅力的だろう。

さらに、今話題の音声配信アプリ「Clubhouse」でのジョイントセッションにもチャレンジした。

「少し前にClubhouseのセッションをやってみたのですが、『オンライン講義を聞いていた』という方が入ってこられて、話が盛り上がりました。また、シーズン2の期間中には登壇される先生方とジョイントセッションも行いました。これも、幅広い方に参加していただくための新たな試みの一環です」

これもまた、21世紀型教養の新たな形になるのかもしれない。既に開始したシーズン2の熱量はシーズン1と変わることなく盛り上がっている。2ヶ月間続く企画の中には、視聴者にとって興味深い内容も多く、ウィズコロナ時代を生き抜く際の一助になるだろう。

公式webサイト
https://ukihss.cpier.kyoto-u.ac.jp/2313/

プロジェクト動画
https://youtu.be/TuN6S8y0liI

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