記事

「町田市民は、東京と神奈川の間で押し付け合われていると気づいてる」 国道16号線がつなぐ「郊外」のリアル 三浦しをんさん、柳瀬博一さん対談

1/2

 都心から30キロほどをぐるり、コロナ禍の移住先として最近注目を集めているのが国道16号線のエリア、首都圏の「郊外」だ。横須賀、横浜、町田、八王子、川越、柏、木更津……と16号が走る中でも、今回は町田にフォーカス。長年町田に暮らした作家、三浦しをんさんに聞く。

【写真】この記事の写真を見る(11枚)


©新潮社

◆ ◆ ◆

「まほろ駅前」シリーズのモデルは町田だった

柳瀬博一(以下「柳」) しをんさんと初めて会ったのはなんと2005年、なぜ覚えているかと言えば、2004年放映の大河ドラマ『新選組!』の話を実に熱く語られていたからなんです。

三浦しをん(以下「し」) 語りましたねー、しかも合コンの席で。柳瀬さんは当時、編集者をしてらしたので、「説明が面倒だから、小説家だってことは黙っておこう」と思って、私は町田の本屋さんに勤めていると職業詐称したんですけど(笑)。そこから町田の話で盛り上がり、初対面ながら柳瀬さんは「国道16号線」の話を延々となさっていました。縄文時代から、今の16号線沿いのエリアには人が多く住んでいた、とか。「そうだったんだ、おもしろいなあ」と思ったんですが、柳瀬さんはその後もずっと、16号線の地形や歴史や文化を調べ続けて、このたびめでたく、『国道16号線』というご本を出版された。16号線への愛と執念の結晶ですね。

 そうなんです。しをんさんはそのすぐ後に『まほろ駅前多田便利軒』(以下『まほろ』)を執筆されました(書籍化は2006年、直木賞受賞作に)。何を隠そう、作中で、亀尾川で藻を取って石を洗っている婆さんは私でして、あの川は鶴見川です(笑)。『まほろ』シリーズ(『まほろ駅前番外地』『まほろ駅前狂騒曲』と続いた)の舞台のモデルとなったのは町田ですし、その後の『ののはな通信』は横浜のミッション系の女子高生が主人公ですし、町田から横浜にかけては、お詳しいから小説の舞台にされていますね。

 はい、中高時代は横浜の学校に通っていたので。横浜は、黄金町のあたりには雑多な町の面白さが、伊勢佐木町には映画館や本屋さんがあって、都会的で楽しい町です。

 林海象の『濱マイク』シリーズはあのあたりですね。

 学校帰りに、横浜日劇(現在はシネマ・ジャック&ベティ)で見ましたよ! 趣のあるいい映画館でした。

 国道16号線は、地図の左下の横須賀の走水からですと、横浜・関内の横浜スタジアムのあたりを抜けて、国道1号線と交差した後、緑区界隈を抜けて、町田の方向へ行きます。八王子を経て、埼玉や千葉方面に抜けて最後は木更津の先の富津まで、実延長はぐるりと326.2キロです。 

 町田はその「16号線エリア」の代表格の町です。『まほろ』シリーズでは一応、「まほろ」という架空の町に名を変えていますが、町の縁をなぞるように16号線とJ R八王子線が走り、「ハコキュー」が交差している。

 作中のJ R八王子線がJ R横浜線で、「ハコキュー(箱根急行)」が小田急線です。まんま、町田ですね(笑)。

「郊外=無個性」という安易なレッテルは許しがたい

 ハコキューは下北沢を通っていますもんね。映像化(『まほろ』三部作は映画とテレビドラマになった。主役の二人を演じた瑛太と松田龍平の絶妙なコンビぶりが話題に)の際は、町田総出で撮影に協力してくれたとか。でも、実は『まほろ』まで、町田はあまり小説の舞台になっていなかった気がします。

 そうかもしれませんね。郊外の町はどこもかしこも同じで無個性だと思われがちですし。ただ私は、すべての町を「郊外」とまとめてしまうのが本当に腑に落ちなくて。実際は当然ながら、それぞれの町に独自の色や個性があるわけで、まほろのモデルにした町田は、こういう町なんだよ、と小説で書きたかったんです。「郊外=無個性」という安易なレッテルは許しがたいな、と。

 郊外とか雑に言うな、ですよね。何度も16号線を走っていますが、徐々にまったく違う景色が連なっていき、それぞれ町や地形で全く違う。

 例えば下町に住む人たちだって、「下町=人情」といったテンプレで括られるのには違和感があると思います。人情ももちろんあるけれど、それだけではないはずです。

柳 下町だってそれぞれ、郊外だってそれぞれ、一緒くたにせずに解像度を上げてそれぞれの場所を見るべきですね。町田住民にしたって、ハコキューに乗って東京に通われる方もいれば、地元で商売をする人もいれば……。

 ちょっと待たれい! 町田は東京都ですよ? 「東京に通う」という言い方は聞き捨てなりませんな。まあ、なぜか町田市民、町田駅前で買い物する時も「町田に行く」って言うんですが。家があるのも町田なのに(笑)。

なぜ町田は東京都になったのか

 あ、失礼いたしました(笑)。ただ、『国道16号線』でも書いたのですが、町田は、長年属していた武蔵国多摩郡が分割され、明治維新では神奈川県に入ったんですよね。

 そうなんですってね。今も地図を見ると町田は、神奈川県へ半島みたいな形で飛び出しています。町田市民は薄々、「残念ながら、どうも自分たちは東京と神奈川の間で押し付け合われているらしい」ということに気づいてるんですよ。なぜ「はみだしっ子」扱いなのか、私も理由までは知らなかったのですが、柳瀬さんのご本を読んで納得しました。『まほろ』で描いたような、多様な人々が集まって織り成す進取の気性があり、同時にワイルドなところもあるからだったのか、と。

 リベラル気質とヤンキー気質がセットとでもいうのか(笑)、東京になった理由はその気質にありますね。

 はい、目からウロコでした。ご本の内容に具体的に触れてしまいますが、大丈夫ですか。

 ぜひ。

 詳しくは『国道16号線』をお読みいただきたいのですが、明治時代、多摩地域では自由民権運動が非常に盛んでした。町田、日野、立川ラインですね。そもそも新選組が出てきたのも、日野市のあたりですし。みんな元気に自由民権を叫ぶので、神奈川県側が「こいつら激しく活動しすぎて危ないから、いらない」と、首都である東京に町田を押し付けたそうなのです。

 今も町田には「自由民権資料館」がありますよね。白洲正子さん次郎さんの住んだ「武相荘」のある鶴川にあります。

 「武相荘」も立派な農家のつくりですし、「新しい世の中とは」と考え追求する豪農が、多摩にはいっぱいいたんでしょうね。

 すぐそばに今はコメダ珈琲とUNIQLOがあります。

 町田に詳しすぎて怖いですよ、柳瀬さん(笑)。今の市長さんは自民党系ですが、町田は市政においても、割と代々、革新系の政党が強いのかなという印象がありますね。昔から福祉政策にも力を入れていますし。

あわせて読みたい

「町田市」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    コロナ禍で「貧困」「困窮」「生活苦」のテレビ報道が急増!だが生活保護は…?

    水島宏明

    04月11日 15:34

  2. 2

    山下達郎が初めて語った戦友・村上“ポンタ”秀一

    文春オンライン

    04月11日 14:51

  3. 3

    ユニクロの柳井氏への批判が胡散臭い 人権問題だからではなく嫌中だから 技能実習生問題にみる国内の人権問題

    猪野 亨

    04月11日 08:53

  4. 4

    まん延防止措置が誤った形で使われている

    大串博志

    04月11日 08:22

  5. 5

    連綿と続く「ワクチン忌避」の歴史と課題。なぜ日本はワクチン競争で敗北したのか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    04月11日 08:26

  6. 6

    原発処理水の海洋放出を決めた菅内閣は、言い出しっぺの細野豪志氏をもっと大事にした方がいいだろう

    早川忠孝

    04月11日 17:10

  7. 7

    日本学術会議問題 会員の任命拒否と組織のあり方の議論は別

    小宮山洋子

    04月11日 18:36

  8. 8

    中途半端な自粛要請で「コロナ特需」の飲食店

    内藤忍

    04月11日 11:59

  9. 9

    使い方覚えられない? シニア世代のスマホ利用率や利用実態から習熟について考察

    S-MAX

    04月11日 16:56

  10. 10

    観光先の海で強い揺れ… 津波から大切な命を守れますか? 鎌倉で考えた防災

    清水駿貴

    04月11日 08:04

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。